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『WorkFlowy文章作法』の「はじめに」

公開日: : WorkFlowy, 書き方・考え方

本書について

こんにちは。本書『WorkFlowy文章作法』では、

  • WorkFlowyで文章を書く技法

をお話します。自分以外の誰かに何らかのメッセージを届けるための文章が題材の中心です。

あなたが文章を書くときの大きな目的は、

  • あなたの考えに言葉を与えること(メッセージを明確にすること)
  • あなたの考えを読者に伝えること(メッセージを届けること)

という2つではないかと思います。

この2つの目的のために文章を書くなら、文章を書くための道具としてWorkFlowyを使うことは、よい選択です。WorkFlowyで文章を書くことは、ぼんやりとした考えに言葉を与え、メッセージを明確にすることを助けてくれますし、WorkFlowyを使うことは、そのようにして明確になったメッセージを、わかりやすい文章によって表現することを助けてくれるからです。

しかし、WorkFlowyは、おそらくですが、そもそもの成り立ちとしては、文章を書くための道具ではありません。また、WorkFlowyは、アウトラインはひとつだけでファイルという概念を持たない、トピックという単位しか持たず本文と見出しの区別がないなど、少し変わった枠組みを持っています。さらに、WorkFlowyには、文字数カウント、テキスト置換など、文章を書くための大切な機能が欠落しています。ですから、最初の段階では、文章を書く道具としてWorkFlowyを使おうとすると、大小様々な違和感やストレスを感じることがあるかもしれません。

それでも、本書では、WorkFlowyで文章を書く技法をお話します。なぜなら、WorkFlowyで文章を書くことには、確かなメリットがあるからです。

WorkFlowyで文章を書くことのメリットを享受するには、原則を踏まえることが大切です。その原則は、

  • 知的生産のフロー
    • 知的生産とは、自分の考えに、文章という形を与えて、新しい情報として、世の中に提供すること
    • 知的生産は、情報のインプット→情報の操作→情報のアウトプットという一連のフローである
    • 知的生産のフロー全体を大切にする必要がある
  • 全体から一部分を切り出す
    • どんな考えも、どんな文章も、自分の生のような全体における一部分
    • 考えや文章には何らかの目的があるけれど、自分の生のような全体には目的がない
    • 文章を書くことは、目的を持たない全体から、目的に対応した一部分を切り出すようなもの

という2つです。本書は、「知的生産のフロー」と「全体から一部分を切り出す」という2つの原則を具体化したものといえるでしょう。

本書は、WorkFlowyの使い方そのものを学ぶ本ではありません。本書にはWorkFlowyの機能や操作方法のことがたくさん登場しますが、アウトラインとトピックの関係、検索とタグ、Zoom機能の本質や使い方などについて学ぶわけではありません。本書は、あなたが文章を書くことによってぼんやりとしていた自分の考えに言葉を与えたり、そうして明確になったその考えを誰かに伝えたりしたいと思っていることを前提として、そのための道具としてどのようにWorkFlowyの力を借りることができるかを学ぶ本なのです。

読者について

本書は、文章を書くためのよい環境を探している人に役立ちます。WorkFlowyは、単なるクラウドアウトライナーではなく、いわば、文章を書くための環境とでもいうべき存在だからです。本書を読んで、WorkFlowyで文章を書くことを学べば、WorkFlowyという理想的な環境が手に入ります。

本書は、WorkFlowyを使わないで文章を書く人にも、それなりに、役に立ちます。というのも、WorkFlowyが文章を扱う枠組みには、WorkFlowyを使うか否かに関係なく、大切なものが含まれているからです。たとえば、WorkFlowyにはファイル概念がありません。WorkFlowyで書くすべての文章が、ただひとつのアウトラインに統合されます。ここには、「ひとつの文章を書くためにひとつのファイルを作る」という、従来のツールとはちがった枠組みがあるのですが、この枠組み自体が、WorkFlowyを選ぶかどうかにかかわらず、文章を書くという行為に、新しい光を当てます。

また、本書は、WorkFlowyの使い方を学びたい人にも役立つでしょう。「文章を書く」以外のことにWorkFlowyを活用したいと考えている人にも役立つはずです。WorkFlowyの機能は、機能だけを淡々と説明していても、それをどのように活用できるかのイメージが、なかなか伝わりません。これに対して、本書は、「文章を書く」というひとつの用途について、WorkFlowyの使い方をとことん具体的に説明します。ひとつの用途についての具体的な説明は、WorkFlowyの使い方一般に対して、よいヒントを与えてくれるはずです。

私について

私は、WorkFlowyとは何の関係もない普通のワーキングパパです。プログラマーや技術者でもなく、ウェブサービスを支えるいろいろな技術の基本的な素養もありません。

しかし、私は、2015年1月にWorkFlowyを本格的に使い始め、以後、毎日、WorkFlowyを使って、たくさんの文章を書いています。たとえば、WorkFlowyを使って180個を超えるブログ記事を書きましたし、また、WorkFlowyを使って10万字を超える文字数の本を書きました。

また、WorkFlowyによって文章を書き続けるのと同時に、WorkFlowyのことを対象にしていろいろなことを試行錯誤し、考え、文章にまとめることを続けてきました。これらの文章を、私は自分のブログ「単純作業に心を込めて」に公開してきたのですが、その数は、2016年1月22日段階で177個になりました。さらに、このようにして書き続けてきたブログ記事の一部をベースにして、『クラウド時代の思考ツールWorkFlowy入門』という本を出版しました。私のWorkFlowy探求は、専門知識や技能を駆使してWorkFlowyというウェブサービスを支えるコードやインフラを読み解くことによってではなく、いちユーザーの立場から、地味な試行錯誤を繰り返すことによって、泥臭く一歩ずつ進んでいます。

世の中には、WorkFlowyの愛用者が、ものすごく多いわけではないものの、それなりにたくさんいます。専門的な知識や技能を活用し、WorkFlowyをとことんカスタマイズしている方々もいるでしょうし、WorkFlowyによって小説などの創作活動に取り組んでいる方もいらっしゃいます。ですから、私よりもWorkFlowyの機能や仕様を深く正確に理解している人はたくさんいるでしょうし、私よりもWorkFlowyを使いこなしている人もいるはずです。

でも、WorkFlowyで日本語の文章を書いてきた量と、WorkFlowyの機能を試行錯誤してきた時間についてなら、私もそれなりのものなんじゃないかと思います。たとえば、仮に2015年の1年間にWorkFlowyで書いた日本語文章の文字数世界ランキングなんてものがあるのなら、トップ3は無理でも、トップ10くらいには「彩郎」という名前が見つかるんじゃないかと予想しますし、WorkFlowyのトピック移動やタグの細かいルールを試行錯誤した度合いについては、私もそれなりのもんだと自負しています。

そこで、私は、ひとつにはWorkFlowyの「現役のユーザー」として、もうひとつにはWorkFlowyの「プチ研究者」として、本書を書こうと思います。いずれにせよ、WorkFlowyの「権威」としてや、WorkFlowyの「専門家」としてではありません。

本書『WorkFlowy文章作法』は、これまで私がWorkFlowyを使って文章を書いてきた中で学んだことや、これまで私がWorkFlowyの機能を試行錯誤する中で気づいたことを、文章にまとめたものといえるでしょう。

本書の構成

本書の各章で説明する内容を紹介します。

第1章「2つの原則」では、WorkFlowyで文章を書くときに大切にしたい2つの原則を説明します。2つの原則とは、「知的生産のフロー」と「全体から一部分を切り出す」でした。この2つの原則を踏まえることが、WorkFlowyのいろいろな機能が持つ力を、存分に引っ張り出してくれるでしょう。

第2章「メッセージとその構成要素」では、メッセージについて考えます。本書は、文章によって表現したい対象の考えのことを、メッセージと呼んでいます。あなたに何らかの考えが思い浮かび、あなたがその考えを自分以外の誰かに伝えたいと思ったなら、その考えは、メッセージになりえます。その考えを明確なメッセージにするために、どのような要素を備えるべきかを確認してみましょう。

第3章「文章とその構成要素」では、文章について考えます。文章の役割は、あなたのメッセージを、あなた以外の誰かに届けることです。文章は、いくつかの種類の部品からできています。それらの部品を、言葉、文、文章、段落、項目、文章に分けて、ひとつずつ見ていきましょう。

第4章「メッセージ群と文章群」では、メッセージと文章の個数のことを考えます。あなたが抱いたひとつのメッセージを思い浮かべてください。きっと、そのメッセージは、いくつかの小さなメッセージから構成されていると同時に、もっと大きなメッセージの構成要素でもあるはずです。あなたが書いたひとつの文章を思い浮かべてください。きっと、その文章は、ある見方では、いくつかの小さな文章から構成されていると同時に、もっと大きな文章を構成する部品にもなりうる存在だと思います。このように、個々のメッセージや文章をとりまくメッセージ群や文章群を考えると、そこには、階層構造があります。別の方向から見れば、これは、メッセージや文章の個数は、常に仮のものだ、ということです。そして、WorkFlowyで文章を書くことやメッセージを明確にすることの強みは、この点にあります。

第5章「フロー全体を大切にする」、第6章「自分の全体から、目的に対応した一部分を切り出す」では、第2章から第4章での考察を踏まえて、再び、ふたつの原則に戻ります。

第5章「フロー全体を大切にする」では、文章を書くことを前提に、WorkFlowyによる「知的生産のフロー」を、具体的に検討します。どこかで何らかの考えを思いつき、その考えに言葉を与えて明確なメッセージを組み立て、誰かにメッセージを伝えることができる文章の形に整え、誰かに読まれる場所に公開し、というものが、「知的生産のフロー」です。こんな「知的生産のフロー」のために、WorkFlowyがどのように機能するか、WorkFlowyの具体的な機能や使い方を考慮に入れて、検討します。

第6章「自分の全体から、目的に対応した一部分を切り出す」では、文章を書くことを前提に、WorkFlowyで「全体から一部分を切り出す」というあり方をどのように具体化するかを考えます。家族旅行の準備資料から大学の講義レジュメに結実したり、アプリ開発のための意見交換が小説の書評に溶けこんだり、といったいくつかの実例をもとに、目的を持たない自分という全体から、特定の目的に対応した一部分を切り出すことが、個人にとってどのような意味を持つのかを、若干観念的に検討します。

謝辞

私は、結城浩先生の『数学文章作法』に、とても感謝しています。それは、「読者のことを考える」を具体的に実践するために必要な技法を教わったからです。

「読者のことを考える」という原則が大切であることは、『数学文章作法』を読む前から、知識として認識していました。しかし、『数学文章作法』を読むまでは、この「読者のことを考える」という原則を具体的に実践するにはどうしたらよいかが、まったくわかっていませんでした。『数学文章作法』を読んではじめて、私は、「読者のことを考える」という原則が具体的に何を意味するのかを正確に理解し、そして、「読者のことを考える」という原則を実践するための具体的な技法をいくつも学びました。

こうして、私は、文章を書くときに、「読者のことを考える」という原則を、具体的に実践できるようになりました。たとえば、接続詞で進むべき道を案内し、例を挙げて概念を描き、パラレリズムで構造を示す、といったようなことです。

「読者のことを考える」という原則を具体的に実践できるだけの技法を学ぶと、文章を書くことは、ぐっと楽しくなりました。その場の流れに応じて、メタ情報を加えたり、比喩を示したり、問いを提示したりするなど、いろんな方向から「読者のことを考える」ことを実践しようとすると、文章を書くことが、世界に対する愛を表現する行為になったような気がして、じんわり幸せになります。今、私は、自分史上かつてないほどに文章を書くことが好きなのですが、その相当部分は、『数学文章作法』のおかげです。

読者のことを考えるって、こういうことだったのか!結城浩著『数学文章作法 基礎編』(ちくま学芸文庫)

結城浩先生には、「文章教室」というウェブコンテンツでも大変お世話になりました。「文章教室」は、結城浩先生がご自身のウェブサイトで無償公開しているウェブコンテンツです。『数学文章作法』の練習問題のように活用することができます。何人かのクラスメイトと共にこの練習問題に取り組んだことは、その後、確実に役に立っています。たとえば、私は1冊の本を書いたのですが、この本のために書いた文章の多くを、私は「文章教室」から学びました。

結城浩先生の『数学文章作法 基礎編』を読んでから、『文章教室』2014期生のクラスメイトができるまで(あるいは、『文章教室』2014期生へのお誘い)

結城浩先生、本当にありがとうございます。

■この記事について

この『WorkFlowy文章作法』は、タイトルから一見して明らかなとおり、結城浩先生の『数学文章作法』を土台にしています。タイトルはもちろんですが、「はじめに」の文章を大幅に踏襲しております。パロディと言ってもいいかもしれません。深い感謝と敬意に基づくパロディです。

『WorkFlowy文章作法』という本は、現時点では、存在しません。『クラウド時代の思考ツールWorkFlowy入門』の「第3編-第3章 WorkFlowyで文章を書く」で書いたことが、これと若干近いのですが、でも、切り出し方がずいぶんとちがいます。

その意味で、この記事は架空本のネタエントリなのですが、でも、今後、こんな本を書けたらいいな、と半分以上本気で、考えています。

参考:『クラウド時代の思考ツールWorkFlowy入門』の詳細目次と元記事の紹介→「おわりに」

そこで、先ほども書いた次の構成にそって、今後、不定期連載のようなかたちで書き進めるつもりです。

  • 第1章「2つの原則」
  • 第2章「メッセージとその構成要素」
  • 第3章「文章とその構成要素」
  • 第4章「メッセージ群と文章群」
  • 第5章「フロー全体を大切にする」
  • 第6章「自分の全体から、目的に対応した一部分を切り出す」

ご意見・ご感想などいただければ、うれしく思います。

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