Fire TV Stick購入時に実感した、「購買決断を助ける」というAmazonのコンセプト
公開日:
:
本
1.Fire TV Stick(の旧型モデル)を買いました。
いまさらですが、先日、Fire TV Stickを買いました。2017年1月時点でamazon.co.jpで発売されているモデルです。
レビュー欄に、「これは旧型です」「アメリカではとっくの昔に新型が出てます」といった書き込みがたくさんありましたので、新型が出るまで待とうかなとも思いましたが、諸々考慮して、今、旧型モデルを買うことにしました。
満足してます。
私がやりたいのは、とりあえず、テレビでYouTube(の恋ダンスレッスン動画)を再生することと、iPhoneとミラーリングしてGoogle Photoをテレビで楽しむことだけです。この用途なら旧型モデルでも問題ないと判断しましたし、実際、不都合はありませんでした。
この時期に旧型を買うことは、amazon.co.jpの在庫整理に協力する形になったのかもしれませんが、全然不満はありません。
2.購入時に実感したAmazonのコンセプト
この購入に関連して思い出したのは、『ストーリーとしての競争戦略』が紹介するAmazonの戦略です。
同書いわく、Amazonは、「人々の購買決断を助けること」をコンセプトとしています。
こうした安直なコンセプトをごく初期の段階から否定し、ユニークなコンセプトで独自の戦略ストーリーを構想した数少ない企業の一つがアマゾン・ドット・コムです。創業経営者のジェフ・ベゾスさんは創業当初から「他社と決定的に異なるのは、アマゾンのビジネスの中核がモノを売るのではないということだ。われわれのビジネスの本質は人々の購買決断を助けることにある」と断言しています。
location 4082
個別化されたレコメンデーションで関連商品を提示することも、「人々の購買決断を助けること」というコンセプトから導かれた戦略です。
しかし、顧客の購買やブラウズのパターンを見て、個別化されたレコメンデーションで購買決断を助けるということは「ネットでなければできないこと」です。顧客ごとにウェブページを丸ごとカスタマイズする、つまり店そのものを顧客の好みに合わせて変えてしまうというアマゾンのやり方は、膨大な投資と長い時間をかけて開発した独自技術の集大成です。
location 4109
Amazonは、やることなすことがいちいちコンセプトに忠実な企業です。『ストーリーとしての競争戦略』は、過去に同じものをかったかどうかを知らせるサービスや、マーケットプレイスの商品を新品の横に並べることを例として示します。
アマゾンもまた、やることなすことがいちいちコンセプトに忠実な企業です。アマゾンのコンセプトは、モノを売るのではなく、「人々の購買決断を助ける」ことにありました。このコンセプトに基づいて、アマゾンはその顧客が過去に同じものを買ったかどうかを知らせるサービスを始めました。
location 4306
●
さて、私が今回、Fire TV Stick購入時に参考にしたレビューも、Amazonの、コンセプトに忠実な姿勢を示す一例なのではないかと思います。
Fire TV Stickにはたくさんのレビューがついていますが、上位に表示されるレビューは、軒並み、「これは旧型だから新型が出るのを待ったほうがよい」という趣旨のレビューです。レビューの中には、Fire TV Stickを絶賛するものも多いのですが、これらのレビューは下位なので、クリックなどをしないと出てきません。
つまり、Fire TV Stickを購入しようかなと考え、amazon.co.jpのサイトに訪れた人々の多くは、レビューを一瞥した瞬間、「これは旧型で、新型が近いうちに出るかもしれない」という情報を知ります。そして、「新型を待つ」「現時点で旧型を買う」という2つの選択肢を得ます。
実際、私も、Fire TV Stick購入時に訪れたamazon.co.jpのサイトから、新型が出るかもしれないという情報を得ました。レビューを見るまでは、すぐにでもFire TV Stickを購入しようと思っていた、つまり、「新型が出るまで待つ」という選択肢は持っていなかったのですが、レビューを見て、「新型が出るまで待つ」という選択肢を持つに至りました。
つまり、Amazonは、「新型を待つ」という選択肢を購入候補者に与えているのです。これによってFire TV Stickの売上が下がる可能性があるとしても。
●
Amazonがとるこの戦略は、いっけん不合理だけれど、実はとても合理的な戦略なのではないかと思います。
私にしても、もし、購入後に、「近いうちに新型が出るかもしれない」という情報を得ていたら、不満を感じたかもしれません。今、私が旧型モデルに満足しているのは、購入前に新型の情報を得た上で、「今・旧型」「待って・新型」という選択肢から、旧型購入を選択したからです。
購入時に顧客に十分な情報と選択肢を与え、人々の購買決断を助けることは、長い目で見ると、Amazonの強みを強化する方向に働くということを、Fire TV Stick購入時に実感したお話でした。
スポンサードリンク
関連記事
-
Evernote×読書「Evernoteにクラウド読書ノートを作る」(『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』Chapter-4のご紹介)
この文章は、『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』(倉下忠憲著)をご紹介するものです。書きたい内容が
-
自分の考えを正確にわかりやすく伝える文章を書けるようになるために役立つ本のリスト
この記事は、大学の講義で使うために作成したメモを、若干整えたものです。 私がこのメモの初版を作った
-
WorkFlowyで作るKindle本の「読書ノート」の実例:『三色ボールペンで読む日本語』
1.はじめに 『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』を読んでから、「読書ノート」を作る習慣を始めまし
-
なにかおもしろいことができる自分の場所を育てる。『「Chikirinの日記」の育て方』を読んだその後。
1.『「Chikirinの日記」の育て方』から得た「なにかおもしろいことができる自分の場所を育てる」
-
ブックマークレット「KindleHighlight」で、「kindle.amazon.co.jp」から、Kindle本のハイライト箇所を、シンプルなデータで、クリップボードに取り込む
その後の展開です。(2015-04-07追記) WorkFlowyにKindleのURLを書いて
-
情報の構造を活かし、Amazonから目次をWorkFlowy&MemoFlowyに取り込む「入口」拡張ツール
1.はじめに 昨日、マロ。さんによって、「kindle highlight to WorkFlowy
-
大学時代に出会えてよかった10冊の本(小説以外)
1.はじめに 大学時代に出会えてよかった本を、小説以外で10冊、ピックアップします。いずれも、読ん
-
なぜ、抜き書き読書ノートを作るのか?
1.はじめに 昨日、抜き書き読書ノートのことを紹介しました。 抜き書き読書ノート そこでも簡単に触れ
-
より自由な「思考する場所」としての紙の本。その特徴と活用を考察する。
1.紙の本も、「思考する場所」 こんな文章を書きました。 本を、「思考する場所」として捉える
-
『サピエンス全史』からブロックチェーンへ
1.『サピエンス全史』 2016年も、たくさんのよい本と出会うことができました。多くの本は、Twit