「WorkFlowyで本を書いた人からの手紙」
目次
1.はじめに
こんにちは。少しずつ暖かくなってきましたが、いかがお過ごしでしょうか。
先日さし上げた手紙に対しては、丁寧なお返事をいただき、ありがとうございます。
はじめての本を1冊書いただけの私が、たった一言といいながら、長々と自分のことを語ってしまった手紙だったのに、正面から受け止めていただき、とても感謝しています。とりわけ、『これから本を書く人への手紙』に興味を持っていただけたことに、最高の気分です。呆れられること覚悟で手紙を書いて、本当によかった。
あなたは、『これから本を書く人への手紙』に興味を持ってくださいました。だから、これ以上のアドバイスは無用かもしれません。ですが、私はもう1通の手紙を書くことにしました。私だからこそ伝えられることが、もうひとつ残っているのではないかと考えるからです。
今度のアドバイスも、たった一言でいえます。
「WorkFlowyで本を書いてみてはいかがでしょうか。」
「本を書くための道具に、WorkFlowyを使ってみてはいかがでしょうか。」
ただ、一言でいえるこのアドバイスも、例によって、とても長くなります。
●
先日の手紙でも書いたとおり、私は、1冊の本を書きました。『クラウド時代の思考ツールWorkFlowy入門』という、WorkFlowyと知的生産についての本です。
『クラウド時代の思考ツールWorkFlowy入門』(Kindle)
私は、この本を、WorkFlowyを使って書きました。
本を書くためにWorkFlowyを使う人は、きっとたくさんいらっしゃいます。でも、私が本を書くためにWorkFlowyを使ったその使い方は、多分、それほど一般的なものではありません。
私の方法は、1冊の本を書き上げるまでのフローのほとんど全部に、WorkFlowyだけを使う、というものです。私は、ほとんどWorkFlowyだけを使って、この本の原稿を書き上げました。
ほとんどWorkFlowyだけを使って本1冊分の原稿を書く、という方法は、現時点では珍しいのではないかと思います。少なくともウェブや書籍で公開されている日本語情報を観測するかぎり、自分以外でこれを実践した人を、私は知りません。
ですが、こと私にとっては、この方法は、かなりうまく機能しました。私は、本を書くことを楽しめたと言ってよいと思うのですが、このことのかなりの部分は、WorkFlowyを使ったおかげです。
だから、私は、だいたいWorkFlowyだけで本1冊分の原稿を書いた者として、WorkFlowyで本を書くことについて、お話します。「WorkFlowyを使って1冊の本を書くことは、すばらしい体験ですよ」ということをお話します。
●
この手紙で、私がお話しすることは、大きく見ると、2つの部分に分かれています。
- 「WorkFlowyで本を書く」ということについての、基本的な考え方
- 「WorkFlowyで本を書く」ということを現に前に進めるために役立つ、具体的なコツ
長くなりますが、一部分だけでも、参考になるところがあれば、とてもうれしいです。
2.基本的な考え方
WorkFlowyは、本を書くためだけの道具ではありません。WorkFlowyは、いろいろな用途に使える自由な道具です。
そんなWorkFlowyを本を書くための道具として使うには、ユーザーの側が、それなりの方針、それなりの考え方を持っておく方がよいように思います。そこで、私なりに大切だと考えている方針や考え方を、3つ、お話しします。
これらの方針や考え方は、抽象的といえば抽象的で、即効性はありません。でも、これらを意識しておくと、WorkFlowyは、本を書くことに対して、他の道具にはない持ち味を発揮してくれます。
(1) 全体から一部分を切り出す
「本を書く」ということには、「全体から一部分を切り出す」という側面があります。WorkFlowyは、この「全体から一部分を切り出す」というあり方を具体的な形で実現してくれる道具です。「全体から一部分を切り出す」という考え方を強く意識すると、WorkFlowyで本を書くことが、うまく進みます。
●
「本を書く」ということには、「全体から一部分を切り出す」という側面があります。
まず、あなたがどんな本を書くとしても、あなたが表現したいことのすべてを、その1冊の本だけで表現しきることは不可能です。本を書くためには、あなたが表現したいことの全体から、本にする一部分を切り出す必要があります。
次に、あなたが本という形で表現したいと思うことは、あなたの生活という全体から見れば、きっと一部分です。他者に対して表現したいと思うことは、自分や自分の生活を構成するたくさんの要素のうちの、一部分です。ですから、誰かに何かを表現するとは、それ自体が、自分の生活全体から一部分を切り出すことでもあります。
それから、あなたが書こうとする本は、何らかのテーマを持っていると思います。この何らかのテーマのうち、あなたの本が扱える部分は、そのテーマ全体のうちの一部分に過ぎません。どんなテーマであれ、そのテーマに関する全てをもれなくカバーする本を書くことは、不可能です。
このように、「本を書く」ということは、いろいろな意味で、「全体から一部分を切り出すこと」です。
●
では、「全体から一部分を切り出す」という考え方が、「WorkFlowyで本を書く」ということに、どのように役立つのでしょうか。
私が大切だと思うのは、不完全でもいいから切り出す、という覚悟を持てることです。勇気と言ってもいいかもしれません。
どんなに努力しても、あなたが書く本は、おそらく、完全な存在にはなりえません。
ひとつの理由は、倉下さんもいうように、「人間は不完全な存在だから」です。
よって、このことを心に刻んでおきましょう。
「人間は、不完全な存在である。よって、その人間の手で紡がれる本もまた不完全である」
もちろん、これを手抜きの理由にしてはいけません。あくまで恐怖におびえる手の震えを止めるための言葉です。ちょっとした呪文です。おまじないです。
完璧さを目指すあまり、足を止めてはいけません。最初の一歩でそこにたどり着ける人は誰もいないのです。というか、どこまで歩いてもきっとたどり着けないでしょう。されども、それを目指す歩みを止めてもいけません。
『これから本を書く人への手紙』 location 102
でも、これだけが理由ではありません。
本というものが、「全体から切り出された一部分」だから。これが、もうひとつの理由です。
あなたが書く本は、あなたが扱おうとするテーマとの関係でも、あなたが表現したいこととの関係でも、あなたが調べたり考えたりしたこととの関係でも、「全体から切り出された一部分」です。一部分なのだから、欠けているところもあるでしょうし、語られていないこともあるでしょう。しかし、それは原理的にそういうものなのです。
不完全な存在を完成品として世に放つこととは、考えてみれば、とても怖いことです。足がすくんで動けなくなることだってあるかもしれません。
でも、「全体から切り出された一部分」という考え方が、おまじないになってくれます。
あなたが書く本は不完全ですが、それは、あなたの本が、「全体から切り出された一部分」だからです。あなたが考え、あなたが表現したいと思っていること全体が不完全だというわけではありませんし、ましてや、あなたという存在の全体が不完全なわけでもありません。
なおかつ、不完全でもいいから一部分を具体的な本という形で切り出すことによって、あなたという存在や、あなたが考えていることが、読者との接面を持ちます。
このように、「全体から一部分を切り出す」という考え方は、WorkFlowyで本を書くこと全体を支えてくれます。
(2) 一本の筋は、最後の最後まで固定しなくていい
本には、一本の筋が必要です。倉下さんが『これから本を書く人への手紙』で書いていた通り、一本の筋がまっすぐ通っていることが、本と本でないものを分けます。
一冊の本を背景で支えるもの。それは、筋です。一本の筋です。
一本の筋がまっすぐ通っていること。それこそが本と本でないものを分けると言っても過言ではありません。
『これから本を書く人への手紙』 location 399
一冊の本に一本の筋をまっすぐに通すことは、何も考えずに適当に書き進めているだけでは、普通は、できません。一本の筋をまっすぐに通すには、いろいろなことを一生懸命に考える必要があります。
では、いろいろなことを一生懸命に考えるとは、一体何を意味するのでしょうか。「何を」や「どのように」が大切なのはもちろんですが、ここでは、「いつ」に着目します。「一冊の本に一本の筋をまっすぐに通すため、いつ、一生懸命に考えたらよいのか?」です。
●
この「いつ、一本の筋を一生懸命考えたらいいのか?」には、難しい問題が潜んでいます。
教科書的には、「最初の段階」とされることが多いように思います。本を書き始める最初の段階で、その本がどんなテーマについて誰に対してどんなメッセージを届ける本なのかを、一生懸命きちんと考えきるべし、というわけです。
ところが、「最初の段階」で一冊の本を貫く一本の筋を考えきることは、そんなに簡単なことではありません。「最初の段階」で「どんなテーマについて誰に対してどのようなメッセージを伝えるか」を考えようとしても、あまりいい考えは浮かんできませんし、無理やりひねり出したとしても、実際に本の中身を書いている途中で、どんどん変化していきます。
他方で、「最初の段階」で一本の筋を決めなければ、どこに向かって進んだらいいのか、わかりません。「最初の段階」で一本の筋を決めるべし、いう考え方は、それはそれで合理的なのです。
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このように「いつ」一本の筋を一生懸命考えるかは、なかなか難しい問題なのですが、しかし、WorkFlowyで本を書くなら、実はあまり問題になりません。なぜなら、WorkFlowyで本を書くなら、「最初の段階」に限らず、一冊の本を書くプロセスにおけるどのタイミングでだって、いつでも一本の筋を考えることができるからです。
たとえば、WorkFlowyなら、まず、その一冊の本によって誰にどんなメッセージを伝えたいかを書いてから、トピックを階層構造に組み立てることで章立てや項目を決め、さらにその子トピックに本文を書いていく、という方法で、原稿を書くことができます。これは、「最初の段階」で一本の筋を一生懸命考える、という書き方で、方向としてはトップダウンです。
しかし、WorkFlowyなら、こうして「最初の段階」で考えた一本の筋に縛られる必要はありません。ひとつひとつの項目の原稿を書き進めているうちに、自分が一冊の本全体で伝えたかったことは、最初に思い描いたものとは少し違うのかもしれない、と感じ、メッセージを変化させても、問題ありません。それまで書いた原稿は基本的にそのままで、章立ての階層構造を変化させればよいのですから、以前に書いたトピックが無駄になることも多くはありません。
実際、私が『クラウド時代の思考ツールWorkFlowy入門』に通す一本の筋を最終的に決めたのは、〆切まで残り1、2週間しか残されていない時期でした。それでも、そこまでに書いた原稿のほとんどを、新しく定めた一本の筋に向けて有機的に統合できたので、(多少バタバタはしましたが、)〆切に間にあわせることができました。
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一冊の本には、一本の筋を通さなければいけない。
でも、どんな一本の筋を通すかは、必ずしも「最初の段階」で固定する必要はない。
本を書くプロセスの全体を通じて、あなたの本に通すべき一本の筋を考え続けることができる。
これが、WorkFlowyで本を書くことの、ひとつのメリットであり、大きな特徴です。
(3) 1冊の本を書くという特別な体験を、まるごとWorkFlowyにしまう
「本を書く」ことは、特別な体験です。誰の人生にでもやってくることではありませんし、仮にやってきたとしても、そうそうなんどもやってくるわけでもありません。
(たとえば、毎月1冊の本を書く、なんていうことは、超人にしかできませんし、それを現に実行した人を、私はひとりしか知りません。)
ですから、あなたが「本を書く」という体験に取り組むのであれば、そのめったにできない貴重な体験を大切にしなくちゃもったいないと言えます。可能な限り、そのめずらしい体験を克明に記録し、あとからいつでも見返すことができるようにしておきましょう。
●
とはいえ、WorkFlowyで本を書くなら、特別なことをする必要ありません。
後々のための記録のことなどは一切考えず、「本を書く」というプロセス全体に、WorkFlowyをできる限り活用しましょう。そうすれば、結果として、WorkFlowyの中に、「本を書く」という特別な体験が、まるっと、しまわれるはずです。
まず、本の原稿、本を書くための資料、本を書くために考えたこと。WorkFlowyの上で本に書く内容を考え、本を書くための資料を整理し、実際に文章を書き続けていけば、これらがすべてWorkFlowyの「ただひとつのアウトライン」の中にしまわれていきます。
次に、本を書き上げるためのタスク管理。一冊の本を書き上げるために実行すべきタスクはたくさんあります。これらのタスクを、WorkFlowyで管理しましょう。「第3章の原稿を書く」といった執筆そのものだけでなく、「編集者さんに校正を返す」「契約書の内容を確認する」といった周辺的な事務タスクも全部です。WorkFlowyでタスクを管理すれば、WorkFlowyの中で完了となったタスク情報が、この上ないログとして機能します。
それから、私の一押しは、本を書くときに浮かんでくる感情です。
一冊の本を書く過程では、たくさんの感情が浮かんできます。はじめての本なら、なおさらです。ワクワクしたりやる気になったり、といったプラスの感情もあるでしょうが、不安や恐怖、面倒くささや後悔といった、マイナスの感情も多いのではないかと思います。
マイナスの感情が浮かんできたときは、ついつい、見ないふりをしたくなります。でも、マイナスの感情を無視して放置すると、タスク実行の妨げになりがちです。それよりは、マイナスの感情を言葉にしてみることによって一度きちんと認識してみる方が、うまくいきます。
WorkFlowyは、タスク実行時に湧いてくるマイナスの感情を受け止めるための道具としても、なかなか優れています。
●
本を書くことに関するいろいろなことにWorkFlowyを使えば、結果として、WorkFlowyの中に、「本を書く」という体験の全体が、WorkFlowyの中にしまわれます。この体験は、その後ずっと、WorkFlowyの中で響き続け、何らかの価値を生み出し続けるかもしれません。
3.具体的なコツ
「WorkFlowyで本を書く」ということは、ここまでに書いてきたような性格を持っています。
いかがでしょうか。何かしら面白そうなものを感じていただけたでしょうか。そうだとしたら、とてもうれしいです。
とはいえ、仮にそうだとすれば、あなたの頭には、「では、具体的には、どうしたらよいのか?」という疑問も浮かんでいるかもしれません。
そこで、以下では、「WorkFlowyで本を書く」ということを始めるにあたって、すぐにできるいくつかの具体的なコツを並べます。
(1) 行き詰まったら、環境を変える
一冊の本を書き上げるまでの過程では、行き詰ることだってあります。
- 書きたいことが頭の中にあるのに、うまく言葉にならない。
- 書いてみたけれど、うまく伝わっている気がしない。
- そもそも何が書きたいのかわからなくなる。
これらをひとつひとつ解決していくことが、本を書くというプロセスでもあります。
行き詰まりを解決するための方法には、いろんなものがあるはずです。とりわけ、先日の手紙でおすすめした『これから本を書く人への手紙』には、一般的な本を書くことについて、具体的で有益なアドバイスがいくつも並んでいます。
そこで、ここでは、「WorkFlowyで本を書く」ときに特に有益な方法を紹介します。「環境を変える」です。
●
ここでの「環境」とは、「本を書くための環境一般」を想定しています。たとえば、次のようなことです。
- 端末
- どの端末からWorkFlowyを使って、本を書くか?
- アプリ
- どのアプリからWorkFlowyを使って、本を書くか?
- どのようにカスタマイズしたアプリを使って、本を書くか?
- 場所や姿勢
- どの場所からWorkFlowyを使って、本を書くか?
- どんな姿勢でWorkFlowyを使って、本を書くか?
それぞれ、次のように環境を変えることができます。
- 端末を変えるための選択肢
- デスクトップパソコンからWorkFlowyを使う
- ノートパソコンからWorkFlowyを使う
- タブレットからWorkFlowyを使う
- スマートフォンからWorkFlowyを使う
- アプリを変えるための選択肢
- パソコンからWorkFlowyを使うなら
- WorkFlowyアプリ(Chromeアプリ)
- 一般的なブラウザアプリ
- WorkFlowyのためにカスタマイズしたブラウザアプリ(たとえば「WorkFlowy専用Firefox」)
- スマートフォンからWorkFlowyを使うなら
- WorkFlowy公式アプリ
- ブラウザアプリ
- HandyFlowy(機能拡張スクリプトでカスタマイズすることも)
- パソコンからWorkFlowyを使うなら
- 場所や姿勢を変えるための選択肢
- 自分のデスクに座って
- スターバックスなどで座って
- 電車の中で立って
- 自宅リビングのソファでリラックスした姿勢で
環境を変えて、別の環境から書いてみると、時々、それまでの行き詰まりが嘘のように解決することがあります。これは、行き詰まりを「打開する」というよりも、むしろ、「分解する」「ほぐす」という感じです。
ディスプレイサイズの変化、入力方法の変化、場所の変化、姿勢の変化などから、考え方や視点が変わり、すっと行き詰まりが消えてしまうのかもしれません。
WorkFlowyは、クラウドサービスなので、どの端末からも、どのアプリからも、どの場所やどのような状態からも、共通するひとつのデータを扱うことができます。本を書くための環境一般を変えることは、WorkFlowyの特徴を生かした方法と言えるでしょう。
行き詰まったら、環境を変える。
クラウドツールであるWorkFlowyならではの書き方です。行き詰まったら、試してみてください。
(2) 困ったときのフリーライティング
本を書き上げるまでの過程では、ちょっとした行き詰まりよりも大きな問題が生まれることもあります。
- 誰に何を伝えたいのかさっぱりわからなくなり、にっちもさっちもいかなくなる。
- 本を書くこと自体に対するモチベーションが下がり、本を書くことが嫌になって、本を書き始めたことを後悔する。
- 本を書くこととは別の、生活や仕事で問題が生じて、本を書くどころではなくなる。
これらの問題には、本を書く環境を変えるくらいでは、どうにもならないような気がします。
では、どうしたらよいでしょうか。
どうしようもないことも多いと思いますが、どうしようもない中でもできるひとつの行動が、「フリーライティング」です。
「フリーライティング」とは、あらかじめ設定した時間、とにかく頭に浮かんだことや心に引っかかっていることを、文章で書き続けることです。
フリーライティングとは、たとえば10分か20分、あらかじめ決めておいた時間、とにかく書きつづけるプロセスを指します。
フリーライティングをすると、絡み合った感情がほぐれ、自分が対処すべきことが明確になることがあります。そして、不思議と、問題が消えてしまっていることがあります。
困ったときのフリーライティング。
私自身は、この言葉を掲げながら、本を書いていました。
●
では、本を書く途中でフリーライティングをするには、どうしたらよいでしょうか。
フリーライティングをするのに、特別な道具は必要ありません。自分が気持ちよく文章を書くことのできる道具なら、どんなものでも構いません。
ですから、あなたが「WorkFlowyで本を書く」ことに取り組んでいて、WorkFlowyで文章を書くことを気に入っているのであれば、フリーライティングのための道具としても、WorkFlowyを使うのが自然です。
WorkFlowyでフリーライティングをするなら、基本的には、アウトラインの中のどこか適当な場所にひとつのトピックを作り、その子トピックに、頭に浮かんだことをどんどん書き続ければよいかと思います。
とはいえ、大切なのは、フリーライティングのためにどんな仕組みを作るか、ではなく、しかるべきタイミングで実際にフリーライティングをすることです。ですから、例えば、WorkFlowyで本の原稿を書きながら、原稿トピックの中にひとつのフリーライティング用トピックを作り、その子トピックにフリーライティングをしていく、といった形でも、問題はありません(まちがえてフリーライティングを入稿してしまったら大変なので、注意か必要ですはありますが)。
●
—以下は脇道です—
ただ、フリーライティングは、単なる「問題を解決するための手法」ではありません。
「その問題を解消できる・できないに関わらず、その問題の存在を、自分の人生全体にとっての大切でかけがえのない一部分にしてしまう手法」というのが、私が持っているイメージに近いです。あんまりうまく言えていませんね。
何はともあれ、上で書いたような問題は、あなたの人生にとって、多分、大切な問題です。そして、本を書くためにあなたの人生があるのではなく、あなたの人生のためにあなたは本を書いているのだろうと思います。
あなたの人生とあなたの書く本との関係を正しく把握した上で問題と向き合うために、フリーライティングは、役に立ちます。
(3) とりあえず、小さな範囲に全力を注ぎ、その一部分を完成させようとする
あなたは、今、一冊の本を書こうとしています。でも、ひょっとするとあなたは、いったいどこから手をつけたらよいのか、途方にくれているかもしれません。そうだとしても、無理はありません。多くの人は、一冊の本を書き上げるための方法を、教わったことがないのですから。
私もそうでした。でも、どこから手をつけたらよいのか途方にくれながらも、とりあえず手をつけていたら、なんとか最後までたどり着くことができました。
こんな自分の経験から、ここでお伝えしたい「WorkFlowyで本を書く」ことの具体的なコツは、
とりあえず、小さな範囲に全力を注ぎ、その一部分を、とりあえず完成させようとする。
です。
●
ここでいう「小さな範囲」とは、本全体の中の一部分です。たとえば、「はじめに」とか、「参考文献一覧」とか、あるいは特定の「第●章」とか「第●節」とかが、これに当たります。これら小さな範囲に全力を注ぎ、その一部分を、とりあえず完成させてしまうのです。
本全体を完成させることと比較すれば、小さな範囲を完成させることは、格段に楽です(当たり前です)。たとえば数日間、その小さな範囲に全力を注げば、その小さな範囲をとりあえず完成させることだって、十分に現実的です。だから、とりあえず小さな範囲に全力を注ぎ、その一部分を、とりあえず完成させてみましょう。少なくとも、完成させようとしましょう。
これが、ここでお伝えしたいコツです。
●
「とりあえず、小さな範囲に全力を注ぎ、その一部分をとりあえず完成させようとする」ということには、どんな効果があるのでしょうか。実は、かなり大きな効果があります。そして、WorkFlowyを使って本を書くなら、とりわけ大きな効果を期待することができます。
まず、たとえ小さな範囲のとりあえずの完成であっても、一部分を完成させること自体に、小さくない意味があります。うれしいですし、自信になります。また、全体を完成させるまでの見通しが立ちます。
WorkFlowyなら、自分が書いたあらゆるものは、「ただ一つのアウトライン」の中に蓄積され、散逸しません。だから、どんなに小さな一部分であっても、その完成した一部分は、いつか全体の中にうまく位置づけられ、結実します。だから、小さな一歩であっても、それは確かな一歩です。
次に、小さな範囲を完成させようと全力を尽くす過程で、その小さな範囲を超えた、本全体にとって有益な収穫が、たくさん生まれます。
一冊の本全体を書き上げるためには、いろいろなことを考える必要があります。たとえば、どんなテーマについて、誰に対して、どのようなメッセージを、どのような文体によって、伝えるか、とかです。しかし、これらのことは、それ自体を目的として考えようとしても、なかなかうまくいかないのではないかと思います。それよりもむしろ、本全体の中の一部分を完成させようとする中で、副次的に、自然と、考えが進むような気がします。
WorkFlowyで書いているなら、ある部分を書いているときに思い浮かんだ思考の断片をキャッチすることが、とても簡単です。適当なトピックを立てて、その下に思いつくまま書きつけておけば、けっして失われず、いつか結実します。
だから、「WorkFlowyで本を書く」のであれば、「とりあえず、小さな範囲に全力を注ぎ、その一部分をとりあえず完成させようとする」ということは、その小さな範囲だけでなく、本全体を前に進めてくれる効果を持つのです。
(4) とりあえず、手元にあるすべての素材を並べて、本一冊分の全体を組み立てようとする
どこから手をつけたらいいのかわからないときにできることは、もうひとつあります。とりあえず全体を描いてみることです。
具体的には、
- これまでに書いたものや調べたことやメモしたことなど、現時点で手元にある素材を、全部WorkFlowyの中に集める
- WorkFlowyの中に適当なトピックを立てて、書こうとしている本の目次(仮)を作る
- 目次(仮)の下に、現時点である素材を全部並べる
という作業をします。
●
あなたは、これまでに、本を書くためにいろいろな作業をしてきました。だから、現時点で、あなたの手元には、本の素材となりそうな文章やメモや資料などが、たくさんあるはずです。これらを一度並べてみると、本全体の形が浮かんできます。
文章は書きかけで、メモは断片的で、資料の裏付けは不十分かもしれません。でも、心配無用です。あくまでもこれは、目次(仮)にもとづいて、仮の全体像を組み立てるだけです。個々の部分が完璧になっていないくても、とりあえず全体を描いてみます。
仮であっても、全体像を描いてみることには、いくつかの効果があります。
大きなものとしては、今後のやるべきことが明らかになる、ということです。現時点で手元にある素材を並べただけで本が完成することは、まずありません。欠落が浮かび上がります。この欠落が、今後のやるべきことです。
また、これまでに自分が取り組んできたことの軌跡を確認できることで、少し安心できる、ということもあります。
ゴールを見定め、スタート地点から現在地までの軌跡を確認することで、これからの課題が浮かび上がる。全体像を仮に描くことには、こんな意味があります。
●
WorkFlowyは、この作業がとても得意です。
この作業をするには、これまでに書いた素材を動かしまわる必要があるのですが、WorkFlowyに備わっているトピック移動機能を持ってすれば、楽勝です。小さな断片も、大きな原稿の塊も、自由自在に動かして、いくつもの階層構造を組み立てることができます。
また、いくつもの目次(仮)を作るには、データをコピーできると便利ですが、WorkFlowyのデータはテキストなので、コピーも手軽です。
さらに、目次(仮)を作ることでタスクに気づいたら、タグや検索を利用して、その目次(仮)をそのままタスクリストにしてしまうこともできます。
そんなわけで、ここで私がお伝えしたい具体的なコツは、
とりあえず、手元にあるすべての素材を並べて、本一冊分の全体を組み立てようとする
ことです。
(5) 削除しないで、削る
さて、私は今、2つの具体的なコツをお伝えしました。
- とりあえず、小さな範囲に全力を注ぎ、その一部分を完成させる
- とりあえず、手元にあるすべての素材を並べて、本一冊分の全体を組み立てる
逆の方向を向いています。ひとつの道具でこれら反対方向を向く2つの作業を並行して実行できることが、本を書く道具としてWorkFlowyの強みです。
(なお、これら2つの作業を同時並行で行うことも、『アウトライン・プロセッシング入門』のいう「シェイク」の一種です。)
●
さて、ここで私が最後にお伝えしたい具体的なコツは、このシェイクを一冊の本へと結実させるため、必要不可欠なものになります。
それは、
「削る」こと。でも、「削除しない」こと。
です。
●
「とりあえず、小さな範囲に全力を注ぎ、その一部分を完成させる」と「とりあえず、手元にあるすべての素材を並べて、本一冊分の全体を組み立てる」をシェイクして本を書く作業に取り組めば、本のために使えそうな素材が、どんどんWorkFlowyの中に生まれます。
でも、それらをすべて盛り込もうとしては、一冊の本になりません。一本の筋が通らなくなってしまいます。
だから、シェイクによって生まれたものの多くを、「削る」必要があります。
でも、削除はしません。今は不要だと思っても、あとからやっぱり必要だったと思うかもしれません。あるいは、今書こうとしているこの本には無用だけれど、次に書くかもしれない別の本には有用かもしれません。
「削る」とは、今あなたが書こうとしているこの本に盛り込まない、という意味です。「一冊の本から削る」であって、「WorkFlowyから削除する」ではありません。
●
では、具体的には、どうしたらよいでしょうか。
「WorkFlowyで本を書くこと」には、「全体から一部分を切り出す」という側面があります。WorkFlowyで書いたいろいろなこと全体から、一部分を切り出すことで、一冊の本を書くことができます。
だから、「(一冊の本から)削る」と「(WorkFlowyからは)削除しない」の両立は、
一冊の本に必要ない部分を、切り出し対象から外す
ことだけで実現できます。
つまり、削除ではない機能を使って、不要な部分を削るわけです。
●
削除しないで、削ること。
削除機能ではない機能を使って、一本の筋から外れる部分を、切り出しの対象から外すこと。
これが、シェイクを一冊の本に結実させ、それと同時に、シェイクによって得た収穫を活かす、具体的なコツです。
4.おわりに
「WorkFlowyで本を書く」ということについて、徒然なるままに書いてみました。
いかがでしたでしょうか。あなたが今から取り組もうとする「本を書く」ということに、WorkFlowyという道具は、役に立ちそうでしょうか。
●
「WorkFlowyで本を書いた人からの手紙」の中でこんなことを言ってしまうとあれなのですが、WorkFlowyは、本を書くための道具ではありません。実際、本を書くためにとても大事ないくつかの機能が、WorkFlowyには欠けています(置換とか文字カウントとかです)。
しかし、少なくとも私にとっては、WorkFlowyは、本を書くための道具として、とてもうまく機能してくれました。WorkFlowyを使ったおかげで、一冊の本を書くという体験が、とても楽しく、また、実りある豊かな体験になりました。WorkFlowyを使って本を書いてよかったと、心から思います。
もちろん、「WorkFlowyで本を書く」ということが、誰にでもうまく機能する方法だとは思いません。でも、他方で、私にしかうまく機能しない方法だとも考えていません。私以外にも、「WorkFlowyで本を書く」ということがうまく機能する、そんな誰かは、きっと存在します。私は、その誰かにも、「WorkFlowyで本を書く」という体験を味わってもらいたいなあと、強く願っています。
あなたがその誰かに当たるのか、それはわかりません。でも、そうだといいなと願って、この手紙を書きました。
追伸
もし、「WorkFlowyで本を書く」ということに興味を持っていただけたなら、お気軽にご連絡ください。大喜びで、もっとたくさんのお手紙を書きます。お伝えしたいことは、まだたくさん残っているのです。
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