8年後に世界が滅びることを知ってからの5年間を、どう生きるか(『終末のフール』感想文)
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目次
1.8年後に世界が滅びることがわかってから5年後の世界
(1) 『終末のフール』のこと
『終末のフール』(伊坂幸太郎)は、私の好きな小説のひとつです。私は比較的熱心な伊坂幸太郎の読者だと思うのですが、伊坂幸太郎の小説の中で私がいちばん好きなものは、この『終末のフール』です。
『終末のフール』の世界は、隕石が地球に衝突することがわかっている世界です。隕石の衝突によって8年後に世界が滅びることがわかってから、5年後の世界が、小説の舞台です。
小説に登場するのは、架空の仙台市にある、ヒルズタウンという名前の架空の住宅地です。『終末のフール』は連作短編なので、短編ひとつひとつの主人公が異なります。ひとつの短編での主人公が、別の短編で脇役として出てくることもあります。
(2) 8年後に世界が滅びることがわかってから5年後の世界という設定のすごさ
『終末のフール』のすごいところは、その設定です。『終末のフール』の舞台は、8年後に世界が滅びることがわかって、そこから5年が経った世界です。8年後に世界が滅びることがわかったときの衝撃を描くわけでもなく、あと数日で世界が滅びるときの混沌を描くわけでもなく、5年が経った小康状態を描いています。
この設定は、『終末のフール』は何を描く小説なのか、ということに関わっているのではないかと思います。8年後に世界が滅びることがわかったときや、あとわずかで世界が滅びるときを描くと、世界が滅びるということそのものに焦点が当たるのではないかと思います。これに対して、8年後に世界が滅びることがわかって、その5年後という、小康状態を描くことで、世界が滅びることそのものではなく、その世界で生きる人ひとりひとりの生き方に焦点が当たるように思います。『終末のフール』は、世界が滅びることそのものではなく、滅びゆく世界で生きる人ひとりひとりの生き方を描く小説のように思います。
2.『終末のフール』の助けを借りて、生き方の問いを考える
『終末のフール』は、純粋なエンターテイメント小説です。ですから、エンターテイメント小説として楽しめばよいと思います。しかし、『終末のフール』を、「自分は何を大切にして、いかに生きるか」という問いを考えるための道具として活用することもできます。
「何を大切にして、いかに生きるか」、この問いは、悔いのない人生を生きるためには、一度くらいはきちんと考えた方がよい問いなのではないかと思います。しかし、この問いは、なにぶん抽象的なので、この問いを、独力でゼロから上手に考えることは、なかなか難しいです。そんなとき、『終末のフール』は、この抽象的な問いを上手に考えることを助けてくれます。
『終末のフール』の世界は、8年後に世界が滅びることがわかって、そこから5年が経った世界です。8年後に世界が滅びることがわかって5年後の世界を生きる登場人物たちは、8年後に世界が滅びることがわかってから、すでに5年間、生きています。
この5年間を、登場人物たちは、その人なりの生き方で生きています。たとえば、父が残した蔵書をすべて読み切ることを目標に設定した女の子がいます。最後の日に備えて屋上に櫓を組むおじさんがいます。世界が滅びることを知る前と同じように、日々練習に励む格闘家もいます。『終末のフール』では、多くの登場人物が、いろんなことを考えて、いろんなことをします。
いろんな登場人物たちの5年間を読むと、自分に近いものを感じて親近感を抱いたり、自分にないものを感じてあこがれを感じたり、いろんな感情がわき上がります。この感情を観察すれば、自分が何を大切にして、いかに生きているのか、また、生きていきたいのかが、何となくわかるのではないかと思います。
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