ふたつの目標設定方法:「松下方式」と「SONY方式」
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最終更新日:2013/05/06
仕事の方法論
目次
1.ふたつの目標設定方法
目標を設定することは、何らかの分野で進歩するための、効果的な方法です。目標を設定することによって、進歩するための戦略を立てることもうまくいきますし、モチベーションも上がるからです。
より効果的な進歩を達成することに役立つ目標を設定するには、コツがあるのではないかと思います。私の場合、ふたつの目標設定方法を使っています。私は、そのふたつの方法に、「松下方式」と「SONY方式」という名前を、勝手につけています。
2.「松下方式」と「SONY方式」のきっかけとなった、先生の雑談
「松下方式」と「SONY方式」を思いついたのは、中学生のとき、社会科の先生から聞いた話からです。どんな文脈だったかは忘れてしまいましたが、社会科の先生が、松下のアプローチとSONYのアプローチは対照的である、という雑談をしてくれました。当時は、松下(現パナソニック)もSONYも大変元気だったのですが、先生の雑談は、両者のアプローチは対照的である、という話でした。
(1) 松下のアプローチ
たとえば、松下が、携帯用音楽プレーヤーを開発するとします。ユーザーは軽くて小さいプレーヤーを求めていることがわかっているとします。
このとき、松下は、「1g、1mmでもいいから、今よりも軽くて小さいプレーヤーを開発する」という、すこし工夫すればおそらく確実に到達できる目標を立てます。そして、全力でこの目標に取り組み、この目標を達成します。そうすると、松下は、「1g、1mmでもいいから、今よりも軽くて小さいプレーヤーを開発する」という目標を立てます。そして、再度、全力で、この目標に取り組み、この目標を達成します。この過程を何度も繰り返すことで、できる限り軽くて小さい携帯用音楽プレーヤーを開発します。
松下のアプローチは、確実に実現できる小さな改善を何度も繰り返すことで、現在のものを、じりじりとよりよいものに変えていくというアプローチです。確実に、改善・改革するアプローチです。
(2) SONYのアプローチ
たとえば、SONYも同じように、携帯用音楽プレーヤーを開発するとします。ユーザーが軽くて小さいプレーヤーを求めていることがわかっている、という点も同じです。
しかし、この状況でSONYが立てる目標は、松下とは正反対です。SONYは、「今の5分の1の重さ、5分の1の大きさのプレーヤーを開発する」という、一見すると不可能な目標を立てます。そうなると、SONYのエンジニアは、従来のやり方の延長線上に解決方法を見つけることができません。そもそもの前提を疑ったり、今までにない発想を試したりすることを強いられます。この試行錯誤の結果、ときには、今までにない発想がうまくいき、一気に革命的な製品を開発することに成功することがあります。
SONYのアプローチは、現在のものをよくするというアプローチではありません。現在のものとは断絶した製品を生み出すためのアプローチです。改善・改革ではなく、革命を目指すアプローチです。
(3) 目標設定に応用して、名前をつけた
松下とSONYの話は、先生の雑談に過ぎません。出典は明らかではないですし、内容の真偽も正直疑問です(そんなに単純じゃないだろう、と思います)。しかし、この話は、当時もおもしろく感じましたし、それからずっと印象に残っていました。
その後、私は、目標の効用や効果的な目標設定の方法について考えていたときに、この先生の話を思い出しました。そして、松下のやり方とSONYのやり方は、ふたつの目標設定の方法なのではないかと思いつき、ふたつの目標設定方法に、「松下方式」と「SONY方式」という名前をつけました。
3.「松下方式」と「SONY方式」と、その使い分け
(1) 「松下方式」のポイント
「松下方式」のポイントは、次の3つです。
第一に、現状をベースにして、改善を志すことです。今あるものを、どのようにしたら改善できるか、という観点から考えて、今あるものを改善するための目標を立てます。
第二に、改善の幅は小さくてもいいから、短期間で確実に実現できるものを目標にすることです。無茶な目標や、達成までに時間のかかる目標は立てません。改善の幅は小さくても、短期間で確実に達成できる目標を設定し、達成すれば、その分着実に前に進みます。
第三に、何度も目標達成のプロセスを繰り返すことです。一度目標を達成したらそれで成功、というわけでは、全然ありません。何度も目標達成のプロセスを繰り返す必要があります。
(2) 「SONY方式」のポイント
「SONY方式」のポイントは、次の2つです。
第一に、現状の延長線上では達成不可能な、一見無茶な目標を立てることです。一見無茶な目標を立てることによって、現状の枠にとらわれない解決策を考えることができます。普段なら面倒で実行しないことを、実行する気になるかもしれません。
第二に、そもそもの考え方や当たり前の前提を疑い、ゼロベースで考えることです。当然の前提とされている考え方を疑って、そもそものところからゼロベースで考えることで、これまでとは別の次元に進める可能性があります。
(3) 「松下方式」と「SONY方式」の使い分け
「松下方式」と「SONY方式」は、どちらが正しいというものではなく、お互いに補い合うものなのではないかと思います。
ひとつの使い分け方法として、私が意識しているのは、「松下方式」で着実に足下を固めることで、今と近い将来を確固たるものにして、「SONY方式」で少し遠い将来かもっと遠い将来に花開きそうな分野に種をまく、というものです。
現在進行形で取り組んでいること、現在進行形で自分の日々の生活を支えているものは、その現状を活かした上で、その現状を継続的に改善するのが合理的です。わざわざ破壊する必要はありません。そのため、この分野には、「松下方式」の目標を設定するのがよいのではないかと思います。
しかし、現在進行形で自分の日々を支えているものが、遠い将来もそのまま確実に自分を支え続けてくれるとは限りません。そこで、今はまだたいしたことはないけれど、少し遠い将来やもっと遠い将来に、自分にとって大切な分野となりそうなものに種をまく必要があります。この分野は、現状を大事に保存する必要はないですから、ちょっと大胆に、「SONY方式」によって、ゼロベースで進歩を促すのがよいのではないかと思います。
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