普通の個人が、自分の毎日に、「その時点までの考察をアウトプットして、フィードバックを得る仕組み」を組み込む
公開日:
:
仕事の方法論
1.普通の個人が、自分の毎日に、「考察を深める仕組み」を組み込むには?
(1) 毎日に組み込まれた「その時点までの考察をアウトプットして、フィードバックを得る仕組み」によって、研究者は考察を深める
先日、こんなことを書きました。
研究者が考察を深める仕組み:「その時点までの考察をアウトプットして、フィードバックを得る仕組み」
ここで検討したのは、「研究者は、なぜ、圧倒的な深さまで考察を深めることができるのか?」という問いです。
この問いに対する現時点での私の考えは、
- 研究者が考察を深められるのは、研究者の毎日に「考察を深める仕組み」が組み込まれているからである。
- 研究者の毎日に組み込まれている「考察を深める仕組み」とは、「その時点までの考察をアウトプットして、フィードバックを得る仕組み」である。研究者は、日々、論文の執筆や研究会の準備や講義の資料作りに追われています。しかし、これらの作業は考察を邪魔するものではなく、「その時点までの考察をアウトプットして、フィードバックを得る仕組み」として機能している。
- 毎日に組み込まれた「その時点までの考察をアウトプットして、フィードバックを得る仕組み」によって、研究者は、自らの考察を深める。
と要約できます。
(2) 個人が、自分の毎日に、「考察を深める仕組み」を組み込むには?
a.プロの研究者じゃなくても、考察を深めることは、大切
プロの研究者にとって、考察を深めることは必要不可欠なことです。でも、プロの研究者ではない個人にとっても、考察を深めることは、なんやかんや大切です。
それは何も、今やすべての個人が高尚で深淵な研究テーマを持つべきだ、という話ではありません。日常のささいな物事についても、考察を深めれば、物事が快適に流れるようになって、いろいろうれしいんじゃないか、ということです。
たとえば、私が使っているiPhoneは、ストレージが16GBしかありません。私は毎週末子どもの写真をたくさん撮影するので、iPhoneのストレージは、わりとすぐに写真データでいっぱいになってしまいます。このとき、どうするか。
その都度Googleで調べて対処することでも、十分対応可能です。でも、「iPhoneで撮影した写真を管理するには、どうしたらよいか?」というテーマを設定して、このテーマを考察するという姿勢を持つと、少しずつ考察を深めていくことができるかもしれません。
この程度の意味ではありますが、この意味で、プロの研究者じゃない個人にとっても、何らかのテーマの考察を深めていくことは、なんやかんや大切です。
b.プロの研究者ではない個人の毎日には、「考察を深める仕組み」が組み込まれていない
このように、プロの研究者ではない普通の個人にとっても、考察を深めることは大切です。が、しかし、普通の個人の毎日には、普通、プロの研究者のような「考察を深める仕組み」が組み込まれていません。
雑誌連載の締切りが来月に迫っているわけでもありません。研究会のレジュメをこの週末に仕上げなければいけないわけでもありません。学会で質問の嵐にさらされることもなければ、自分の考察を人に説明する機会もありません。
考察を深めるために、「考察を深める仕組み」が必要不可欠というわけではありません。毎日に「考察を深める仕組み」が組み込まれていないとしても、ひとりで黙々と考察を深めることだって、やりようによっては可能です。
でも、「考察を深める仕組み」は、考察を深めるためには役立ちます。プロの研究者ではない普通の個人にとっても、この仕組は、ないよりはある方がいいはずです。
では、プロの研究者ではない普通の個人が、自分の毎日に「考察を深める仕組み」を組み込むには、どうしたらよいのでしょうか。
2.普通の個人が、自分の毎日に、「その時点までの考察をアウトプットして、フィードバックを得る仕組み」を組み込む
(1) 普通の個人の「考察を深める仕組み」も、「その時点までの考察をアウトプットして、フィードバックを得る仕組み」
プロの研究者にとっての「考察を深める仕組み」は、「その時点までの考察をアウトプットして、フィードバックを得る仕組み」でした。
普通の個人にとっても、「その時点までの考察をアウトプットして、フィードバックを得る仕組み」が、「考察を深める仕組み」として機能します。
また、一昔前は、普通の個人が「その時点までの考察をアウトプットして、フィードバックを得る仕組み」を自分の毎日に組み込むことは、とても大変で、よほどの恵まれた条件の人でないかぎり、不可能なことでした。でも、今や、普通の個人が自分の毎日に「その時点までの考察をアウトプットして、フィードバックを得る仕組み」を組み込むことは、(手間はかかりますが、手間を惜しまなければ、)十分可能になりました。
そこで、以下、普通の個人にとって「その時点までの考察をアウトプットして、フィードバックを得る仕組み」とはどんなものなのか、を検討します。
(2) 普通の個人にとって、「その時点までの考察をアウトプットして、フィードバックを得る仕組み」とは何か?
研究者にとっての「その時点までの考察をアウトプットして、フィードバックを得る仕組み」とは、具体的には、以下のようなものです。
- a.いろんな媒体へ、研究テーマに関連した小さめサイズの論考を書く
- b.研究の成果を論文にまとめる
- c.学生に講義をしたり、学生のゼミを指導する
- d.研究仲間の研究会に参加する
- e.研究の成果を学会で発表する
プロの研究者ではない普通の個人がこれらに参加することは、多くの場合、実は可能です。が、現実的にはなかなか大変です。
そこで、それぞれをヒントに、似たような役割を果たす仕組みを作ることを考えてみます。
a.いろんな媒体へ、研究テーマに関連した小さめサイズの論考を書く
プロの研究者は、雑誌や論文集や共著書籍など、いろんな媒体へ、自分の研究テーマに関連した小さめサイズの論考を投稿します。やってきた依頼を引き受けることもあれば、自分から応募することもあるようですが、何にしても、年がら年中、複数の論考の締切りを抱えているのが、多くのプロの研究者の姿のようです。
この作業が「考察を深める仕組み」として機能するのは、
- (1) 自分の研究テーマについての自分の考察を、文章などの他人に通じるかたちでアウトプットできること
- (2) アウトプットを他者に見てもらうことで、他者からのフィードバックを得られること
という2つがあるためです。
普通の個人も、この2つの条件を満たす仕組みを作ることで、同じような機能を果たす仕組みを作ることができます。
自分が関心を持っているテーマについて、何らかの問いを立て、自分なりに考察し、考察を文章のかたちでアウトプットする。そして、その文章を、ブログやFacebookなど、他者が読める場所に公開する。そして、Twitterなどでいただいたコメントを確認できるように設定しておく。たとえばこの仕組みなら、この2つの条件を満たしますので、「考察を深める仕組み」として機能します。
b.研究の成果を論文にまとめる
研究の成果を論文にまとめることは、プロの研究者にとって、とても大切な作業です。たとえば、研究者の世界では、プロの研究者の業績とは、これまでに書いた論文一覧と、概ねイコールと考えられているようです。
考察を深めるためにも、大きな論文を書くことは、大きな意味があります。大きな論文を書く過程で、たくさんの小さな論考を書くことによって得られた小さめの考察を集めて、大きな考察を組み立てることができるからです。
普通の個人も、この仕組みを応用することができます。ブログやFacebookにたくさんの文章を書けば、小さめの考察がたくさん得られます。それだけでも十分すてきなことなのですが、ここで得られたたくさんの小さめの考察を集めて、大きな考察を組み立てることができれば、さらにすばらしいことです。このために、大きな論文のようなものを、別途どこかにまとめる、という方法を活用できます。
具体的に考えると、いくつかの選択肢があります。
まず、ブログに長い文章を投稿することも可能です。プロの研究者が書く雑誌とちがい、ブログには、文字数の制限がありません。小さな論考を重ねるのと同じ場所に、論文なみの長い文章を書いても問題はありません。
また、同じブログにしても、通常のブログエントリとは別に、固定ページを作る、ということもありえます。
同じブログではない場合でも、noteのような別サービスを使ったり、論文のような文章だけを集めた別ブログを立ち上げる、ということも考えられます。
さらに、ちょっとがんばって、電子書籍を作るのもひとつです。AmazonのKindle本なら、KDPという仕組みによって、個人が電子書籍を発行することもできます。ベストセラーを狙うのはハードルが高いですが、論文をまとめるのと同じような機能を求めるなら、悪くない仕組みです。
c.学生に講義をしたり、学生のゼミを指導する
大学に所属する研究者は、普通、学生の指導をします。しなければいけない義務です。講義を担当したり、ゼミを指導したりします。
研究と教育は、一応は、別の営みです。でも、見方によっては、つながっています。人に教えることは、考察を深めるための、もっとも効果が高い作業のひとつだからです。
この意味で、学生を教育する機会が(義務として)与えられていることは、プロの研究者にとって、「考察を深める仕組み」として機能しています。
ここから考えると、普通の個人も、自分のテーマについて「人に教える機会」を与えられれば、それが「考察を深める仕組み」として機能します。では、普通の個人が、自分が関心をもつテーマを「人に教える機会」を持つには、どうしたらよいでしょうか。
生活の糧を得るための生業のなかに、自分が関心をもつテーマを人を教える機会が含まれているのであれば、それで問題ありません。幸運を噛み締めながら、日々、実践するのみです。
他方で、そうじゃない場合は、なかなか難しい問題です。というのも、「人に教える」ためには、自分の教えることを受け取っていただける他者が必要だからです。いくら自分が「これを教えたい!」と思っていて、そのための時間も能力もあるとしても、それを誰にも受け取っていただけないなら、自分が関心をもつテーマを人に教えることはできません。
ここでボトルネックになっているのは、マッチングです。自分が関心を持ち、教えたくて、教えることができるテーマと、そのテーマの教育を必要とする他者とのマッチングです。
であれば、このボトルネックを解消するために、普通の個人にできることは、「自分が関心を持っていて、人に教えたいテーマ」と、「そのテーマを教えるために、自分にできること」公開しておくことです。たとえば、「私は構造を持った文章の書き方に関心を持っていて、誰かに教えたいと思っています。」ということと、「こんな練習を一緒にすれば、構造を持った文章を書けるようになります。」ということを、公開しておくことです。
そして、これを公開するために、ウェブは大きな助けになります。
自分の持ち味を発揮することと、価値を見い出されること。『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』でも書いたのですが、ソーシャルネットワークを中心とする現在のウェブは、自分の価値を他者に見い出してもらうために、大きな力を発揮します。
普通の個人が、人に教える機会を得るためには、この視点からのセルフブランディングが役に立つように思います。
d.研究仲間の研究会に参加する & e.研究の成果を学会で発表する
プロの研究者は、多くの研究会に参加しています。近い研究者(同じ大学に所属する、とか、師匠が同じ研究者とか)で構成される非公式の研究会から、世の中のその分野の研究者の大多数が参加する公式の研究会とか、いろんな研究会があります。また、後者の研究会の中に、学会とも呼ばれる研究会が存在します。
多くの研究会は、実は、一般に開かれています。公式の学会は、参加条件を満たして会費を納めれば、学会員になれます。非公式の研究会も、つては必要ですが、参加できるものが多いはずです。実際、私が知るいくつかの研究会は、プロの研究者だけでなく、その分野に関係する仕事についているビジネスマンや公務員が参加していました。
とはいえ、普通の個人が、プロの研究者がメインの研究会についていくのは、なかなか大変です。また、自分の関心をもつテーマによっては、プロの研究者による研究会が存在しないことも多々あります。「サラリーマンは、どのようにタスク管理をすると、幸せになれるか?」や「Evernoteを子育てに活用するにはどうしたらよいか?」というテーマを研究しているプロの研究者を、寡聞にして、私は知りません。
そこで、普通の個人の場合は、SNSによるゆるやかなつながりを活用するのがよいように思います。
FacebookやGoogle+には、いくつかのグループがあるようです。その中から、自分の関心に近いものを選んで参加すれば、研究会のような機能が得られます。
また、特定のグループに入らなくても、SNSで誰をフォローするかによって、SNS自体が、ゆるやかな研究会のような雰囲気を帯びます。
さらに、SNSによるゆるやかなつながりが深まれば、そこから、リアルでの勉強会やセミナーが生まれることも、いまやわりと普通のことです。
このように、普通の個人であっても、ウェブやSNSとのつきあい方次第で、プロの研究者が研究会や学会から得ているメリットと似たようなメリットを得られるような気がします。
3.まとめ
普通の個人が日々を送るためにも、考察を深めることは大切です。そのため、普通の個人にとっても、自分の毎日に「考察を深める仕組み」を組み込むことは、意味があります。
プロの研究者と同じように、普通の個人にとっても、「その時点までの考察をアウトプットして、フィードバックを得る仕組み」が、「考察を深める仕組み」として機能します。
普通の個人が、自分で、自分の毎日に、「その時点までの考察をアウトプットして、フィードバックを得る仕組み」を組み込むには、たとえば、以下の方法があります。
(1) 自分のブログ
自分のブログ(やFacebook)は、小さめの考察をアウトプットするための場所になります。また、いくつかの小さめの考察を組み合わせて大きな考察を深めるためにも、便利です。
自分のブログ(やFacebook)には、投稿数の制限もなければ、投稿文字数の制限もありません。書きたいことを、書きたい分量だけ、書きたい回数、書けばよいです。
ただし、「考察を深める仕組み」として機能させるためには、そのブログを読んでくださる方の存在を感じることが大切です。
(2) SNSによるゆるやかなつながり
ウェブの世界は広いです。自分が関心を持っているテーマがどんなにニッチなテーマでも、広いウェブの世界には、共通のテーマに関心をもつ人が、きっと存在しています。
SNSを使えば、共通のテーマと関心をもつ人と、ゆるやかにつながることができます。
(3) 関心テーマと自分にできることを公開して、機会を得る
関心を持っているテーマについて、人に教えることは、そのテーマの考察を深めるための、よい手段です。でも、関心を持っているテーマを人に教える機会に恵まれることは、めったにありません。
自分が関心を持っているテーマと、自分がそのテーマについてできることを公開すると、他者に価値を見い出されることで、そのテーマについて人に教える機会をいただくことができるかもしれません。
スポンサードリンク
関連記事
-
仕事にメールを活用するための、メールの設定・作り方・基本方針
1.はじめに 私は、仕事でメールを使うのが好きです。すきま時間に仕事を進めることができること、記録
-
トレーニング可能な能力は、実は、もっと多い。
1.仕事がすごくできる人を目の前にすると、天賦の才だと思いがち 仕事がすごくできる人、という人は、存
-
Toodledoによる個人的タスク管理システムのはじめ方
0.要約 (1) Toodledoを使えば、費用なしですぐにでも自分の個人的なタスク管理システムを
-
ハイブリッド手帳システムを作る【タスク編】ToodledoとEvernoteで作るタスクマネジメントシステム
1.ハイブリッド手帳システムのタスクマネジメントシステム (1) タスクマネジメントに関するいくつ
-
日々の仕事の中で育てる『私の教科書』
1.「ずっと完成しないで変化し続ける有機体」の考え方を、日々の仕事で具体化する (1) 最近もっとも
-
タスクを管理しないと、「今やるべきことはない!」との判断を下せない
1.「今やるべきことはない!」という判断を下すには? 一日の仕事を終えて、職場を出るとき、「今日やる
-
そのメールは、一言で返信できるか?大前研一によるビジネス・メールの4つのルールと、ルール確認のテスト項目
1.大前研一曰く、ビジネス・メールには4つのルールがある 今、大前研一の『ドットコム仕事術』という本
-
「タスクの実行」を助けてくれるタスクリストの条件は?
1.はじめに・「タスクの実行」を助けてくれるタスクリストの条件とは? (1) 「タスク管理」と「タ
-
マルチタスク型とシングルタスク型、どちらがより生産的か?
1.問題意識~マルチタスク型とシングルタスク型、どちらの方がよいのか?~ (1) マルチタスク型と
-
タスク管理は、未来だけでなく、今と過去を扱う
1.はじめに:「タスク管理は、未来のタスクだけでなく、今のタスクと過去のタスクも対象とする」という考