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「抽象と具体の間を往復する」という学びの基本技

公開日: : 仕事の方法論

1.抽象と具体を往復すると、どんな対象からも、何かしら学べる

(1) どんな対象からも、何かしらを学びたい

私は、「学ぶ」ということが好きなので、どんな経験をしたときも、そこから何かを学びたいと思っています。どんな対象と出会ったときも、そこから何かしら学べないかなあ、と考えるようにしています。というか、考えてしまいます。

小説を読んだときも、映画を見たときも、ライブに行ったときも、大学の授業を受けたときも、仕事で失敗したときも成功したときも、講演をしたときも、講演を聴いたときも、子どもに絵本を読んだときも、パパママ教室に行ったときも、風邪を引いたときも、スターバックスでコーヒーを飲んだときも、そこから何かを学びたいなあと思います。

(2) どんな対象からも何かしらを学ぶためのコツは、「抽象と具体の間を往復する」こと

どんな対象からでも何かしらを学ぶためには、コツのようなものがある気がします。このコツは、たぶんいくつかあるのですが、その中で、私がいちばん有効だと思っているコツは、「抽象と具体の間を往復する」ということです。

往復なので、ふたつの方向があって、ひとつは「抽象化して、具体化する」という往復で、もうひとつは「具体化して抽象化する」という往復です。具体的な経験をした場合は、「抽象化して、具体化する」という方向が使えます。本や講演などで、比較的抽象的な理論や方法を知ったときは、「具体化して、抽象化する」という方向が使えます。

以下、このふたつの方向を、整理します。

2.抽象化して、具体化する

(1) 具体的な経験から、具体的なそのことだけを学んでも、あんまり意味がない

具体的な経験をすれば、その具体的なことについての経験値を積むことができるので、その具体的なことについては、たくさん学ぶことができます。たとえば、私は、さくらのレンタルサーバーを使って、WordPressのブログを作る、ということをした経験があるので、この作業に関しては、いろいろと学びました。もう一度やれと言われたら、鼻歌を歌いながらさくっと作業を完了させることができます。

しかし、具体的な経験から、具体的なそのことだけを学んでも、あんまり意味がありません。たとえば、さくらのレンタルサーバーを使ってWordPressブログを作る、という経験から、そのことを学んだとして、その学んだことを活かす場面は、今後、どれだけあるのか、という話です。一生の間に、あと何回かはあるかもしれませんが、それほどたいした回数ではないでしょう。仮に、この経験から、さくらのレンタルサーバーにWordPressブログを作る、ということだけしか学ばなかったら、残念ながら、ここから学んだことは、あんまり意味がない、と言わざるを得ません。

(2) いったん抽象化すると、他の領域にも使えるかもしれない

これに対して、具体的な経験を抽象化すると、学びの効果が高まります。抽象化すれば、他の領域にも使えるかもしれないからです。

たとえば、さくらのレンタルサーバーの例でいえば、(さくらインターネットに限定されない)レンタルサーバー一般に抽象化したり、自分が苦労した点の原因を抽象化したり(たとえば、「公式サイトのマニュアルをきちんと読む方が、結局楽。」とか、「ブログの情報を参考にするときは、そのブログ記事がいつ書かれたものなのかを確認して、現状との変更がないかを確認する方がよい。」とか)、もっと抽象化して、新しいサービスを使って新しいことを始めるときに何が大切なのかを理論化してみる(ノリ、情報収集、コスト計算)、などが考えられます。

抽象化をすれば、他の分野にも適用可能な知見が得られます。自分が苦労した原因を抽象化すれば、自分がしやすい失敗を把握できるので、失敗の予防になります。

(3) 抽象化した理論や方法を、別の何かに適用する

そして、具体的な対象を抽象化して、理論や方法にしたら、その理論や方法を、別の何かに、適用することができます。使えそうな対象があったら、抽象的な理論や方法を使ってみるとよいです。

たとえば、仕事で新しいことを始める機会が得られたら、WordPressブログを始めた経験から抽象化した、新しい何かを始めるときに大切な要素を意識して行動する、とかです。

3.具体化して、抽象化する

(1) 抽象的な理論や方法を教わっても、抽象論のままだと、どこかに行っちゃう

本を読んだり、講演を聴いたり、授業を受けたりすることから、抽象的な理論や方法を教わることがあります。

たとえば、私が『ザ・コーチ』で知った目標の設定方法は、抽象的な方法です。この本は、どんなやり方で目標とゴールと目的を設定し、行動計画に落とし込めばよいのかという抽象的な方法を、きれいに表現しています。

抽象的な理論や方法は、通常、耳障りがよくて、力を感じます。これを知ったことで、自分は学べたなあ、と感じます。しかし、抽象的な理論や方法のままにしておくと、あっという間に、その抽象的な理論や方法は、どこかに行ってしまいます。身につくことはありません。

(2) すぐに具体化してみると、理解が深まるし、強みと限界に気づく

学んだ抽象的な理論や方法をきちんと身につけるために大切なのは、この抽象論を、すぐに何か具体的な対象に適用することです。抽象論を具体化します。

たとえば、目標設定の抽象的な方法を学んだら、すぐに、自分に関する何らかの対象に、この目標設定の方法を適用してみます。

具体化すると、抽象的な理論や方法に対する理解が深まります。抽象論レベルでは理解していたと思っていたことも、意外と理解できていなかったと気づくこともできます。

また、自分に関する具体的な事柄に適用すると、その抽象論の強みと限界に気づくことができます。抽象論レベルで理解していたときには気づけなかった強みに気づくこともあれば、抽象論レベルではすばらしいと思っていたのに、いざ自分に関する具体的な事柄に適用してみると、たいした成果が得られない、という限界に気づくこともあります。

(3) 気づいた強みと限界を、もう一度抽象化しておくと、応用が利く

具体化して、抽象論の強みと限界に気づいたら、再度、これを抽象化しておくとよいです。このプロセスを加えるとよい、この概念を加えた方がわかりやすい、この概念とこの概念は現実には区別しにくいからそれほど厳格でなくてもよい、など。

もう一度抽象化するプロセスを経れば、本や講演や授業から学んだ抽象論に、自分の経験が加わって、自分にとってさらに使いやすいものになりますし、何かがあったときにぱっと使えるものになります。

4.具体だけ、抽象だけよりも、具体と抽象の往復が強い

人間の傾向として、具体的なことが好きな人と、抽象的なことが好きな人がいます。具体的なことが好きな人は、学ぶとは、具体的な知識や具体的なやり方を学ぶことだと把握します。抽象的なことが好きな人は、学ぶとは、一般に妥当する理論や、応用範囲の広い方法を身につけることだと把握します。

しかし、具体だけ、抽象だけよりも、具体と抽象を往復することが、学びの度合いを高める、いちばん強い方法です。具体と抽象を往復する、という技を活用すれば、どんな対象からも、何かしらを学ぶことができます。

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