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ていねいに書き直すために時間とエネルギーがかかるのはあたりまえ~『文章教室』第8回の感想

公開日: : 書き方・考え方

1.『文章教室』の中で、とりわけ第8回が思い出深い

(1) 『文章教室』完結!

『文章教室』は、『数学ガール』シリーズなどで有名な結城浩先生が、ご自身のウェブサイトで公開されているコンテンツです。

文章教室

結城先生が『文章教室』を運営されていたのは、2002年のことでした。それから12年が経った2014年、私は、『文章教室』に出会い、感銘を受け、取り組みはじめました。

結城浩先生の『数学文章作法 基礎編』を読んでから、『文章教室』2014期生のクラスメイトができるまで(あるいは、『文章教室』2014期生へのお誘い)

(2) 第8回「まずはどんどん書きましょう」が、思い出深い

『文章教室』は、全10回で、テーマは以下のとおりです。

  • 第1回 文を短くしましょう
  • 第2回 適切な単語を選びましょう
  • 第3回 パラレリズムを使いましょう
  • 第4回 自然な順序で書きましょう
  • 第5回 語順を変えてみましょう
  • 第6回 重要点は2回書きましょう
  • 第7回 よい比喩を使いましょう
  • 第8回 まずはどんどん書きましょう
  • 第9回 接続詞をうまく使いましょう
  • 第10回 ストレートに書きましょう

これらのテーマの大部分は、読みやすい文章を書くための心得です。「文を短くする」「自然な順序で書く」「よい比喩を使う」など、どれも大切な心得であり、それぞれ具体的に役に立ちます。

これに対して、第8回のテーマである「まずはどんどん書きましょう」は、具体的な心得ではありません。第8回で結城先生が伝えるメッセージは、「考え込まずに、まず、どんどん書き、後からていねいに校正する。 」というものです。第8回で私が練習したのは、読みやすい文章を書くための具体的な心得ではなく、文章を書く基本姿勢でした。

私にとって、全10回の中で、もっとも思い出深いのは、この第8回でした。この理由は、第8回に取り組み、そしてフィードバックをいただいたことによって、「ていねいに書き直すために時間とエネルギーがかかるのはあたりまえ」ということに気づくことができたからです。

このとき学んだこと、考えたことを、ふり返ります。

2.「ていねいに書き直すために時間とエネルギーがかかるのはあたりまえ」を理解するまで

(1) 私は、第8回に取り組み、自分の費用対効果が悪いと感じた

第8回の練習問題は、要するに、

  • 「私は毎日」から始まる文章を、考え込まずに、まず、どんどん書く
  • その文章を、ていねいに校正して、ひとつの文章に仕上げる

というものです。

私がどんどん書いた文章は、こんな文章でした。

『文章教室』(結城浩)練習問題実践記録・第8回「まずはどんどん書きましょう」

思いのままに文章を書きました。費やした時間は、せいぜい15分。費やしたエネルギーは、ごくわずかでした。気分よく、さらりと書きました。

これに対して、ていねいに校正した文章がこちらです。

第3の場所スターバックスで昼ご飯を食べて、自分ひとりの時間を確保する

どんどん書いた文章をていねいに校正するのは、骨の折れる作業でした。3時間以上かかりました。また、書き直しても書き直してもなかなかしっくりとした感じを得ることができず、くたびれました。

どんどん書いた文章と、ていねいに校正した文章を読み比べて感じたことは、費用対効果の悪さです。

15分で書いた文章(A)と、それを元に3時間以上書けて書いた文章(B)を比較し、まず感じたのは、15分と3時間以上の差があるのだろうか、ということでした。

どんどん書いた(A)を(B)に校正するまでに、私は3時間以上の時間を費やしました。(A)を15分で書いたことからすると、15分と180分なので、10倍以上の時間です。

でも、成果物である(A)と(B)だけを比較すると、10倍以上の差はないような気がします。ひょっとしたら、むしろ、(A)の方がよいかもしれない、とすら思います。

成果物を比較すると、私の校正のやり方は、あまり費用対効果がよろしくありません。

『文章教室』(結城浩)練習問題実践記録・第8回「まずはどんどん書きましょう」より)

率直に言って、私は、「我ながら費用対効果が悪いよなあ」と感じ、少々へこみました。

(2) 費用対効果が悪いと感じた理由

今からふり返ると、私が費用対効果の悪さを感じてへこんだのは、仕事で作る仕事文書と同じような感覚で捉えたためです。

私は、日常的に、それなりにたくさんの仕事文書を作成します。それらは、報告書だったり、企画書だったり、講義レジュメだったり、レポートの採点雑感だったりします。

仕事文書を作るとき、私が大切にしていることのひとつは、特定の文書に時間をかけすぎることなく、限られた時間で一定以上の質のものを、継続的に生み出し続ける、ということです。90点の文書を3つ作成するよりは、同じ時間で80点を10個の方がいいし、ときには70点を50個の方がよい、という姿勢です。

しかし、今回の私が3時間を費やして生み出せたアウトプットは、それほど長くもない文章ひとつだけです。仕事文書を作る感覚からすると、この長さと内容の文章を書くために3時間以上書けていたら、仕事がまわらないんじゃないかなあ、という気がしたわけです。

(3) ていねいに書き直すために時間とエネルギーがかかるのは、あたりまえなんだと、気づいた

そんなことを思っていたところ、倉下忠憲さんから、フィードバックをいただきました。

私は、このコメントを、「書き手からすればそう(=10倍以上の差はない)かもしれない、が、しかし(、読み手からすれば、10倍以上の差がある)」という意味で受け取りました。そして、勇気づけられました。

この意味で受け取るとしても、10倍の差があるというのは、あくまでも、もとの文章(A)とできあがりの文章(B)の差の問題なので、できあがりの文章(B)のできがよいと評価されたわけではありません(もとの文章(A)のできがいまいちだというということなのかもしれません)。

が、しかし、私にとって大切だったのは、プロの物書きである倉下さんが、読み手として比較したときに、(A)と(B)には、10倍以上の差があると感じられる、ということでした。

加えて、倉下さんからは、「全ては読み手のためですね。」というコメントもいただきました。

プロの物書きの文章を書く姿勢を垣間見た気がしました。そして、自分が書く文章を、読み手にとって少しでも読みやすいものとするために、ていねいに書き直すこと。これにたくさんの時間とエネルギーがかかるのは、あたりまえのことなんだと、気づくことができました。

私が考えていた文章を書くことの費用対効果の水準は、若干甘かったようです。

(4) "関係の悦びを求めるからこそ、言葉を鍛える意味がある"(西研『ヘーゲル・大人のなりかた』)

関連して、『ヘーゲル・大人のなりかた』という本の一節を思い出しました。引用します。

つまり、関係の悦びを求めるからこそ、言葉を鍛える意味がある。—-自分に不満があるなら、それは何かよく考えてみること、相手の事情に合わせて考えてみること、そのうえで、最終的に相手に通じるような言葉をつくろうとすること。そういう「言葉のモラル」についてぼくは何度か語ってきたけれど、それは別に「義しい態度」を意味しない。むしろそれは、関係の悦びを深くしていくための「技術」なのだ。

『ヘーゲル・大人のなりかた』p.234

読み手にとって、読みやすい文章になるように、ていねいに書き直すこと。それは、書き手にとっての「義しい態度」を意味しません。「全ては読み手のため」というのは、「いやしくも人様に読んでもらう文章を書くからには、ていねいに書き直すべし」という話ではありません。

でも、自分が書いた文章によって、読み手との間に間に何らかの関係を生み出したいなら、書き手は、読み手に通じる言葉を書かなければいけません。西研さんの言葉を借りれば、「全ては読み手のため」を意識してていねいに書き直すことは、関係の悦びを深くするための技術なんだろうなと感じます。

『文章教室』第8回の練習問題に取り組んだことで、私はこんなことを考えました。そんなわけで、私にとって、『文章教室』第8回の練習問題は、何かと思い出深いものとなりました。

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