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「個人のための知的生産システム」内部の秩序を維持するための、2つのアプローチ

公開日: : 知的生産

1.「個人のための知的生産システム」と、その課題

「個人のための知的生産システム」は、私がここ数年にわたって関心を持ち続けているテーマです。

きっかけは、倉下忠憲さんによるハイブリッド・シリーズ3冊を読んだこと。普通の個人が、継続的な知的生産のある毎日を送り続けるには、自分の生活の中に、「個人のための知的生産システム」を構築することが大切なのではないか、と考えたのでした。

試行錯誤をくり返す中で、「個人のための知的生産システム」に関する課題が、徐々に明らかになりました。それは、

「個人のための知的生産システム」内部の秩序を、どのように維持するか?

です。

一般に、あるシステムがうまく機能し続けるためには、そのシステムの内部に、一定の秩序を維持する必要があります。秩序が崩れ、混沌とした状態に陥ってしまっては、そのシステムに期待される役割を果たすことはできません。

他方で、どんなシステムであっても、エントロピー増大の法則から自由ではありません。そのシステムが存在し続け、稼働し続けているかぎり、システム内部のエントロピーは増加し、秩序が低下します。そのため、秩序を維持するために何らかの対策を取らなければ、遅かれ早かれ、そのシステムはうまく機能しなくなってしまいます。

「個人のための知的生産システム」も同じです。

このシステムをうまく機能させ続けるためには、システム内部の秩序を一定レベル以上に高く保つ必要があります。しかし、このシステムを稼働し続けるかぎり、エントロピー増大の法則に従い、「個人のための知的生産システム」の内部の秩序は、低下していきます。だから、「個人のための知的生産システム」を継続的に機能させ続けるためには、システム内部の秩序を維持することが、決定的に重大な課題になるわけです。

これは私個人の問題だとは思うのですが、私はわりと面倒くさがりで大雑把でいい加減です。だから、(とても恥ずかしい話なのですが、)たとえばある書類が必要になって、その書類をファイルから取り出したとして、使い終わった後にその書類をもともとあったそのファイルのなかにキチンと戻す、という当たり前のことを、ぜんぜん徹底できません。そのため、私個人のための知的生産システムは、ある書類がもともとあった場所から移動してしまうなど、システム内部の秩序が、どんどん低下する傾向にあります。

そんなわけで、「個人のための知的生産システム」内部の秩序を維持することは、とりわけ私にとっては、とても重要で深刻な課題でした。

これまで、私は、この課題に対するアプローチを、いろいろと模索してきました。

その中の多くのアプローチは、頭で考えるととても理想的で非の打ち所がないのですが、いざ実際にやろうとすると、できませんでした。私にとっては、手間がかかりすぎて、現実的ではなかったのです。

しかし、うまく機能するアプローチもありました。この記事では、私にとってもうまく機能した2つのアプローチを紹介します。

2.『「超」整理法』のアプローチ

ひとつめのアプローチは、『「超」整理法』のアプローチです。

『「超」整理法』は、「押し出しファイリング」という具体的なファイリング方法を提案しています。

「押し出しファイリング」は、エントロピー増大の法則に負けない仕組みです。すべてのファイルを本棚という一箇所に並べ、使ったファイルを左端に戻す、という極めてシンプルなルールを続けていると、いつのまにか、本棚の中に秩序が育っていきます。

「システム全体の秩序維持」という観点から見たとき、『「超」整理法』のアプローチには、次の3つのポイントがあります。

  • 日常的にシステムを使用することそれ自体に、システム内部の秩序を維持・構築するためのベクトルが組み込まれていること(簡単なルールに従ってシステムを稼働させているだけで、いつのまにか、システム内部に秩序が育っている。)
  • システム内部の秩序がどのような状態にあるかは、システム全体が果たす役割の観点から判断されるべきこと(たとえば、エラーが生じた場合に発生するダメージの大きさも、システム内部の秩序の高低を判断する指標の一つである。)
  • システム内部の秩序は、システムが果たすべき目的から見て、必要十分なものであれば足りること(システムが果たすべき目的は検索であるから、分類しなくても検索できるなら、分類しなくてもよい。過剰な高秩序状態は不要。)

3.枠の外に混沌さを排出するアプローチ

ふたつめのアプローチは、「枠の外に混沌さを排出する」というものです。

このアプローチのポイントは、次の3点です。

  • システムの全体を、「秩序の維持を気にしない全体」と「秩序を維持すべき一部分」の2段階で把握する。
  • 「秩序の維持を気にしない全体」については、秩序の維持は気にしない。他方で、ポケット一つ原則をできるだけ貫いて、「内部の秩序は高くないけれど、その中のどこかには存在する」という状態にしておく。
  • 「秩序を維持すべき一部分」については、全力で秩序を維持する。ただし、最初から高秩序状態で組み立てようとするのではなく、「枠の外に混沌さを排出する」ことによって、その一部分の内側の秩序を維持しようとする。その一部分の秩序を高めようとすると、反動として、その周囲の部分の秩序は下がるけれど、気にしない(周囲の部分は、「秩序の維持を気にしない全体」に含まれる)。

このアプローチは、どこかに書いてあったわけではありません。ただ、発想の源泉ならあります。次の3つです。

(1) 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』

「世界の終り」に登場する壁の中の街は、完璧な世界です。高秩序状態が維持されています。なぜ、高秩序状態が維持されているかといえば、住人の中に日々生じる心の泡という混沌さを、獣が、壁の外に運び出しているためです。

「枠の外に混沌さを排出する」ことによって、壁の中の秩序は維持されています。

  • 壁の内側と外側を含む「世界の終わり」全体が、システムの全体
  • 壁の外側が、「秩序の維持を気にしない全体」
  • 壁の内側が、「秩序を維持すべき一部分」

(2) 『生物と無生物のあいだ』

『生物と無生物のあいだ』によれば、生命とは、動的平衡です。

生命は、エントロピー増大の法則に抗うため、流れの中に身をおき、かたっぱしから、自らという枠の中から、混沌さを排出しています。

絶え間なく「枠の外に混沌さを排出する」という流れの中で、高秩序状態を保っているひとつの枠が、生命です。

  • 生命が存在する世界が、システムの全体
  • あるひとつの生命が、「秩序を維持すべき一部分」
  • 生命の外側が、「秩序の維持を気にしない全体」

(3) ひとつのアウトラインから文章群をアウトプットする

「ひとつのアウトラインから文章群をアウトプットする」とは、このブログの原稿を書くために私が採用している方法です。Tak.さんを真似して、2014年11月から始めました。

ひとつのアウトラインを用意して、書きかけの文章を、すべてそのひとつのアウトラインの中にぶら下げます。分類はしません。テーマや進捗に関係なく、大量の書きかけの文章群全体をひとつのアウトラインで管理します。

私にとって、この書き方の最大のメリットは、削除が簡単であることにあります。ひとつの文章に盛り込むには過剰なところや、その文章の本筋から外れた部分を、簡単に削除できます。操作としても簡単ですし、心理的なハードルが低いという意味でも簡単です。

削除がとても簡単なこともあり、この書き方でひとつの文章を書き上げるまでのプロセスは、「あらかじめ文章の構成をきちんと決めた設計図を作った後、その設計図に従って秩序ある文章を書き進める」というものである必要はありません。「書きたいことを片っ端から書きまくり、使えない部分を削除し、秩序がありそうな部分を残す」というプロセスによっても、ひとつの文章を書き上げることができます。

こんな文章を書き上げるまでのプロセスは、文章になる枠の外に混沌さを排出することによって、その枠内の秩序が少しずつ高まり、いつしか、ひとつの文章に値するほどの高秩序状態になる、というものです。

文章になる枠の外に、混沌さを排出する、という文章の書き方

ここにも、「枠の外に混沌さを排出する」ことによって、枠の内部の秩序を維持する、というあり方を見て取ることができます。

  • すべての書きかけの文章群を放り込むひとつのアウトラインが、システムの全体
  • 書き上げようとする文章になる枠が、「秩序を維持すべき一部分」
  • 書き上げようとする文章になる枠の外が、「秩序の維持を気にしない全体」

4.まとめ

普通の個人が継続的な知的生産のある毎日を送り続けるには、自分の生活の中に、「個人のための知的生産システム」を構築することが大切です。

しかし、「個人のための知的生産システム」をうまく機能させ続けるためには、「個人のための知的生産システム」内部の秩序をどのように維持するか?という課題を解消する必要があります。「個人のための知的生産システム」がうまく機能するには、システム内部の秩序を一定レベル以上に保つ必要があるところ、システムを使い続けていけば、エントロピー増大の法則に従い、システム内部の秩序は徐々に低下してくからです。

「個人のための知的生産システム」内部の秩序を維持するには、次の2つのアプローチが効果的です。

  • 『「超」整理法』のアプローチ
  • 枠の外に混沌さを排出するアプローチ

この2つのアプローチは、いずれも、システムの秩序を、動的なものと把握しています。

「個人のための知的生産システム」の秩序については、一時的にとても高い秩序を構築することよりもむしろ、継続的にある程度の高秩序状態を維持する方が好ましいと言えます。なぜなら、継続的にある程度の高秩序状態を維持してこそ、「個人のための知的生産システム」から、継続的に、何らかの価値を生み出し続けることができるためです。

そのために、『「超」整理法』のアプローチや「枠の外に混沌さを排出する」というアプローチのように、毎日の生活の中に自然と組み込まれた動的なものによって、システム内部の秩序を維持するアプローチが現実的です。

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