自分の考えを正確にわかりやすく伝える文章を書けるようになるために役立つ本のリスト
この記事は、大学の講義で使うために作成したメモを、若干整えたものです。
私がこのメモの初版を作ったのは3年ちょっと前で、その後、よい本を見つけるなどするたびに、少しずつ改訂してきました。先日、『数学文章作法 基礎編』というよい本に出会い、多少大きめの改訂をしましたので、この機会に、ブログ記事として公開します。
目次
1.自分の考えを正確にわかりやすく伝える文章を書けるようになることのメリット
自分の考えを正確にわかりやすく伝える文章を書けるようになると、いろんなメリットがある。大きなものとして、次の3つ。
(1) 客観的な価値を生み出せる
自分の考えを正確にわかりやすく伝える文章は、多くの場面で、価値を生み出す。
学生なら、レポートや試験答案にこのような文章を書くと、よい成績という価値を生み出すことができる。
仕事においても、報告書や議事録を書くときに、このような文章を書けると、いろんな人の役に立つ。
(2) 自分の考えを把握できる
自分の考えを正確にわかりやすく伝える文章を書くと、自分の考えを自分で把握できる。
多くの場合、言葉を離れて、考えは存在しない。なんとなく考えが思い浮かんだ気がしたときに、その考えを把握するための一番確実な方法は、その考えを文章に表現することである。
自分の考えを正確にわかりやすく伝える文章を書けたなら、それは、自分でその考えを把握できた、ということである。
(3) 自分以外の誰かと考えをやりとりすることによって、創造的な場を生み出せる
自分の考えを正確にわかりやすく伝える文章を書くことは、自分以外の誰かに、自分の考えを正確に伝えるための、王道の手段のひとつ。
自分以外の誰かに自分の考えを正確に伝えることができると、その誰かと、考えをやりとりすることができる。
自分以外の誰かと考えをやりとりすると、考えが深まったり、新しい考えが生まれたりする。つまり、その場が、創造的な場になる。
そのため、自分の考えを正確にわかりやすく表現する文章を書けると、自分以外の誰かとの間に、創造的な場を生み出すことができるかもしれない。
2.役に立つ本と、その使い方
世の中には、自分の考えを正確にわかりやすく伝える文章を書けるようになるために役に立つ本が、たくさん存在する。これまでに私が知り得た本の中で、まちがいなく役に立つ本は、以下のとおり。
ただ、漫然と読んでいればそれでOK、というわけではない。単に読むだけでなく、能動的にその本を使う必要がある。そこで、私なりの使い方のヒントを付記する。
(1) 自分の考えを伝える文章とは何なのかの入門書
a.『非論理的な人のための論理的な文章の書き方入門』(飯間浩明著・ディスカヴァー携書)
1冊目は、『非論理的な人のための論理的な文章の書き方入門』。
この本のポイントは、次の紹介文に端的に表現されている。
自分の考えたことを文章にして、読者に間違いなく伝えるには、どうすればいいのだろうか?
そのためには、「クイズ文」という〈問題〉〈結論〉〈理由〉という形式に従った文章を書けばいい。
なぜなら、この形式は、読者と一つの問題意識を共有し、かつ、読者を一つの結論に導くためのものだからだ。
細かいことは脇において、ひとまずこの形式に落とし込んでいけば、誰でもすぐに、伝わる文章が書けるようになる。
b.使い方のヒント
この本は、「「クイズ文」という〈問題〉〈結論〉〈理由〉という形式に従った文章」の書き方を伝えることに特化している。そのため、この本を読めば、少なくともクイズ文の書き方の知識は、十分に得られる。
「クイズ文」は、自分の考えを伝えるための文章の基本型(のひとつ)である。だから、「クイズ文」という基本型を身につけることは、波及効果が高い。
「クイズ文」の知識は、この本で十分に得られる。そこで、この本で得た知識を元に、「クイズ文」の書き方をたくさん練習するとよい。
(2) 自分の考えを正確でわかりやすく伝える文章の基礎理論書
a.『数学文章作法 基礎編』(結城浩著・ちくま学芸文庫)
本書『数学文章作法(さくほう) 基礎編』では、 「正確で読みやすい文章を書く心がけ」 をお話しします。 数式まじりの説明文が題材の中心ですが、 説明文を書く人ならどなたにも役立つ内容です。
(書籍『数学文章作法 基礎編』より)
『数学文章作法 基礎編』は、「正確で読みやすい文章を書く心がけ」を、「読者のことを考える」という原則という軸に載せて、わかりやすく解説した本。自分の考えを正確でわかりやすく伝える文章の基礎理論は、ここに全部書いてある。
b.使い方のヒント
『数学文章作法 基礎編』で獲得すべきは、自分の考えを正確にわかりやすく伝えるための基礎理論。基礎理論を得ることが目的なので、まずは全体を通読するのがよい。
ざーっと読んだあと、章ごとにポイントを確認しながら読み直すと、学びが深まるはず。
c.『理科系の作文技術』(木下是雄著・中公新書)について
なお、私が『数学文章作法 基礎編』を知ったのは最近のこと。それ以前は、基礎理論書としては、『理科系の作文技術』が一番だと考えていた。
『数学文章作法 基礎編』だけでは物足りないと感じた方は、『理科系の作文技術』で基礎理論を補充するのもよいと思う。
(3) 自分の考えを理解しやすい構造に組み立てることのトレーニング書
a.『新版 論理トレーニング』(野矢茂樹著・産業図書)
『新版 論理トレーニング』は、論理をトレーニングするための本。
ただ、ここでいう論理とは、いわゆるロジカル・シンキングではない。
『新版 論理トレーニング』は、「論理」を、「言葉が相互にもっている関連性」と捉えている(p.1)。
繰り返そう。思考の道筋をそのまま表わすのではない。思考の結果を、できるかぎり一貫した、飛躍の少ない、理解しやすい形で表現する。そこに、論理が働く。(p.2)
『新版 論理トレーニング』がトレーニングするのは、思考を論理的に表現すること。この意味での論理は、自分の考えを正確にわかりやすく表現するために、役に立つ。そのため、『新版 論理トレーニング』は、自分の考えを正確にわかりやすく表現する文章を書けるようになるための、強力なトレーニングになる。
b.使い方のヒント
(a) トレーニングしてこそ、本領発揮
『新版 論理トレーニング』の本領は、単に読むだけでなく、実際にトレーニングをしてこそ、発揮される。紙とペンを用意して、すべての例題と練習問題を解くとよい。
時間があれば、『論理トレーニング101題』(野谷茂樹著・産業図書)も。
2冊やれば、相当なものが身につくはず。
(b) 特に、論証の構造の把握
『新版 論理トレーニング』は、全部が役に立つけれど、特に役に立つのは自分の考えの構造を把握することのトレーニングである。具体的には、「第4章 論証の構造と評価」の、特に「4.1 論証の構造を捉える」の部分。
ここを練習して、論証図を書けるようになると、論理の構造を把握することが、ぐんと得意になる。
(4) 接続詞が読者に与える「心の準備」を理解する参考書
a.『文章は接続詞で決まる』(石黒圭著・光文社新書)
接続詞を理解し、接続詞の使い方を練習するために、これ以上ない一冊。
この本は、以下の記載から始まる(どうでもいいけれど、これは、まさに「クイズ文」)。
読者にわかりやすく、印象に残るような文章を書きたい。その気持ちは、プロの作家であろうと、アマチュアの物書きであろうと変わりません。
でも、そのためには、どこから手をつけたらよいのでしょうか。
プロの作家は、接続詞から考えます。接続詞が、読者の理解や印象にとくに強い影響を及ぼすことを経験的に知っているからです。
(location 92)
本書の構成は、三部構成。
最初に接続詞とは何か、接続詞の役割は何かの、学問的な解説。接続詞って、こういうものなんだ!と目から鱗になること、請け合いの内容。
次に、接続詞の各論。
接続詞全体を「論理の接続詞」「整理の接続詞」「理解の接続詞」「展開の接続詞」「文末の接続詞」に分け、個々の接続詞を一つひとつ取りあげながら、その用法や、使用のさいに留意すべきポイントについて説明します。
(location 152)
最後に、実践編。接続詞の具体的な検討。
本書を読むと、接続詞への理解が深まる上に、接続詞への感度が高まる。
b.使い方のヒント
まずは、全体を通読するとよい。
次に、各論における接続詞の分類を、自分なりに整理するとよい。
その上で、本書を読んだ直後は、接続詞についての感度が格段に高まっているはずなので、この機会に、接続詞を意識して、いろんな文章(特に論理的な構造を持った文章)を読んでみるとよい。
3.おわりに
何かを上達するためには、
- 基礎理論を学ぶ
- 簡単なことに分解して、ひとつひとつ基礎練習をする
- 総合練習をする
の3段階に分けるとよいと思う。
この記事で紹介したのは、(1)基礎理論と(2)分解してひとつひとつ基礎練習まで。そこで、あとは(3)総合練習をする必要がある。
文章を書けるようになるための総合練習は、実際に文章を書いてみること。これらの本から学んだことを活かして、いろんな文章を書いてみるとよい。
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