*

プル型知的生産を機能させるため、知的生産システムを構築して、3つの条件を満たす

公開日: : 知的生産

1.プル型知的生産とは

(1) プッシュ型/プル型

生産管理や情報配信でよく使われるものの見方に、「プッシュ型/プル型」があります。生産や情報には、入口から入って出口から出てくるという流れがあるのですが、この流れを生み出すのが、入口からのプッシュなのか、出口からのプルなのか、という区別です。

プッシュ型は、入口からのプッシュで流れを生み出します。ところてんやロケット鉛筆をイメージすればよいと思います。入口からプッシュすると、出口からなにかが押し出されます。

プル型は、出口からのプルで流れを生み出します。あんまりよいアナロジーが浮かばないのですが、注射器で水を吸うこととか、深呼吸するときに最初に息を深く吐くことが、これに近いような気がします。出口から出すことでプルすると、入口から必要な分が入ります。

(2) プッシュ型知的生産/プル型知的生産

この「プッシュ型/プル型」というものの見方は、知的生産にも適用できます。

知的生産は、なんらかの情報を自分の外からインプットして、インプットした情報に自分の知的情報処理能力を作用させて、あたらしい情報を自分の外へとアウトプットする、という活動です。知的生産には、インプットという入口からアウトプットという出口へと向かう、情報の流れがあります。

プッシュ型の知的生産は、自分の外から情報をインプットするというプッシュで、自分の外へとあたらしい情報のアウトプットを押し出す、というかたちで、この流れを作り出します。インプット→アウトプットという順序です。

これに対して、プル型の知的生産は、自分の外へあたらしい情報をアウトプットするというプルが最初にきます。このアウトプットというプルによって、インプットを引っ張り込む、というかたちで、知的生産の流れを作り出します。アウトプット→インプットという順序です。

知的生産における情報の流れは、ふつうは、プッシュ型でイメージされます。でも、私は、個人的な経験から、むしろプル型でイメージする方が、アウトプットとインプットの両方を、量質共に、高めるんじゃないか、と感じています。そして、ブログに文章を書くというアウトプットを最初に持ってくることを心がけています。

プル型知的生産を活用する。個人的な知的生産がプッシュ型からプル型に転換した話。

(3) プル型知的生産が機能するためには、条件がある

とはいえ、これは、どんなときも、プル型知的生産の方が、プッシュ型知的生産よりも優れているから、プル型知的生産に切り替えましょう、という話ではありません。プル型知的生産ではあんまりうまくいきそうにない場面は、たくさんあります。

たとえば、大学の講義の期末レポートに取り組むときは、最初に、課題図書を読んだり、資料を調べたり、といったインプットが必要です。情報をインプットすることでプッシュして、あたらしい情報を押し出してアウトプットする、プッシュ型の知的生産が適しています。

つまり、プル型の知的生産が機能するには、何らかの条件があるようです。そこで、次に、この条件を探ります。

2.プル型知的生産が機能する3つの条件

(1) 大学の期末レポートでは、なぜ、プル型知的生産がうまく機能しないのか

プル型知的生産が機能する条件を検討するために、大学の講義の期末レポートを考えてみましょう。なぜ、レポートに対しては、プル型の知的生産はあんまり適していないのでしょうか。

まず、レポートは、通常、取り組むべきテーマが与えられています。与えられたテーマに答える内容を盛り込まなければいけません。これに対して、アウトプットを最初に持ってくるプル型の知的生産の場合、最初のアウトプットは、「今の自分にできるアウトプット」になります。「今の自分にできるアウトプット」では、与えられたテーマに答えられない場合、うまくいきません。

もっとも、プル型の知的生産は、アウトプットによってインプットを引っ張りますので、そのインプットによってまた新たなアウトプットが生まれます。そして、アウトプットとインプットを繰り返すことによって、アウトプットの質を上げていきます。そのため、プル型の知的生産でも、いずれは、与えられたテーマに答えるレポートがアウトプットされるはずです。

しかし、レポートは、提出期限が決まっています。期限を超過したすばらしい内容のレポートと、期限を守った平凡な内容のレポートを比較すれば、後者の方がよいレポートです。比べるまでもありません。

アウトプットでインプットを引っ張って、アウトプットとインプットを繰り返すことで、だんだんとアウトプットの質を上げていく、というプル型知的生産では、レポート提出期限に間に合わない可能性が高いです。

ここまでのところをまとめると、

  • プル型知的生産は、アウトプットの内容と時期を自分で意図的にコントロールするのが、むずかしい
  • レポートは、内容と提出時期があらかじめ与えられているので、与えられた内容と時期を満たすアウトプットをしなければならない
  • そのため、プル型知的生産は、レポートにはあんまり向いていない

となります。

これを別の観点から見ると、プル型知的生産がレポートに向かない理由は、レポートが単発のアウトプットだからである、ということです。

レポートは、レポートというアウトプットをひとつ完成させたら、それで完結です。評価はそのレポートで決まります。レポートというアウトプットによって引っ張り込まれたインプットや、その後に続く次のアウトプットは、レポートの評価対象にはなりません。レポートは、そのレポート単体が勝負です。

でも、プル型知的生産の本質は、単発のアウトプットではなくて、アウトプットによってインプットを引っ張りこみ、そのインプットによって引っ張りだした次のアウトプットによってまたあたらしいインプットを引っ張り込む、というアウトプットとインプットの連鎖にあります。レポートでは、このプル型知的生産の本質が十分には活用されません。

(2) プル型知的生産が機能する3つの条件

これまでの検討を逆から見ると、プル型の知的生産が機能する条件として、次の3つが浮かんできます。

【条件1】アウトプットの内容と時期と数に制約がなくて、自由である

ひとつめは、アウトプットの内容と時期と数に制約がなくて、自由である、ということです。

内容については、テーマも自由だし、質のレベルも分量も形式も自由、というのが望ましいです。その時点その時点で自分がしたいアウトプットを、自由に気楽にできることが、プル型知的生産がうまく機能する、とても大切な条件です。

時期については、このテーマのアウトプットのすべてをいつまでに完了しなくてはいけない、という制約がないことが望ましいです。

特定のテーマについてプル型知的生産をする場合、そのテーマについての最初のアウトプットまでの時間は、ある程度コントロールすることが可能ですが、そのテーマについてのアウトプットがいつ完了するかは、ほとんどコントロール不可能です。最初のアウトプットをコントロールできるというのは、「1週間後までに『いつまでもデブと思うなよ』に関連する文章をひとつ完成させる」と決めれば、ある程度そのとおりにいく、ということです。アウトプットの完了をコントロールできないというのは、『いつまでもデブと思うなよ』関連のアウトプットがいつまで続くかは、最初の段階ではわからない、ということです。アウトプットに引っ張られていろんなインプットが入ってくれば、その分、新たなアウトプットが生まれ続けるからです。

ですから、時期との関係では、特定のテーマについてのアウトプットの完了時期が自由であることが大切です。

これら内容と期限の自由を支えるのは、アウトプットの数の自由さです。自分がアウトプットしたい数だけアウトプットできることによって、ひとつひとつのアウトプットについて、内容の質や期限にこだわらずにいられます。

アウトプットの数における自由は、プル型知的生産にとって、とても大切です。

【条件2】インプットとアウトプットの間のリードタイムを引き受ける

ふたつめは、インプットとアウトプットの間のリードタイムを引き受けるということです。

プル型知的生産は、アウトプットを引っ張りだすことでインプットを引っ張りこんで、そのインプットからまた次のアウトプットを引っ張りだす、という知的生産です。この流れでは、インプットを引っ張り込むときに次のアウトプットを想定しているわけではありませんので、引っ張り込まれたインプットが、次にどのようなアウトプットとして引っぱり出されるかが、読めません。場合によっては、引っ張り込まれたインプット情報が自分の中で長期間滞留する場合もありますし、反対に、あっという間に次のアウトプットにつながる場合もあります。

つまり、プル型知的生産では、インプットからアウトプットまでのリードタイムは、一定しません。そして、しばしばすごく長くなります。

でも、引っ張り込まれた情報をもとに、次のアウトプットを引っ張りだすことが、プル型知的生産の肝です。どんなにリードタイムが長くなっても、それなりの割合でインプットをアウトプットに転換できなければ、プル型知的生産は回りません。

そのため、プル型知的生産を機能させるには、インプットからアウトプットまでのリードタイムを、何らかのかたちで、引き受ける仕組みが必要です。どんなに時間がかかったとしても、引っ張りこんだインプット情報が消えてしまわない仕組みが必要です。

【条件3】アウトプットとインプットを自由に往復できる(継続的なアウトプットとインプット)

みっつめは、アウトプットとインプットを自由に往復できる、ということです。

プル型知的生産の本質は、単発ではない、継続的な知的生産です。継続的に、アウトプットとインプットをぐるぐると繰り返すことが大切です。

この、インプットとアウトプットの自由な往復との関係でも、アウトプットの数の自由さが大きな意味を持ちます。いくつでもアウトプットできるからこそ、気楽に何度もインプットとアウトプットを往復できます。インプットとアウトプットをぐるぐると回すためにも、アウトプットの数に制約がない状態を達成する必要があります。

3.プル型知的生産を機能させるために、システムを構築して、3つの条件を満たす

(1) プル型知的生産を機能させるために、システムを構築する

さて、プル型知的生産を機能させるためには、この3つの条件を満たす必要があるとして、ではどうしたらよいでしょうか。

まず言えるのは、思いつきや心がけだけでこの3つの条件をみたすのは大変だ、ということです。

自由なアウトプットという条件1を実現するために、思いついたらすぐに文章を書き、思いついたところにどんどん投稿する、ということをしていたら、下手をすると怪文書として扱われてしまいます。リードタイムが長くなっても引き受ける仕組みは、記憶だけではなんともなりませんし、かといって無秩序にノートや付箋やメモアプリにメモしていても、それらのメモからは何も生まれません。

そこで、プル型の生産管理にヒントを求めると、「システム」が必要だという指摘があります。

高度な生産工程管理システム・購買&在庫管理システムなどがないと、その実現は困難とされている。

プル型生産システムとは ~ exBuzzwords用語解説より)

プル型知的生産では、たとえば自動車なら、1台自動車が売れるたびに、それをプルとして機能させて、行程の上流に位置づけられる原材料のところまで情報を流します。これを実現するためには、高度な生産工程管理システムなどを構築しなければいけません。

同じように、プル型の知的生産を実現するためにも、システムが必要です。知的生産は自動車の生産よりは行程がブラックボックスなので、それほど精緻で厳密なシステムである必要はありませんが、それでも、システムを構築しなくてはいけません。

結局、プル型の知的生産を機能させるためには、システムを構築する必要があります。

(2) プル型知的生産システムの構築に向けて

もともと私は、自分個人のためのシステムを作る、という考え方が好きです。倉下忠憲さんや北真也さんの著作に影響を受けてのことだと思います。

これまでにも、Evernoteを中心にした知的生産システムの構築を模索したり、「ハイブリッド・システム」というコンセプトを大切にすることを決意したりしました。

Evernoteを中心に、知的生産のためのクラウドベースを作る

自分個人のための知的生産システムを改善し続ける。「ハイブリッド」シリーズ(倉下忠憲)から受け取った「ハイブリッド・システム」というコンセプト。

今回、「プッシュ型/プル型」というものの見方を知的生産に適用してみた結果、プル型知的生産を機能させるためには、プル型の知的生産システムを構築する必要があるということがわかりました。そこで、今後は、自分が構築する個人的な知的生産システムを、プル型に対応するものへと改善していこうと思います。

4.関連過去エントリ

(1) プル型知的生産を活用する。個人的な知的生産がプッシュ型からプル型に転換した話。

プル型知的生産を活用する。個人的な知的生産がプッシュ型からプル型に転換した話。

知的生産にもプッシュ型とプル型があるんじゃないか、という話です。

(2) インプットとアウトプットの順番、深呼吸における「吸う」と「吐く」の順番

インプットとアウトプットの順番、深呼吸における「吸う」と「吐く」の順番

深呼吸のコツは、まずゆっくりと息を吐いて、その後、自然に息が入ってくるのを観察する、ということだそうです。「吐く」→「吸う」の順番。

これと同じように、知的生産のインプットとアウトプットも、まずできる限りのアウトプットをすると、次に自然とインプットが入ってくる、という順番なんじゃないか、ということを書きました。

プル型知的生産のよさを感じ始めたころの短文です。

(3) 心から書きたいテーマやネタこそ、気楽に、どんどん、何度も、書く

心から書きたいテーマやネタこそ、気楽に、どんどん、何度も、書く

ブログを始めた頃、私は、心から書きたいテーマやネタを見つけたら、それをすごく大切に慎重に扱っていました。心から書きたいテーマなんだから、それなりの文章を書かなくちゃ、と思っていたわけです。

でも、自分のブログなら、同じテーマで10個や20個の文章を書いても、誰かにしかられるわけではありません。(またかーとうんざりされる可能性はありますが。。。)これに気づいた私は、心から書きたいテーマこそ、気楽にどんどん書こう、と決めました。このブログの今につながる、大切なエントリです。

スポンサードリンク

関連記事

no image

「作文を書くための雲の描き方」(彩Draw@クラウド郎)

1.作文が苦手で嫌いだった小学生の私に、母が教えてくれたこと 小学生のころ、私は、作文を書くことが苦

記事を読む

no image

『知的生産の技術』のカード・システムと、WorkFlowy

前回は、シゴタノ!の倉下忠憲さんの記事を下敷きにして、『知的生産の技術』の各章を、WorkFlowy

記事を読む

no image

WorkFlowyを「書き上げる」ための道具として機能させるための、2つの条件・3つのイメージ

Tak.さんのTweetに触発されて。 WorkFlowyやOmniOutlinerなどのプロセス型

記事を読む

no image

iPS細胞・パソコン・自分のブログ。精度の高い試行錯誤を積極的に繰り返すための仕組み。

1.クローズアップ現代を見て、iPS細胞って本当にすごいんだ、と実感した話 先日放送されたクローズ

記事を読む

no image

「個人の継続的な知的生産」と、「全体・一部分」&「それより上の階層がない・それより上の階層がある」

1.はじめに 先日、これを書きました。 全体と一部分(それより上の階層がない・それより上の階層が

記事を読む

no image

好きな素材を、上達論のテキストとして使い込む

1.「上達論のテキストとしてみる習慣」という考え方 齋藤孝の『「できる人」はどこがちがうのか』に、

記事を読む

no image

自分の「10万字インプット・5000字アウトプット」に関する現状分析

1.「10万字インプット・5000字アウトプット」 次の4つの記事を読みました。 ソーシャル

記事を読む

no image

『知的生産の技術』の各章を、WorkFlowyの視点から

『知的生産の技術』とWorkFlowyとの関係を考えるため、インターネットやEvernoteを漁って

記事を読む

no image

WorkFlowyと自分のブログによる知的生産システムと、ハサミスクリプト「WFtoHTML_irodrawEdition」が果たす役割

1.WorkFlowyと自分のブログによる知的生産システム (1) ブログを続けるコツは、「ブログ

記事を読む

no image

すべてのメール・すべてのノート・すべてのタスクの凄み(Gmail・Evernote・Toodledoから得る価値を大きくする)

1.すべてのメール・すべてのノート・すべてのタスク (1) Gmail・Evernote・Tood

記事を読む

スポンサードリンク

スポンサードリンク

no image
お待たせしました! オフライン対応&起動高速化のHandyFlowy Ver.1.5(iOS)

お待たせしました! なんと、ついに、できちゃいました。オフライン対応&

no image
「ハサミスクリプト for MarsEdit irodrawEdition」をキーボードから使うための導入準備(Mac)

諸事情により、Macの環境を再度設定しています。 ブログ関係の最重要は

no image
AI・BI・PI・BC

AI 『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』を読

no image
[『サピエンス全史』を起点に考える]「それは、サピエンス全体に存在する協力を増やすか?」という評価基準

1.「社会派」に対する私の不信感 (1) 「実存派」と「社会派」 哲学

no image
[『サピエンス全史』を起点に考える]サピエンス全体に存在する協力の量と質は、どのように増えていくのか?

『サピエンス全史』は、大勢で柔軟に協力することがサピエンスの強みだと指

→もっと見る

  • irodraw
    彩郎 @irodraw 
    子育てに没頭中のワーキングパパです。1980年代生まれ、愛知県在住。 好きなことは、子育て、読書、ブログ、家事、デジタルツールいじり。
    このブログは、毎日の暮らしに彩りを加えるために、どんな知恵や情報やデジタルツールがどのように役に立つのか、私が、いろいろと試行錯誤した過程と結果を、形にして発信して蓄積する場です。
    連絡先:irodrawあっとまーくtjsg-kokoro.com

    feedlyへの登録はこちら
    follow us in feedly

    RSSはこちら

    Google+ページ

    Facebookページ

PAGE TOP ↑