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アイデアの「畑」と「地層」:『ハイブリッド発想術』読書メモ(「なぜ、私は、思考するツールとして、Evernoteを使うのか」番外編)

公開日: : Evernote, 書き方・考え方,

1.『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』がドンピシャだった

(1) ブログを使ってEvernoteと思考の関係を考えていたら、アドバイスをいただいた

私は、Evernoteを、主に、思考のための道具として使っています。

Evernoteは、考えを捕まるためにも、考えを育てるためにも、考えを寝かせて熟成させるためにも、大活躍してくれます。私にとって、Evernoteは、思考の結果を記憶しておく場所ではなくて、考えを捕まえ、育て、寝かせる場所です。

Evernote×思考。Evernoteで、考えを捕まえ、育て、寝かせる。より)

でも、最近、Evernoteよりももっと優れた思考のツールがあるのではないか、という疑念が湧いてきました。

とはいっても、Evernoteは思考のために役に立たないのではないか、という方向からの疑念ではありません。そうではなくて、「Evernoteよりももっと優れた思考のツールがあるのではないか?」という疑念が湧いてきた、ということです。

「なぜ、私は、思考するツールとして、Evernoteを使うのか?」の「はじめに」より)

この疑念に答えるため、私は、自分にとって、Evernoteはどんな思考ツールなんだろうかということを考えることにしました。「なぜ、私は、思考するツールとして、Evernoteを使うのか?」という問いを立てて、この問いを考えることにしたわけです。

でも、この問いは大きな問いです。なので、最後までひとりで全部考えてからその結果をブログに投稿する、ということは、私の手には負えませんでした。

そこで、その時点その時点までに考えたことを、ちょっとずつブログに投稿していくことにしました。

そこで、最初からまとまったかたちにすることは諦めて、気長に、その都度その都度の到達点をかたちにすることで、少しずつ思考を進めていく、ということを試みます。

「なぜ、私は、思考するツールとして、Evernoteを使うのか?」の「はじめに」より)

そうしたところ、ブログを読んでくださったるうさんから、Twitterで、こんなアドバイスをいただきました。

るうさんのアドバイスは、このテーマを考えるなら、倉下さんの『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』がぴったりだ、というものです。

私が、「なぜ、私は、思考するツールとして、Evernoteを使うのか?」という問いを立てたのは、そもそも、倉下さんによる以下の指摘がひとつの起点になっています。

Evernoteは記憶のツールであって、思考のツールではありません。 きちんと役割分担が必要です。

R-style » Evernoteから思いつきのメモをOmniOutlinerに移すことについてより)

であれば、この機会に、倉下さんが、Evernoteと思考整理の方法などについて語っているという、この『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』を購入することにしました。

(2) ドンピシャだった

今日の昼ころから読み始めて、ノンストップで読了でした。これはすごい!今、私が考えたいと思っていることに、ドンピシャでした。

私がEvernoteから価値を引き出せるようになったのは、だいたい、ここ1年くらいです。この1年くらいの間、Evernoteから引き出せる価値の本質は、どんなものなんだろう、などということを、よく考えていました。

この『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』には、私がここ1年くらいで何となく感じていたEvernoteの本質、Evernoteの強みが、とてもわかりやすく、かつ、とても深く、表現されていました。

たくさんの箇所で、すとんと腑に落ちました。

まさに私が今読むべき本だったと思います。このタイミングでこの本に引き合わせてくれたるうさん、ありがとうございます。それから、2012年の段階でここまでの考察を進められていた倉下さんのことを、あらためて尊敬します。

2.『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』の構成

『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』の構成は、以下のとおりです。

はじめに All You Need Is Idea!?

01 良いアイデアは良い「畑」から生まれる

02 アイデアの種を見つけるメモ術のバリエーション

03 アイデアの種を大きく育てる連想ノート術

04 アイデアの実を収穫するセンスを磨く

05 Evernoteによるアイデア地層のつくり方

06 ハイブリッド考具としてのiPad活用法

おわりに 誰にでもアイデアの「地力」がある

各章について、軽くご紹介します。

(1) アイデア畑(01 良いアイデアは良い「畑」から生まれる)

アイデアはどこからやってくるか?

アイデアの六原則を知る

  • 原則1:誰にでも実行できる
  • 原則2:アイデアは種と土の出会い
  • 原則3:アイデアには工程がある
  • 原則4:何がどのようにできるかは分からない
  • 原則5:発想はスキルである
  • 原則6:ツールは補助的な存在である

アイデアパーソンになるための三つのポイント

  • ポイント1:種をたくさん見つける
  • ポイント2:土壌を豊かに保つ
  • ポイント3:きっちり実を収穫する

アイデアを考えるにはツールが要る

本章のまとめ

  • □アイデアは誰にでも生み出せます
  • □発想力は鍛えられます
  • □ツールをうまく使うことも大切です

「01 アイデアはよい「畑」から生まれる」は、「アイデア畑」という、本書を貫くメタファーを紹介し、アイデアを生むための基本的な考え方を説明するパートです。

コンパクトかつポイントを突いたわかりやすい記述なので、この章は、発想法の基本を押さえるためにも有益です。

「アイデア畑」というメタファーは、考えることを考える際に、すごく有効でわかりやすいものだと感じました。

(2) 発想のプロセスと発想のツール

「02 アイデアの種を見つけるメモ術のバリエーション」「03 アイデアの種を大きく育てる連想ノート術」「04 アイデアの実を収穫するセンスを磨く」は、発想のプロセスを扱うパートです。本書の本体部分です。

本書は、発想を、着想→連想→整想というプロセスで捉えていますので、各章がひとつひとつのプロセスに対応します。

a.着想・種・メモ(02 アイデアの種を見つけるメモ術のバリエーション【着想のプロセス】)

発想はメモを取る習慣から生まれる

  • 第一の障壁:何を、どのようにメモしていいのかわからない
  • 第二の障壁:メモしたい時に、手元にメモするものがない
  • 第三の障壁:メモを取ったけれども、それが活用できていない

タイプ別実践メモ術

今日からはじめられる四つのメモ・エクササイズ

本章のまとめ

  • □自分の頭から出てくる「気づきメモ」が重要です。
  • □どこでもメモを取れる環境を作りましょう。
  • □取ったメモは一カ所に保存して後で見返しましょう。

着想は、種を集めるプロセスです。メモの意義とコツが丁寧に記載されています。

メモを取る習慣を身につけるための3つの障壁の話は、たいへん参考になりました。

b.連想・育てる・アナログ紙ノート(03 アイデアの種を大きく育てる連想ノート術【連想のプロセス】)

アイデアの種を大きくするのに必要な二つの考具

  • 見えない道具:発想法=連想法
  • 自由連想法
  • 制約設定法
  • トリガーワード法
  • メタ思考法

連想法に適しているのは、アナログのノート(見える道具:ノート(紙ツール))

連想を広げるトレーニングとしての「一人ブレスト」

アイデアの種を育てるエクササイズ

本章のまとめ

  • □アイデアを広げるには連想が肝
  • □人の記憶は「きっかけ」によって引き出される
  • □心地よく連想を広げられるツールを使う

連想は、アイデアを育てるプロセスです。ここで登場するのは、見えない道具としての発想法と、見える道具としてのアナログ紙ノートです。

見えない道具としての発想法(=連想法)を、4つに分類して整理しているのですが、この記載は、すごくわかりやすかったです。

c.整想・収穫・デジタルツール(04 アイデアの実を収穫するセンスを磨く【整想のプロセス】)

発想プロセスの最後の大切な一歩

アイデアの形を整えるデジタルツール群

  • デジタルマインドマップ
  • アウトラインプロセッサ

アイデアを整えるための三つのポイント

  • キークエスチョン(要点を見つける)
  • 目次作り(構造化する)
  • ストーリーライン(ストーリーを作る)

最終的なアウトプットを見すえた「整想」エクササイズ

本章のまとめ

  • □アイデアは最終的に収束させる必要がある
  • □アイデアは人に伝わってナンボを忘れない
  • □「要点を見つける」「構造化を行う」「流れを作る」の三つを押さえる

「整想」というのは、本書の造語で、発想を整えて、他者に伝わるかたちにすることです。この言葉は、本書を読んでいて、なるほど!と感じたポイントの一つでした。

発想術というと、アイデアを思いつくことや育てることまでがイメージされることが多いと思います。しかし、「整想」まで行かないと、アイデアが価値を生み出すことはありません。そのため、「整想」の重要性は、どんなに強調しても強調しきれないのではないかと感じます。

整想は、畑のメタファーでは収穫に相当します。そして、整想のためのツールは、デジタルのものです。

整想のための3つのポイントとして紹介されているもののうち、私は、キークエスチョンという考え方にハッとさせられました。今後、活用したいと思います。

また、整想エクササイズとして提案されていた「幻本の企画書を書いてみる」というのは、とてもおもしろそう。今度やってみます。

(3) Evernoteによるアイデア地層(05 Evernoteによるアイデア地層のつくり方)

アイデアの地層化が可能になった

Evernoteで「体験」を保存する

Evernoteの情報整理スタイル

Evernoteでできるこんなアイデアの地層化

本章のまとめ

  • □アーカイブデータをEvernoteに保存していく
  • □整理は最小限の手間で、「後で見つけられる」程度で十分
  • □一気に全てやるのは無理がある。小さいところから少しずつはじめる

「05 Evernoteによるアイデア地層のつくり方」は、発想のプロセス全体をEvernoteに蓄積することで、Evernoteにアイデア地層が生まれるということと、その方法を解説しています。この「アイデアの地層化」というメタファーも、本書の中で、特に響いたところです。

化石燃料も埋まっているだけでは意味がなく、それらを掘り出して使う必要があるように、自分の記憶や体験も忘れてしまったままでは、あまり意味を成しません。知識・情報・体験を蓄えて、それを「掘り出せる」状態にしておくことで、役立てることができます。

必要な時に、昔の自分の体験を引き出せるようにしておくこと。これが「アイデア地層」作りです。表現を変えれば、過去の自分を味方にするための方法と言えるかもしれません。

Evernoteに蓄積することで、「過去の自分を味方にする」というのは、ワクワクします。Evernoteの魅力をわかりやすく表現していると思います。

(4) ハイブリッド考具 iPad(06 ハイブリッド考具としてのiPad活用法)

アップルによってもたらされた新しい考具

アナログ感覚でデジタルデータを扱えるツール

iPadを考具に変えるアプリたち

本章のまとめ

「06 ハイブリッド考具としてのiPad活用法」は、iPadは、アナログ感覚でデジタルデータを扱うことができるという、これまでにないツールなので、iPadを使うと、これまでにない発想ができるかもしれないよ、というようなことが書いてあります。

3.この本を読み終えた今、私は何を考えたらいいんだろう、という気もするけれど、考えるべきことは、たぶんまだたくさん残されている

「なぜ、私は、思考するツールとして、Evernoteを使うのか?」という問いを抱えている今このタイミングで、『Evernoteとアナログツールによるハイブリッド発想術』を読むことができたのは、ほんとうにありがたいことです。たくさんの収穫がありました。

しかし、この本を読んだことは、私に大きな課題を突きつけもしました。それは、「この本が存在することを前提として、何かまだ考えるべきことは残されているのだろうか?」「この本がすでに存在するのに、さらに私が何か考えることはあるのだろか?」「この本を読み終えた今、私は何を考えたらいいんだろう?」ということです。それくらい、この本は、Evernoteと思考の関係について、深く考察しています。

でも、考えるべきことは、まだたくさん残されているのだろうと思います。Evernoteも思考も、大きなテーマです。考え尽くす、ということは、たぶん不可能です。今の私に見えていないだけで、きっと、考える余地は、たくさん残されています。

というわけで、もうしばらくの間、「なぜ、私は、思考するツールとして、Evernoteを使うのか?」という問いを考えていこうと思います。

「なぜ、私は、思考するツールとして、Evernoteを使うのか?」の「はじめに」

とはいえ、まあ当分は、この本から拾った種をひとつひとつ畑にまいて、育てていくことになりそうです。それだけで当分楽しめそうです。コストパフォーマンスが高い本でした。

【いろんなブロガーさんたちが書いた書評エントリ】

『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』の書評エントリのまとめです。いろんな方が書かれているんですねえ。

R-style » 『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』
「発想法」をテーマにした、拙著6冊目。 発想において、アナログ・デジタル・クラウドツールをどのように使うのか。 そもそも、「発想」って一体なんなのか。 どうすれば、発想力を鍛えることができるのか。 …

私のおすすめ書評は、こちら。

温故知新の誠実な一冊!倉下忠憲『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』 – カフェパウゼをあなたと

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