出題者と対話する(問いを設定するコツ)
公開日:
:
書き方・考え方
1.問いを設定するコツ
私は、本業のかたわら、非常勤講師として、大学でひとつの講義を担当させてもらっています。講義をすること自体は、とても楽しくて勉強になるので大好きなのですが、ひとつだけ大変なのは、単位認定のための採点をしなければいけない、ということです。
まさに今は、レポート採点期間真っ最中。今週中に、受講生から提出されたレポートを採点し、講評と各レポートへのコメントを付けて返却しなければいけません。2,3日前から、採点が思うように進まず、うんうんうなっています。
採点に疲れちゃっているからか、ついつい、現実逃避的なことをしてしまいます。ひとつまえの記事で、私は、ガチレポートを書いてみたのですが、これも、現実逃避の一環です。
でも、結果的には、自分でレポートを書いたことは、レポート採点のためにも、役に立ちそうです。自分で一本ガチレポートを作ってみたら、問いを設定するコツが、何となく掴めたような気がするからです。
このコツを抽象的に表現すれば、「出題者と対話する」ということになります。以下、「出題者と対話する」とはどういうことなのかということと、私が倉下さんのレポートに取り組むことを通じて、どのような対話を試みたのか、まとめます。
2.問いを設定することによって、出題者と対話する
(1) 出題者の意図と問いの設定
a.レポート課題には、出題者の意図がある
レポート課題に必ず存在するものは、出題者です。レポート課題は、あらかじめ存在するものではなく、出題者によって出題されることによって、はじめて生まれます。
出題者は、レポートを出題するときに、何らかの意図を持っています。何の意図もなくレポート課題を出すことはありません。
つまり、レポート課題には、必ず、出題者の意図があります。
b.問いの設定によって、出題者の意図を受け止め、応える
レポートを書くときは、この出題者の意図がポイントです。出題者の意図を受け止めて、出題者の意図に応えたレポートは、高い評価に値します。(それは、レポート課題が育成しようとしている能力が、まさに、その文書を受け取るものの意図をきちんと受け止めて、その意図にきちんと応える能力だから、なのではないかと思います。)
では、出題者の意図を受け止め、出題者の意図に応えるには、どうしたらよいでしょうか。私の回答は、問いの設定をうまく使うこと、です。
そして、このことこそ、私が今回自分でレポートを書くことによって気づいたコツです。
つまり、
- まず、問いの設定は、出題者の意図を受け止め、出題者の意図に応えるための手段として使える
- さらに、出題者の意図を受け止めて出題者の意図に応えることを意識して問いを設定すると、うまくいく
ということです。
(2) 問いを設定することで、出題者の意図を、素直に受け止める
問いの設定とは、与えられた課題の範囲内で、レポートとして検討する問題を限定したり具体化したり前提をはっきりさせたりする作業です。
課題の範囲内でなければいけないことは大前提なのですが、しかし、課題の範囲内なら何でもよい、というわけでもありません。好ましい問いの設定と、好ましくない問いの設定があります。
これを分けるのが、出題者の意図です。
出題者の意図に沿って問いを設定するなら、それは、好ましい問いの設定です。出題者の意図に沿わずになされた問いの設定は、(仮にその問いの設定が、与えられた課題の条件をきちんと満たしていたとしても、)あんまりよくない問いの設定です。
レポート出題者の立場から見れば、これは、問いの設定を見れば、出題者の意図を受け止めているのか、受け止めていないのか、がわかる、ということです。
ということは、レポートを書く立場からすれば、問いの設定によって、出題の意図をどのように受け止めたかを表現することができる、ということです。問いを設定することを通じて、レポート出題者に対して、「私はこのレポートの出題の意図をこのように受け止めましたよ」というメッセージを送ることができるのです。
こうして、問いの設定によって、出題者との対話をはじめることができます。
(3) 問いを設定することで、出題者の意図に、自分なりに応える
a.出題者の意図に応えられているか否かの分岐点
レポートのよしあしは、かなりの程度、出題者の意図に応えられているか、によって決まります。
そして、この「出題者の意図に応えられているか」の分岐点は、一般的に学生が考えているよりも、手前にあります。
レポートとは、問いを立てて、その問いに対する結論と、その結論を導く理由を示す、というものです。
- 問い
- 結論
- 理由
が、レポートの3要素です。
多くの学生は、「出題者の意図に応えられているか」の分岐点は、レポートの結論部分や理由部分によって決まると考えています。出題者が持っている考え方と一致する結論を述べるとか、厳密な論理展開や緻密な資料分析による理由付けとか、そういうものによって決まる、と考えています。
しかし、分岐点はもっと手前、問いの部分です。「どのような問いを設定するか」、これが、「出題者の意図に応えられているか」の分岐点です。
b.出題者の意図に自分なりに応えられる問いを設定する
(a) どんなに上手に答えても、出題者の意図に応えられない問い、が存在する
問いの部分が分岐点である理由は、「その問いにどんなに上手に答えても、出題者の意図に応えたことにはならない」という問いがありうるからです。レポートに設定した問いが、出題者に「そんなこと聞いてないんだけどな」というふうに捉えられてしまったら、その時点で、そのレポートによって出題者の意図に応えることは不可能です。ジ・エンド。
問い自体が、出題者の意図に応えうる問いであることによってはじめて、その問いを検討することによって出題者の意図に応えていくことが可能になります。
(b) 問いを設定するだけで、出題者の意図に(ある程度)応えることができる
逆に、きちんと問いを設定すれば、それだけで、出題者の意図に、(ある程度は)応えることができます。
通常、出題者は、なんらかの問題意識を持ってレポートを出題します。その出題に対して、出題者が持っている問題意識にぴったり合うかたちで問いを設定することができたなら、出題者は、それだけで、「この人は自分の問題意識をよくわかっている。」と感じます。
さらに、設定された問いの中には、出題者の意図に沿っているんだけれど、+αの何かを加えている、というような問いもあります。出題者の意図を超えながら、出題者の意図と同方向を向いている問い。このような問いを設定することができれば、それだけで、出題者に、「私はあなたの出題の意図を十分に理解しています。その上で、私としては、この問題を考えてみたいのです。」というメッセージを送ることができます。
(4) ここまでのまとめ
ここで、ここまでの一般論をまとめます。
第一に、レポートにおいて、問いの設定は、出題者と対話するための有力な手段である。問いの設定によって、
- 出題者に、あなたの意図をまっすぐ受け止めましたよ、というメッセージを送る
- 出題者に、あなたの意図に対して、この方向で応えていくつもりですよ、というメッセージを送る
ということが可能になる。
また、出題者と対話するための手段であると自覚することによって、よい問いの設定ができるようになる可能性が高い。
3.私が試みた、出題者との対話
以上の一般論を前提に、では、私自身は、どのように出題者である倉下さんとの対話を試みたのか、思考過程をさらします。
これが正解、という趣旨ではありません。足りないところや短絡的なところもたくさんあるでしょう。しかし、出題者との対話とは具体的にどんなものなのか、それをイメージする素材にはなるのではないかと思います。
以下の記述は、適宜、上の私のレポートと照らし合わせて読んで頂ければ幸いです。
(1) 問1の問いを設定する
a.問いを設定するときに、考えたこと
(a) 動機付け
問1を読んでまず気づくのは、12個の検討対象がすべて、「・・・怪獣を倒して地球を守った」という記載になっていることです。ここから、「怪獣を倒して地球を守った」よりも前の部分、ここに至る理由の部分の違いを検討させるのが、この出題のポイントなのではないか、という見当がつきます。
エントリタイトルは、「ヒーローの動機付け」です。とすると、出題者は、「怪獣を倒して地球を守った」に至る理由の部分を、「動機付け」の問題であると把握して、この違いについて検討してほしいのだろう、と推測できます。
さらに、「問1」の前の<ヒーローの標準例>の説明には、ヒーローがありがたい存在であることとあわせて、「その心の中には、「これが自分の使命だから」という思いがあるのでしょう」との記載があります。ということは、出題者は、<ヒーローの標準例>は、「これが自分の使命だから」を動機付けとしている、と考えている、ということがわかります。
これらを総合すれば、動機付けの違いについて検討させることが、出題者の意図であることは、ほぼまちがいありません。
ここを強調するために、「怪獣を倒して地球を守った」の部分を固定することにしました。つまり、12+1のヒーローたちによる行為&結果は「怪獣を倒して地球を守った」だけであり、その「怪獣を倒して地球を守った」という行為&結果はまったく同一である、という前提を置くことにしました。
(b) 「偉さ」「尊さ」「ランキング」
次に、問1の課題文は、「上のようなヒーローを<標準例>とし、以下のヒーローたちの「偉さ」「尊さ」「ランキング」について自由に検討しなさい。」です。
「偉さ」「尊さ」「ランキング」について検討することを求めています。
ここで、「偉さ」「尊さ」「ランキング」という3つが列記されていることは、何か意味があるのでしょうか。考えてみたのですが、私にはわかりませんでした。
そこで、動機付けの違いを検討させることが出題者の意図だという認識に沿って、ここの区別はしないことにしました。「偉さ」「尊さ」「ランキング」をあわせて、「ヒーローの価値」という同一の概念で扱うことにしました。
(c) 12個のケースごとの違い
課題文には、標準例のほかに、12個の例が並んでいます。12個それぞれがいろいろと考えさせられる事情を抱えています。そのため、この12個の違いをどのように扱うか、という点を、次に考えました。
12個もの例は、ひとつひとつについての違いを緻密に検討してほしい、という出題者の意図があらわれているのかもしれません。だとすれば、結論はどうあれ、12個の違いをひとつひとつ検討する必要があるようにも思えます。
しかし、この点は必須ではないだろう、と理解しました。
12個それぞれに対する具体的な検討が必要になるか否かは、考え方次第です。個別の具体的検討を必要としない考え方を示すことができれば、12個の違いについて詳細に検討しなくても、出題者の意図から外れた問にはならないだろう、と考えました。
b.そして、どんな問いを設定したか
以上から、私は、こんな問いを設定しました。
すなわち、本レポートで検討する問いは、
- 「怪獣を倒して地球を守った」という行為&結果は同一であるが、
- 「怪獣を倒して地球を守った」という行為&結果に至る動機付けが異なる場合に、
- 「ヒーローの価値」は異なるのか。
という問いである。
この問いを設定することによって、私は、出題者である倉下さんに、「倉下さんの問題意識は、「行為&結果が同一でも、動機付けが異なったら、ヒーローの価値は異なるんですかね?」というものではないでしょうか。私はこのことを考えますよ。」というメッセージを送ったわけです。
(2) 問2の問いを設定する
a.問いを設定するときに考えたこと
問2の課題文は、「「怪獣を倒したら、負けかなと思っている」と言う存在は、ヒーローと呼びうるか自由に検討しなさい。」です。問1に比べると、短いですし、制約が緩いです。自由に検討するといったって、いったい何を検討したらよいのか、迷ってしまいます。
この問2の問いを設定するときに、私が考えたのは、次のようなことです。
(a) 問1→問2の流れを重視する
まず、問2が、問1の次の問2だということを重視しました。
問2は、単独で出題されたものではありません。問1があって、その次に配置された問いです。
そのため、問1→問2という流れがあるはずです。
そこで、ここにどんな流れがあるのだろうか、ということを考えました。
問1は、私の理解では、ヒーローの動機付けの違いを検討するものです。「行為&結果が同一だけど、動機付けが異なる場合に、ヒーローの価値は違うのか?」が、問1です。
そこで、私は、問2を、問1からの流れで何かを検討させるものではないか、という問題意識で、分析しました。
(b) 「怪獣を倒したら、負けかなと思っている」と言う存在
問2は、「「怪獣を倒したら、負けかなと思っている」と言う存在」をヒーローと呼びうるかを問うものです。
このうち、ヒーローと呼びうるか、というのは、ヒーローなのか、と同じ意味だと理解しました。(ヒーローという客観的な存在と、ヒーローと呼ばれる存在との違いは、出題者の意図には含まれないだろう、と言う考えから。)
となると、キーは、「「怪獣を倒したら、負けかなと思っている」と言う存在」です。これは何を意味するのでしょうか?
論理的には、いろいろと考えられます。
問1との流れの中で出てきている「怪獣を倒して地球を守る」ということとの関係を考えてみれば、
- 「怪獣を倒したら、負けかなと思っている」と言う→(しかし)怪獣を倒す→地球を守る
- 「怪獣を倒したら、負けかなと思っている」と言う→(だから)怪獣を倒さない→地球を守る
- 「怪獣を倒したら、負けかなと思っている」と言う→(だから)怪獣を倒さない→地球を守らない
という3パターンが考えられます。
このうち、パターン3は、検討しないことにします。怪獣も倒さず、地球も守らない、という存在をヒーローと呼び得ないことは明らかですし、そもそもヒーローと呼びたいとも思えません。なので、検討する意味がありません。
となると、パターン1とパターン2のどちらかが出題者の意図ではないか、という見当がつきます。
このどちらかは、なかなか悩ましい問題です。
エントリタイトルである「ヒーローの動機付け」を重視すると、パターン1なのかな、という気もします。「怪獣を倒したら、負けかなと思っている」ということを、動機付けの一種だと考えると、「怪獣を倒して地球を守る」を固定化したパターン1の方がよさそうです。
しかし、私はパターン2で考えることにしました。それは、問1の検討を、問2でさらに進める、という流れでこの問いを理解したからです。
(c) パターン2で考えることにした理由
パターン2は、
- 「怪獣を倒したら、負けかなと思っている」と言う→(だから)怪獣を倒さない→地球を守る
というものです。
このように理解すれば、問2で検討する存在は、「地球を守った」という結果をもたらした点で同じですが、「怪獣を倒して」という手段をとっていない点で、問1のヒーローたちと異なります。
問1が「怪獣を倒して地球を守った」という行為&結果を固定していた(また、このことによって、動機の違いに焦点を当てていた)ことと対比すると、問2は「怪獣を倒して地球を守った」のうち、「地球を守った」だけを固定して、「怪獣を倒して」をいろいろと変化させることで、それでもこの存在をヒーローと呼びうるか、を検討させるものだ、と理解する、ということです。
このように問2を理解することが、出題者である倉下さんの意図に沿った理解なのかについては、迷いもありました。問2も動機付けに焦点を置いて理解する方がよいのだろうか、とも考えました(つまり、パターン1)。でも、そうだとすると、問1と問2の検討内容が、同じようなことになってしまいます。それよりは、問2なりの新しい視点を提供できた方がおもしろいので、問2をパターン2で理解することにしました。
b.そして、どんな問いを設定したか
以上の検討を前提に、私は、
まとめると、問2は、
- 「怪獣を倒して」という要素を満たすことなしに「地球を守った」という要素を満たした存在がいたとして、
- その存在は、ヒーローと呼びうるのだろうか
という問いの検討を求めるものである。
というかたちで、問いの設定をしました。
なお、ここで設定した問いは、問2の課題文から若干距離がある問いです。そのため、問2の問いの設定については、多少丁寧目に、なぜこの問いを設定したのかを記載しました。
4.おわりに
倉下さんのレポートに取り組むことで私が掴んだ「問いを設定するコツ」は、以上のとおりです。
難しいことではありません。
それは、標語的には、「出題者と対話する」ことです。
レポートにおいて、問いの設定は、出題者と対話するための、強力な手段です。うまく使えば、問いの設定によって、レポート作成者は、出題者に対して、
- 出題者に、あなたの意図をまっすぐ受け止めましたよ
- 出題者に、あなたの意図に対して、この方向で応えていくつもりですよ
というメッセージを送ることができます。
また、出題者と対話するための手段であると自覚することによって、よい問いの設定ができるようになります。
●
この記事を書いたのも、まあ、レポート採点からの現実逃避です。。。でも、この記事を書いたら、レポート採点のやる気がちょっとわいてきました。また、レポートの講評の半分は完成しちゃいました。
さて、いい加減観念して、腰を据えて、今日中にレポート採点を終えちゃうことにします。
スポンサードリンク
関連記事
-
「自分以外の読み手を想定している&書いたあとで整理する」の領域に位置づけられる、Postach.ioとFargo
1.「自分以外の読み手を想定している&書いたあとで整理する」候補の、Postach.ioとF
-
「オブジェクト型ワード・プロセッサ」という夢と、その実現
1.大学生のときに共感した「オブジェクト型ワード・プロセッサ」の夢と、その後の10年 (1) 「オブ
-
仕事文書の作り方:目的を意識し、目的に合った形式と内容で作成する
1.はじめに 私は、仕事において、多くの文書を作ります。その経験から学んだのは、仕事文書を作るため
-
「ヒーローの動機付け」に対するレポート(問いの設定の一例)
【問題】 R-style » ヒーローの動機付けより ヒーローっていますよね。正義の味方。
-
思考を育てるシステムの構成要素としてのEvernoteとブログ
1.Evernoteが、思考するためのツールである理由は、ブログがあるから (1) Evernot
-
何度も読み返すこと・何度も書き直すこと
1.いちばん基本の読書術・いちばん基本の文章術 (1) いちばん基本の読書術 世の中には、いろん
-
WorkFlowyで、離れた場所を同時に操り、文章を書く
1.WorkFlowyで長文を書くことを助けてくれるのは、階層構造だけではない WorkFlowy
-
なぜ、WorkFlowyという道具は、「やりたい」のつまみ食いの集積を完成文書へ統合することを可能にするのか?
1.はじめに 昨日、これを書きました。 そのときどきの「やりたい」のつまみ食いを、文書の完成へと統
-
自分の考えを正確にわかりやすく伝える文章を書けるようになるために役立つ本のリスト
この記事は、大学の講義で使うために作成したメモを、若干整えたものです。 私がこのメモの初版を作った
-
「WorkFlowyで本を書いた人からの手紙」
1.はじめに こんにちは。少しずつ暖かくなってきましたが、いかがお過ごしでしょうか。 先日さし上げた