より自由な「思考する場所」としての紙の本。その特徴と活用を考察する。
目次
1.紙の本も、「思考する場所」
こんな文章を書きました。
ここで書いたのは、概要、
- 『本は死なない』の「やがて本は読者と作者が一堂に会する場所となるだろう。」という予言がすごい。
- 今の技術と行動習慣を前提とすると、現時点では、本は「他者とコミュニケーションする場所」としては不十分。でも、「本を場所として捉える」という考え方は、今でも有効。
- では、本をどのような場所として捉えるか。私にとっては、「本を、思考する場所として捉える」のがよさそうである。私が読書する目的と合致しているから。
- 「本を、思考する場所として捉える」ためには、Kindleのメモ機能とkindle.amazon.co.jpが使えそう。また、この用途なら、Kindle PaperwhiteよりもiPhoneのKindleアプリの方が向いている。
ということです。
この要約からもわかるとおり、この「本を、「思考する場所」として捉える」という記事を書いたときに、私は、Kindle本をイメージして「本」という言葉を使っていました。
しかし、「思考する場所」になることは、何も、Kindle本などの電子書籍の専売特許ではありません。むしろ、電子書籍が登場するはるか以前から、読書の意義は、思考することにありました。「思考する場所」であることは、ある意味、紙の本の存在意義のひとつかもしれません。
そこで、以下、「思考する場所」という観点から、紙の本の特徴や活用方針を考察します。
2.Kindle本との比較から浮かび上がる、「思考する場所」としての紙の本の特徴と活用方針
(1) 「思考する場所」としての紙の本を、Kindle本と比較する
「思考する場所」としての紙の本の特徴は、Kindle本と比較することによって、くっきりと浮かび上がります。
a.メモ&ハイライト vs 紙面への書き込み&描き込み
ひとつめは、本を「思考する場所」として使うときの手段の違いです。
Kindle本は、メモやハイライトを使います。本の一節を選択して、そこにマーカーを引いたり(ハイライト)、コメントを加えたり(メモ)します。Kindle本で使えるのは、テキストのみです。
これに対して、紙の本は、紙面へ直接書き込みます。本の一節に線を引いたりコメントを加えたりすることはもちろんできますが、それだけでなく、余白に要約をメモしたり、図や絵を描いたりすることもできます。紙の本なら、紙面の上に、自由な書き込みと描き込みをすることができます。
b.1次元・無限・一覧性あり vs 2次元・有限・一覧性なし
ふたつめは、スペースの違いです。
Kindle本のメモやハイライトは、テキストデータのみですが、字数制限が、(おそらく)ありません。ひとつのキーワードのところに、ブログ記事1本分のテキストデータをメモすることだって、原理的には可能です。また、Kindleのハイライトやメモは、kindle.amazon.co.jpで、一覧表示できます。
Kindle本の「思考する場所」は、1次元・無限・一覧性ありのスペースです。
これに対して、紙の本の場合、書き込んだり描き込んだりできるのは、紙面です。紙面なので、2次元です。しかし、紙面だけなので、物理的な限界があります。他方、紙の本の紙面は、ページをめくらないと確認できないので、一覧性はありません。
紙の本の「思考する場所」は、2次元・有限・一覧性なしのスペースです。
c.クラウドから引き出せる vs 物理的な本と運命共同体
みっつめは、思考の結果が保存される場所の違いです。
Kindle本のメモやハイライトは、kindle.amazon.co.jpに保管されます。Amazonのサーバー、つまりクラウドです。Kindle本という「思考する場所」で思考した結果は、クラウドに保管されています。クラウドなので、どこにいても、その思考結果を引き出すことができます。
これに対して、紙の本への書き込みや描き込みは、その本の紙面上にあります。そのため、紙の本という「思考する場所」で思考した結果は、物理的なその本と、運命共同体、一蓮托生です。その本をなくしてしまえば、その思考の結果も失われます。
(2) 「思考する場所」としての紙の本を活用する方針
まとめると、「思考する場所」としての紙の本の特徴は、次の3つです。
- Kindle本はテキストとマーカーしか使えないけれど、紙の本なら文字だけでなく図や絵や表も使える。
- Kindle本の「思考する場所」は1次元・無限・一覧性ありのスペースだけれど、紙の本の「思考する場所」は2次元・有限・一覧性なしのスペース。
- Kindle本で思考した結果はクラウドに保存されるけれど、紙の本で思考した結果は物理的な紙の本とくっついている。
この3つの特徴の短所を補い、長所を活かすことが、紙の本を「思考する場所」として活用するための、基本方針です。
すると、次の3つの基本方針が出てきます。
a.書き込み&描き込みを制限しない
文字だけでなく、線も図も表も絵も使えることは、紙の本で思考することの大きな強みです。2次元を使えること、色を使えることも、紙の本で思考することの大きな強みです。
この強みを活かすために大切なのは、紙面への書き込みと描き込みを制限しない、ということです。
紙の本への書き込みや描き込みは、何でもありです。線を引いたり、疑問点をメモしたりするだけでなく、たとえば、以下のようなことが考えられます。
- 大切な点の要約を言葉でまとめて、余白に書く
- 余白に、対立概念を図表にしてみる
- 論証図をメモする
- 本文とぜんぜん関係なくても、連想して思いついたアイデアをメモする
- 集中できないときは、日記的なものを書く
- 色を使う。線種を使う。
- 下手でもいいから、イラストを描く
b.アナログノートを併用する
紙の本の「思考する場所」は、有限で一覧性がありません。これを補うには、アナログノートを併用するのがよい方法です。
アナログノートを使えば、スペースは無限に広がります。また、とびとびのページについてのメモをアナログノートの同じページに記載すれば、両者が一覧できます。アナログノートの見開きページに、その本1冊分のメモを(マインドマップなどで)まとめれば、本一冊分の一覧性を実現することだってできます。
c.Evernoteなどのクラウドに集約する
紙の本で思考した結果は、紙の本と運命共同体です。紙の本を永久に手元に置いておくことはなかなか難しいことなので、思考の結果を紙の本の上にだけ保存していては、その思考の結果は、いずれ失われてしまいます。
また、有限と一覧性なしを補うためにアナログノートを併用すると、思考の結果が、紙の本とアナログノートに散在してしまいます。
この対策は、Evernoteなどへの集約です。紙の本という「思考する場所」で思考した結果を、すべてEvernoteなどのクラウドに集約すれば、紙の本を失っても思考の結果は失われませんし、散財した思考の結果を一箇所に集めることもできます。
紙の本で思考した結果をEvernoteなどに取り込むには、たとえば、以下の方法が考えられます。
- 書き込み&描き込みをした紙面を、撮影したりスキャンしたりする。
- アナログノートを、撮影したりスキャンしたりする。
- マーカーを引いた箇所を、手で打ち込んで転記する。
クラウドに集約したら、何らかの方法で情報を紐付けしておくと便利です。Evernoteなら、たとえば、次のような方法が考えられます。
- 本1冊につき、台帳となる基本ノートを作成し、台帳ノートからノートリンクで結ぶ(『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』の方法)。
- 本1冊につき、書名のタグを作り、その本に関連するすべてのノートにそのタグをつける。
- ノートのマージ機能を使う。
- 一切整理しないで、検索機能に頼る。
3.紙の本は、自由な「思考する場所」を提供してくれる
私は、考えるために本を読みます。私にとって、読書の目的は、思考することです。
思考するために読書をする、ということを考えてみると、すぐに思いつくのは、「本に記載された考え方やアイデアに刺激を受けて、思考が進む」ということです。たとえば、Evernoteの解説本に記載されたノートブック構成を読むことで、自分のEvernoteを整理する方法を考える、などです。
でも、これだけでなく、「本の内容とは直接には関係しないけれど、本に描き込んだ図や本にメモしたアイデアから、思考がが進む」ということも、しばしば生じています。たとえば、Evernoteの解説本に記載されたクラウドの特徴を読みながら、「これってGmailも同じだよな」と感じて、Gmailの特徴を余白にメモし、そこから連想を膨らます、などです。
これは、本に記載された内容について考えているのではなく、本に記載された内容からの連想を、本を使って考えている、ということです。読書をしながらこんなことをしているとき、私は、本という「思考する場所」に移動している、ともいえます。
この、「思考する場所」に移動する、ということも、私が読書する目的のひとつです。
本は、紙の本でもKindle本でも、「思考する場所」になります。でも、少なくとも現時点では、紙の本の方が、より自由な「思考する場所」です。
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