WorkFlowyを「書き上げる」ための道具として機能させるための、2つの条件・3つのイメージ
Tak.さんのTweetに触発されて。
WorkFlowyやOmniOutlinerなどのプロセス型アウトライナーは「書き続ける」ためのもの。Wordなどのプロダクト型アウトライナーは「書き上げる」ためのもの。
— Tak. (@takwordpiece) 2017年1月31日
問い:私(彩郎)は、この命題に賛成するか? 特に、「WorkFlowyは「書き続ける」ためのもの(であって「書き上げる」ためのものではない)」ということについて。
(注:Tak.さんは、「WorkFlowyは「書き上げる」ためのものではない」とまで言っているわけではないとは思うのですが、図式的なわかりやすさから、あえてこのような形で問題を捉えてみました。)
目次
1.とりあえずの結論
(1) WorkFlowyも、「書き上げる」ための道具として機能しうる。
(2) ただし、WorkFlowyが「書き上げる」ための道具として真価を発揮する場面は、次の2つの条件によって限定されている。
- 第1に、文章を書き始める段階で、その文章によって表現しようとする内容が、固まりきっていないこと。最初の段階で書くべき内容が決まっているわけではないこと。
- 第2に、「書き上げる」対象の文章の個数に制限がないこと(少なくともただひとつではないこと)。集大成としてのただひとつの文章を書くのではなく、暫定的な文章をたくさん書くことが許されること。
(3) この2つの条件を満たしたときの、WorkFlowyで文章を「書き上げる」あり方は、次の3つのイメージで表現できる。
- 全体から一部分を切り出す
- 文章になる枠の外に、混沌さを排出する
- 文章群を書き続ける
WorkFlowyで「書き上げる」には、コツがいる。
私なりのコツは、無理して全体を書き上げようとせず、一部分を切り出すこと。
最初に書こうと思った全体は、WorkFlowyで書いてるとどんどん膨らみ、収拾がつかなくなる。だから一部分を切り出す。これなら「書き上げる」まで行ける。— 彩郎 (@irodraw) 2017年1月31日
だから、(一般的な意見とは違うかもしれないけど、)WorkFlowyで文章を書き上げることは、最初に文章の構造を組み立ててから、その構造に沿って文章を完成させる、ではない。
組み立てた全体を文章として完成させるためだけなら、むしろテキストエディタとかの方がいいかもしれないくらい。— 彩郎 (@irodraw) 2017年1月31日
2.条件の補足説明
WorkFlowyは、どんなふうに文章を「書き上げる」場面でも、一応は、文章を「書き上げる」ための道具として機能しうる。でも、WorkFlowyの真価を発揮するのは、次の2つの条件を満たした場面ではないか。
(1) 文章を書き始める段階で、その文章によって表現しようとする内容が、固まっていないこと
ひとつめの条件は、文章を書き始める段階で、その文章によって表現しようとする内容が、固まりきっていないこと。
逆にいえば、文章を書き始める段階で、その文章が表現するべき内容が固まっている場合、WorkFlowyは必ずしもうまく機能しない。(下手をすると、かえって混沌としてしまう。)この場合、むしろWordやテキストエディタがよいのではないか。仮にアウトライナーを使うにしても、Tak.さんのいうプロダクト型アウトライナーがよいのではないか。
●
なぜ、文章を書き始める段階で、その文章によって表現しようとする内容が固まりきっていないときに、WorkFlowyがうまく機能するのか?
前提として、文章が表現しようとする内容を、
- 問い
- 答え
- 理由
という構造で把握する。(いくぶん図式的だが。)
その文章によって表現しようとする内容が固まりきっていないというのは、これら問い・答え・理由のいずれかまたは全部が固まりきっていないということである。
たとえば、
- 問い自体がよく見えていない
- 問いは固まっているんだけれど、答えが見えてない。
- 問いと答えはある程度確信があるけれど、答えを支える理由が頼りない。
などである。
こんなとき、WorkFlowyはとてもうまく機能する。文章を書き上げるための過程で、
- 問いを明確にする
- 理由の材料を組み立てているうちに、答えが見えてくる
- 漠然とした理由が、明確になってくる
といった作用が生じて、その文章によって表現しようとする内容が、どんどん育っていく。
それだけではない。WorkFlowyで文章を書き上げようとすると、問い・答え・理由自体が、流動的に変化しながら育っていく。たとえば、
- 最初の段階で問いとして設定したものが、実は別の問いに答えるための理由であることがわかった
- 最初の段階で理由の要素として考えていたものが、実はとても大きな問題であり、それ自体独立の問いとして検討すべきものだということがわかった
といったことである。
文章が扱う意味内容の階層が上下に動く、といってもよいかもしれない。
- 最初の段階で問いとして設定していたものが、実は別の問いのための理由であることがわかったなら、階層を上がったことになる。
- 最初の段階で理由の一要素として捉えていたものが、実はそれ自体をひとつの問いとして扱うべき大問題であることに気づいたなら、階層を下がったことになる
このように、WorkFlowyで文章を「書き上げる」ための作業をすると、最初の段階で固まっていなかった問い・答え・理由を明確にすることもできるし、最初の段階で漠然と想定していた問い・答え・理由自体を流動的に組み替えることで新しい思考を促すこともできる。
WorkFlowyで文章を「書き上げる」ための作業をすることの、もっとも大きな果実だと言える。
●
他方で、WorkFlowyで文章を「書き上げる」ための作業を自由に行うと、書き始める最初の段階で設定していた問い・答え・理由は、多くの場合、解体されて、跡形もなくなる。そのため、文章を書き始める最初の段階から、問い・答え・理由が固まっていて(あるいは与件として与えられていて)、変更してはならない場合は、WorkFlowyを使うのは、危険でもある。
だから、文章を「書き上げる」ためのWorkFlowyを使うには、文章を書き始める段階で、その文章によって表現しようとする内容が、固まりきっていないことという条件を満たしているか否かを確認するとよい。
(2) 「書き上げる」対象の文章が、暫定的な文章であってもよいこと
ふたつめの条件は、「書き上げる」対象の文章の個数に制限がないことである。
これはちょっと補足説明が必要だと思う。
この条件を満たしていない状態とは、「書き上げる」対象の文章の個数が制限されていることである。ひとつか、ふたつか、10個かはわからないけれど、「書き上げる」文章の個数が制限されているなら、このふたつめの条件を満たしている状態とはいえない。
なぜ、個数が制限されていないことが大切なのか。それは、「書き上げる」文章の個数が制限されていると、今から書き上げようとするその限られた文章の中に、自分の言いたいことの全部を盛り込まなければならなくなるからである。
こうなると、文章を書く姿勢が、「自分が言いたいことを全部盛り込んで、自分にとっての集大成ともいえるような文章を書き上げなければならない」という感じになる。しかし、この姿勢は、WorkFlowyで文章を書くこととは相性が悪い。
なぜなら、WorkFlowyで文章を書く作業をしていると、その文章を書く作業自体から、新たな言いたいことが次々と生まれてくる。そして、新たな言いたいことが生まれる速度は、文章を書き進める作業の進捗速度よりも確実に速い、感覚的には。だから、いつまでたっても、自分の言いたいこと全部を文章として書き上げることはできない。だから、WorkFlowyで文章を書く作業は、「書き続ける」作業となり、「書き上げる」作業にならない。
●
では、この状態を解消してWorkFlowyで文章を「書き上げる」には、どうしたらよいか?
対策は簡単。
書き上げようとするその文章に、自分の言いたいことの全部を盛り込むことをきっぱりと諦めたらいい。たくさんの言いたいことの中から、言いたいことの度合いと文章として書き上げるためのハードルなどを総合考慮して、文章として「書き上げる」対象を選択する。その文章の中には、その言いたいことだけを盛り込めれば、それでいい。
そのひとつの言いたいことだけを書き上げるのも大変なら、その言いたいことのうちの一部分だけを切り出すのもよい作戦である。一般に、大きな言いたいことを文章として「書き上げる」よりも、小さな言いたいことを文章として「書き上げる」方が簡単だから。
これが、WorkFlowyで文章を書く作業を、「書き続ける」だけでなく「書き上げる」にするための作戦である。
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でも、この作戦には、すごく大切なひとつの条件がある。それが、「書き上げる」対象の文章の個数に制限がない、ということ。1個しか書けないなら、慎重にならざるをえない。たくさん書いていいとしても、1個書いたら次に書くまでに1週間待たなければいけないなら、これも慎重にならざるを得ない。
制限なくいくつでも書けるからこそ、たくさんの言いたいことのうちひとつだけを選び、かつ、そのひとつのうちのごく一部分だけを、とりあえず暫定的な文章として書き上げる、という作戦が可能になるのである。
だから、文章を「書き上げる」ためのWorkFlowyを使うには、「書き上げる」対象の文章の個数に制限がないことがふたつめの条件になる。
3.イメージの補足説明
こんな条件を満たしたときのWorkFlowyで文章を「書き上げる」というあり方は、どんな感じになるか?
いずれも抽象的なイメージではあるけれど、私としては、次の3つが腑に落ちている。
(1) 全体から一部分を切り出す
ひとつめのイメージは、全体から一部分を切り出す、ということである。
具体的には、WorkFlowyのただひとつのアウトラインが全体で、書き上げられる個々の文章が一部分となる。
WorkFlowy基本5原則【第2原則】「アウトライン」という全体から、目的に応じた一部分を切り出す
また、この切り出し作業には、マロ。さんによるハサミスクリプトが大活躍する。
WorkFlowyと自分のブログによる知的生産システムと、ハサミスクリプト「WFtoHTML_irodrawEdition」が果たす役割
ずっと完成しないで変化し続ける有機体から、暫定的な作品群を切り取るためのハサミ
(2) 文章になる枠の外に、混沌さを排出する
ふたつめのイメージは、文章になる枠の外に、混沌さを排出する、というものである。
WorkFlowyで文章を書いていると、書いている範囲全体はどんどん混沌としてくる。でも、そのうちの一部分の秩序が徐々に高まり、いずれ、文章として結実する。
これは、文章になる一部分の秩序を高める作業でもあるのだけれど、同時に、その一部分の中から混沌さを排出する、という作業でもある。
文章になる枠の外に混沌さを排出する、というイメージを持つと、WorkFlowyで文章を「書き上げる」ことのコツが掴めるのではないか。
WorkFlowyで、文章となる枠の外に混沌さを排出して、文章を書く
「枠の外に混沌さを排出する」という文章の書き方に関連する2つのメタファー
(3) 文章群を書き続ける
みっつめのイメージは、文章群を書き続ける、というものである。
WorkFlowyと相性のよい文章の書き方は、ただひとつの文章を書くことではなくて、暫定的な文章群を書き続けることである。私のいう「文章群を書き続ける」には、2つのポイントがある。
ひとつは、文章を「書き上げる」ということ。読み手を想定して、自分としては「作品」とジャッジできる程度のものを書くことが、ここでいう「書き上げる」ということ。
そしてもうひとつは、そのような「書き上げる」作業を終わりなく続けること。期間限定でもなく、大きな目的に向かって進むでもなく、持続可能な毎日を生き続ける一部として、書き続けること。
多少おおげさだけど、文章群を書き続けるというイメージを持つことで、WorkFlowyで文章を書くことは、自分自身のために思考や感情を整理することを超えて、積極的な社会参加という意味合いを帯びるのではないか、とも感じている。
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