論理的思考のプロセスが正しいことと、命題の内容が正しいこととの区別
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書き方・考え方
目次
1.論理的思考のプロセスの正しさと命題内容の正しさの区別
議論において、論証の正しさを検討するときに、注意すべきポイントは何でしょうか。
論理的思考のプロセスの正しさと、命題自体の内容の正しさを区別することです。
論証の正しさには、論理的思考のプロセスの正しさと、論証の前提や結論を構成する命題内容の正しさというふたつのものがあります。これらは、連動しません。
論理的思考のプロセスが誤っているか、論証の前提や結論を構成する命題内容が誤っているかによって、対応が異なるため、このふたつの正しさを区別することが大切です。
2.論証の正しさのふたつの意味
(1)ふたつの論証
たとえば、以下のふたつの論証があります。
論証1
- 狸は赤い。
- ドラえもんは狸である。
- したがって、ドラえもんは赤い。
論証2
- 魚は泳ぐ。
- 鰯は泳ぐ。
- したがって、鰯は魚である。
(2)ふたつの論証の正しさを検討する
a.論証のかたち
論証1も、論証2も、命題(1)と命題(2)が結合してひとつの根拠となって、命題(3)を結論として導出する、という形をとった論証です。
b.論証1が正しい論証で、論証2が誤った論証である、という考え方
論証1は、根拠を構成する命題(1)も命題(2)も誤っています。結論として導出された命題(3)も誤っています。これに対して、論証2は、根拠を構成する命題(1)も命題(2)も正しいです。結論として導出された(3)も正しいです。
しかし、論証1が誤った論証で、論証2が正しい論証というわけではありません。逆に、論理的思考のプロセスという点では、論証1は論理的に正しい論証であるのに対して、論証2は論理的に誤った論証です。
(3)論理的思考のプロセスの点では、論証1が正しく、論証2が誤っている理由
命題の内容の正しさを無視すると、論証1と論証2は、以下のように抽象化できます。
論証1のかたち
- AはBである。
- CはAである。
- したがって、CはBである。
論証2のかたち
- AはBである。
- CはBである。
- したがって、CはAである。
論証1は、根拠を構成する2つの命題を前提とすれば、結論として導出された命題を認めざるを得ません。AがBであることと、CがAであることを前提とすれば、CがBであることを認めざるを得ません。
論証2は、根拠を構成する2つの命題を前提としても、結論として導出された命題を認める必要はありません。AがBであることと、CがBであることを前提としても、CがAであることを認める必要はありません。
論証2が誤りであることは、同じ形式をとる以下の論証2-2が誤りであることからも明らかです。
論証2-2
- 飛行機は空を飛ぶ。
- すずめは空を飛ぶ。
- したがって、すずめは飛行機である。
(4)論理的思考のプロセスの正しさと、命題の内容の正しさの区別
以上の通り、論証の正しさには、論理的思考のプロセスの正しさと、命題の内容の正しさがあります。そして、このふたつの正しさは、まったく連動しません。命題の内容は正しくても論理的思考のプロセスが正しくない論証もあれば、命題の内容は間違っているけれど論理的思考のプロセスは正しい論証もあれば、両方が正しい論証、両方が正しくない論証もあります。
したがって、論証の正しさを検討するときは、論理的思考のプロセスの正しさと、命題の内容の正しさを区別する必要があります。
3.ふたつの論証の正しさを区別することが、議論において、どのような実益をもたらすか
論理的思考のプロセスが誤っている場合と、論証の前提や結論を構成する命題内容が誤っている場合とでは、議論における意味合いが異なります。そのため、批判や対策の仕方、つっこみの視点が異なります。
(1)論理的思考のプロセスが誤っている場合
論証3
- あなたがほしいスマートフォンは、小さいスマートフォンである。
- Xperia rayは、小さいスマートフォンである。
- したがって、あなたがほしいのはXperia rayである。
この論証は、論理的思考のプロセスが誤っています。前提となる(1)と(2)が正しいとしても、(3)を結論として導くことはできません。
議論において、相手が論証3のような論証を行ったら、論理的思考のプロセスへつっこむべきです。
(2)前提や結論を構成する命題内容が誤っている場合
論証4
- あなたがほしいスマートフォンは、Xperia SXである。
- Xperia SXは、大画面がうりの大型スマートフォンである。
- したがって、あなたがほしいのは、大画面がうりの大型スマートフォンである。
論証4は、論理的思考のプロセスに誤りはありません。しかし、前提となる(2)の内容が誤っています。
したがって、議論において、相手が論証4のような論証を行ったら、前提(2)が違うとつっこむべきです。
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