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Evernote、WorkFlowy、Ulysses、OmniOutliner

公開日: : 書き方・考え方

1.はじめに

「文章を書く」ということについて、いろいろ考えていたら、私にとって大切なのは、「ひとつの文章を書く」ことというよりもむしろ、「文章群を書き続ける」ということだ、ということに気付きました。

「文章群を書き続ける」の具体的なあり方は、ひとつではありません。たとえば、研究者が雑誌や論文集に論文を投稿することも、物書きが本を出版したり新聞や雑誌に連載を持ったりメールマガジンを発行することも、「文章群を書き続ける」の一種です。

私にとって、「文章群を書き続ける」の中心は、自分のブログ「単純作業に心を込めて」です。これまでに約4年間続けてきている自分のブログに記事を書き続けることで、私は、「文章群を書き続ける」というあり方を継続してきました。

私が、自分のブログに記事を書くという「文章群を書き続ける」を継続できた要因を考えてみると、ひとつの重要な存在が、道具です。よい道具との巡り会いによって、私は、「文章群を書き続ける」を継続することができました。

そこで、この記事では、「文章群を書き続ける」を支える道具のことを考えてみます。

2.「文章群を書き続ける」を支える道具の具体例

「文章群を書き続ける」というのは、抽象的なあり方のことであって、具体的な道具を前提とした具体的な方法のことではありません。でも、どんな道具を使っても同じかといえば、そうではありません。「文章群を書き続ける」というあり方に適した道具とそうでない道具があります。

まずは、「文章群を書き続ける」というあり方を支える道具の具体例を、いくつか挙げてみます。

(1) Evernote

仕事とプライベートのノートを一元管理 | Evernote

Evernoteは、文章を書くための道具ではありません。でも、文章を書くためにEvernoteを使うこともできます。そして、文章を書くための道具としてのEvernoteは、「文章群を書き続ける」を可能にしてくれる道具です。

私は、以前、このブログの原稿をすべてEvernoteで書いていました。今考えてみると、そのときの書き方は、まさに「文章群を書き続ける」でした。

(2) WorkFlowy

WorkFlowy – Organize your brain.

WorkFlowyは、文章を書くための道具というわけではありません。でも、WorkFlowyは、文章を書くための道具としても画期的です。

今、私は、このブログの原稿のすべてを、WorkFlowyだけで書いています。私が「文章群を書き続ける」ということを実現できているのは、WorkFlowyのおかげだと思います。

(3) Ulysses

Ulysses

Ulyssesは、マークダウンも扱えるエディタです。私自身はまだほとんど使っていないので、説明に代えて、いくつかのブログ記事を紹介します。

これらの記事に現れているUlyssesの思想や基本的な枠組みからすれば、Ulyssesは、まちがいなく、「文章群を書き続ける」を支えてくれる道具です。

(4) OmniOutliner

OmniOutliner – outlining & writing for Mac, iPhone, and iPad – The Omni Group

OmniOutlinerは、Mac用の定番アウトライナーです。1ペインで本文と見出しを区別しないタイプのアウトライナーの中では、もっとも完成度の高いアウトライナーのひとつではないかと思います。

このOmniOutlinerは、運用方法次第では、「文章群を書き続ける」というあり方を強力に支えてくれます。その運用とは、「未完成の文章をすべてひとつの巨大なアウトラインに入れる」というもので、『アウトライン・プロセッシング入門』において紹介されています。

その問題を解決してくれたのもアウトライナーでした。簡単にいうと、ブログでもやりかけの翻訳でも、未完成の文章はすべてひとつの巨大なアウトラインに入れることにしたのです。

location 698

3.「文章群を書き続ける」を支える道具に共通する要素

(1) 4つの道具に共通する要素=シングルライブラリ

4つの具体例を並べてみます。

  • Evernote
  • WorkFlowy
  • Ulysses
  • OmniOutliner(の1ファイル運用)

この4つの道具には、あるひとつの共通する要素があります。どのような要素でしょうか?

答えは、

「シングルライブラリ」であること

です。

では、「シングルライブラリ」とは何でしょうか?

Ulyssesによる説明を引用します。

Ulysses III は、シングルライブラリ App です。すべてのテキストはこのシングルライブラリに息づいています。“開く”も“保存”もありません。すべてはここ、この App の中で起きるのです。

つまり、「シングルライブラリ」であるとは、

  • 道具自体が、ひとつのライブラリを持っている。
  • その道具で扱うデータは、このひとつのライブラリの中で存在し、変化する。
  • 「開く」も「保存」もなく、道具によるすべての作用が、道具の中で起きる。

という道具であることを意味します。

参考:R-style » MacとiPhoneとiPadで使えるエディタ『Ulysses』

Evernoteという道具を開くと、Evernoteが扱うすべてのデータが、そこに存在します。ファイルを「開く」とかファイルを「保存」するという動作はありません。Evernoteには「ノート」や「ノートブック」がありますが、これはファイルではなくて、Evernoteの中に存在するデータを区切り、整理するための枠組みに過ぎません。Evernoteは、シングルライブラリです。

WorkFlowyは、ひとつのアウトラインしか使えません。ブラウザやアプリから自分のWorkFlowyアカウントにアクセスすると、自分がWorkFlowyで管理しているすべてのテキストデータが、ひとつのアウトラインになって、そこにあります。おまけに、WorkFlowyに存在するデータを区切る単位は、「トピック」だけです。だから、WorkFlowyでテキストを管理するためにできることは、トピックにテキストを格納することと、トピックを階層構造に組み立てることしかできません。WorkFlowyも、シングルライブラリです。

Ulyssesは、さきほどの引用で自ら宣言するとおり、シングルライブラリAppです。すべてのテキストがひとつのライブラリのなかに息づき、「開く」も「保存」もありません。すべては、Ulyssesというアプリの中で起こります。

OmniOutlinerはどうでしょうか。OmniOutlinerというアプリの基本的な枠組みは、シングルライブラリではありません。OmniOutlinerは、Wordやテキストエディタと同じように、ファイルを扱うことができます。でも、運用方法によっては、シングルライブラリになります。その運用方法が、先ほど書いたとおり、ひとつのファイルだけを使い、ひとつの巨大なアウトラインにすべての文章を格納する、というものです。こんな1ファイル運用を前提とすれば、OmniOutlinerも、シングルライブラリです。

(2) 「シングルライブラリ」であることと「文章群を書き続けること」との関係

「シングルライブラリ」であるという特徴は、「文章群を書き続ける」というあり方にとって、どのような意義を持つのでしょうか。

少なくとも3つのことがいえそうです。

a.文章のポケット一つ原則

ひとつめは、文章のポケット一つ原則です。

ポケット一つ原則とは、『「超」整理法』で野口悠紀雄氏が提唱する、「置き場所を一箇所に限定する」という原則です。

このように、置き場所を一箇所に限定するというのは、きわめて重要なことだ。これを「ポケット一つ原則」と呼ぼう。

『「超」整理法』 location 425

「文章群を書き続ける」というあり方は、同時並行でたくさんの文章を書き続けます。必然的に、大量の書きかけの文章群が発生します。これら大量の書きかけの文章群全体を、ひとつの場所に集約すること。それが、文章のポケット一つ原則です。

シングルライブラリという枠組みを持つひとつの道具で文章群を書き続けさえすれば、自然と、文章のポケット一つ原則が実現されるからです。シングルライブラリであることは、文章のポケット一つ原則を経由して、「文章群を書き続ける」というあり方を支えます。

b.切り出すことによるアウトプット

ふたつめは、切り出すことによるアウトプットです。

シングルライブラリは、文章のポケット一つ原則を体現する、ひとつの場所です。この中には、たくさんの書きかけの文章群が存在しています。だから、シングルライブラリ自体を、何らかのアウトプットにすることはできません。

そこで、シングルライブラリである道具からアウトプットするには、そこから「切り出す」という形をとることになります。要するに、エクスポート機能です。

この「切り出す」という枠組みは、「文章群を書き続ける」ことを、2つの意味で、促します。

  • シングルライブラリの中にアウトプットの素材がたくさん存在しているので、その都度1から書き始める必要がない。
  • 文章を書き進める作業を進めれば進めるだけ、シングルライブラリ自体に何かが蓄積される。注いだエネルギーが散逸しない。

この意味で、シングルライブラリであることは、切り出すことによるアウトプットというあり方を経由して、「文章群を書き続ける」というあり方を支えます。

c.母体としての全体/文章になる枠、という2段階のシステム

シングルライブラリを使って「文章群を書き続ける」ということには、母体となるシングルライブラリと、そこから生み出される文章、という2段階の構造が存在します。

この2段階の構造は、固定した構造ではなく、常に動いています。シングルライブラリの中でひとつの文章が書き上げられるまでの動きは、

  • シングルライブラリという母体の中に、
  • 文章になる枠が生まれ、
  • その枠の内側がひとつの作品として成立するだけの条件を徐々に備えていき、
  • 条件が備わった段階で、その枠の内側がひとつの作品として切り出される。

というフローです。

このフローを念頭に置いて、シングルライブラリをひとつのシステムとして捉えると、シングルライブラリは、

  • 母体としての全体
  • 文章になる枠

という2段階から構成されるシステムだと言えます。

この2段階は、まったく異なる役割を担います。母体としての全体は、自分自身の個人的なものなので、自分自身にとってうまく機能すればそれでまったく問題ありません。これに対して、文章になる枠は、いずれ切りだされ、アウトプットされ、他者に対して開かれるので、一定の条件を満たす必要があります。

「文章群を書き続ける」にとっては、こんな2段階のシステムがうまく機能するのでうが、シングルライブラリという枠組みを備えた道具は、自然と、この2段階のシステムを構築してくれます。

4.「文章群を書き続ける」を支える道具であるための条件

Evernote、WorkFlowy、Ulysses、(1ファイル運用の)OmniOutlinerは、いずれも、「文章群を書き続ける」というあり方を支えてくれます。

それは、これら4つの道具が、次の3つを実現してくれるからです。

  • 文章のポケット一つ原則
  • 切り出すことによるアウトプット
  • 母体としての全体/文章になる枠、という2段階のシステム

これら4つの道具が、これら3つを実現してくれるのは、シングルライブラリだからです。

シングルライブラリであること。これが、「文章群を書き続ける」を支える道具であるための、大切な条件のひとつです。

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