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文章になる枠の外に、混沌さを排出する、という文章の書き方

公開日: : 書き方・考え方

1.文章を書くことと、情報の秩序

私にとって、「文章を書く」ということには、2つの意義があります。

ひとつは、ひとつの作品としての「文章を書き上げる」ことです。作品としての文章を完成させれば、今の自分ではない誰かに、何らかの情報を伝えることができます。社会に何らかの価値を追加できるかもしれません。

もうひとつは、文章を書くことによって「ものを考える」ことです。文章を書くことは、考えることを促してくれます。何らかのテーマについて、ひとつの文章を書こうとしてみると、文章を書かずに頭の中だけでそらで考えていたときには、全然考えつかなかったことを、考えることができます。

この2つの意義を、情報の秩序という観点から見てみます。

ひとつの作品としての文章の中に存在する情報は、高い秩序を持っています。「文章を書き上げる」とは、文章の中に存在する情報の秩序を高める行為だといえます。

他方で、文章を書くことによって「ものを考える」ことは、思考を拡散させます。多くの場合、文章を書くことで「ものを考える」と、情報はどんどん乱雑になっていき、秩序が崩れます。文章を書くことによって「ものを考える」とは、書き出された情報の秩序を壊す行為だともいえます。

このように、情報の秩序という観点から「文章を書く」ことを見てみると、ここには、2つの方向があります。

  • 「文章を書き上げる」=情報の秩序を高める
  • 「文章を書くことでものを考える」=情報の秩序を崩す

文章を書くと、考えが促され、乱雑さが増えて、情報の秩序が崩れる。でも、文章を書き上げるには、情報の秩序を高めなければいけない。

「文章を書く」という行為には、情報の秩序という点で、相反するベクトルが含まれているのです。

2.フェーズを区切る(下書きをしてから、清書する)

このような正反対の方向を向くベクトルを内在する「文章を書く」をうまく進めるには、どうしたらよいでしょうか。

ひとつの方策は、フェーズを2つに区切ることです。第1フェーズが「ものを考える」で、第2フェーズが「文章を書き上げる」になります。

第1フェーズでは、自由に思考を羽ばたかせ、どんな考えが浮かんできても、それを許容します。思いつくまま書き続けるので、書き出された情報に、どれほど乱雑さが増えようと、気にしません。情報の秩序なんてくそくらえです。

こうして、自由に考えを拡散する第1フェーズを十分に行った後、秩序を高める第2フェーズに入ります。完成品としての文章を思い描き、「問い・答え・理由」のような、秩序ある枠組みへと情報を組み立てて、明確な秩序を作ります。

これは、平たくいえば、「下書きをしてから、清書する」という枠組みです。たとえば、大学入試の小論文試験では、与えられた課題についての考えを十分に拡散させた上で(第1フェーズ)、どんな情報をどんな構造で組み立てどんな順序に並べるか、という答案の構成を十分に練った後、秩序ある答案を書き上げます。

「文章を書く」における、「文章を書くことでものを考える」=情報の秩序を崩すという作用と、「文章を書き上げる」=情報の秩序を高めるという2つの相反する作用を、別々のフェーズに分けることによって、うまく活用しています。

3.文章になる枠の外に、混沌さを排出する

しかし、フェーズを区切るだけが唯一の対策ではありません。フェーズを区切らず、2つのベクトルを同時に使う方法もあります。

フェーズを区切らないということは、つまり、「文章を書くことでものを考える」と「文章を書き上げる」を同時に実行するわけです。しかし、両者は正反対のベクトルです。前者のベクトルが勝てば、思考がどんどん拡散して収拾がつかない混沌状態に陥ってしまいそうですし、後者のベクトルが勝てば、最初の段階で考えたことをカチコチと組み立てるだけで、「文章を書く」ことの創造性やダイナミズムが消えてしまいそうです。

単純に両方を同時に実行しようとすることは、「文章を書く」ことの2つの意義を、2つとも、殺してしまいます。どうすれば、この2つの意義を2つとも活かし、うまく融合することができるのでしょうか。

ポイントは、「文章になる一部分だけの、秩序が高まればそれでいい。文章になる一部分の外側の秩序は、気にしない。」という割り切りです。この割り切りから、「文章になる枠の外に混沌さを排出することによって、文章になる枠の中の秩序を、ひとつの作品たりうるところまで高める。」という方策が浮かび上がります。

これによって、

  • 「文章を書く」という過程から生み出された情報を全体としてみれば混沌の極みに陥っているけれど、
  • その中の一部分だけをみれば、ひとつの作品に値するほど秩序が高まっているので、
  • その一部分だけを切り出すことで、ひとつの作品としての文章を書き上げることができる

ということになるのです。

抽象的ですねえ。

もう少し具体的に書きます。

何らかの経験からあることを思いつき、そのことについてもう少し考え、考えたことに文章という形を与えたい、と思ったとします。たとえば、『ハイキュー!!』という漫画の第89話「理由」を読んで、「その瞬間」のことを考えたくなった、としましょう。

“その瞬間”が有るか、無いか(ハイキュー!第89話「理由」のネタバレあり)

「その瞬間」について思いつくことを片っ端から文章にしていくと、思考がどんどん広がります。「文章を書くことによってものを考える」が作用しているわけです。関連する考えがどんどん浮かんできて、乱雑さが増えていき、情報の秩序は崩壊します。”その瞬間”とまったく関係のないものが浮かんでくることすらあります。

でも、少しずつ、自分にとって大切なところが浮かんできます。たとえば、「”その瞬間”は、バレーに限られないし、スポーツにも限られない。」とかです。そうして、この考えに、ひとつの文章という形を与えたい、と思ったなら、すかさず、「ひとつの文章を書き上げる」ための作業を進めます。この考えの枠を作り、その枠の中に「問い・答え・理由」という構造を組み立て、言葉を書き足したり並べ替えたり削ったりしながら、情報の秩序を高めていきます。

ところが、「文章を書き上げる」をしていると、別の考えも浮かんできます。たとえば、自分が書きたいのは、「”その瞬間”を自分で生み出すことができる」ということなんじゃないか、と気づく、というようなことです。ここで新しく生まれた考えは、何らかの価値を持つものかもしれません。でも、当初設定した枠との関係では、ノイズです。枠内に新しい考えを追加することは、もともとの枠内にある情報の秩序を崩します。つまり、「文章を書き上げる」の過程で、情報の秩序を下げる方向のベクトルが発動してしまっているのです。

であれば、ここで新しく浮かんだ考えは、もともとの枠(”その瞬間”は、バレーに限られないし、スポーツにも限られない。)の外に排出しなければいけません。新しく浮かんだ考えは、いくら自分でお気に入りだとしても、もともとの枠との関係では、情報の秩序を崩すノイズです。だから、枠の外に排出します。枠の外に排出することで、枠の内側の秩序を維持し、高めるわけです。

でも、心配ありません。枠の外に排出されても、新しく浮かんだ考えは死なないからです。そして、そちらの考えの方がより大切なら、そこに新しい枠を作ることができるからです。つまり、「”その瞬間”を自分で生み出すことができる」という枠を作って、その枠に向けての「文章を書き上げる」というプロセスを始めるわけです。

こんなことをくり返していけば、いずれ、どこかの枠の内側の秩序が、ひとつの作品に値するほどまで高まります。そのタイミングで、その枠の内側だけを切り出します。そうすれば、文章の完成です。

こうして、あとに残るのは、

  • 全体としては情報の混沌さが増したけれど、
  • その中に、作品といえるほど秩序が高まった一部分が存在する

という何かです。

このようなプロセスで文章を書けば、「文章を書く」ことに内在する

  • 「文章を書き上げる」=情報の秩序を高める
  • 「文章を書くことでものを考える」=情報の秩序を崩す

という2つのベクトルを、2つともを殺すことなく、存分に活用できます。

今、私が実践している「文章群を書き続ける」というあり方の本質が、このあたりにあるのかなと思っています。

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