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全体としてひとつの流動的な有機体であるか否か(Evernoteとプロセス型アウトライナーの思想のちがい)

公開日: : Evernote, 書き方・考え方

1.はじめに

「Evernoteとアウトライナーの融合は可能か?」というテーマを考察した、この記事を読みました。

杭を打てば垣根ができる[Thought][思考のOS] | るうマニアSIDE-B

この記事を読んで、私は、Evernoteとアウトライナー(正確には、「プロセス型アウトライナー」)の思想のちがいを、ようやく掴むことができました。

以下、私の理解を助けてくれた記載を引用しながら、私が理解するところの、「Evernoteとプロセス型アウトライナーの思想は、どのようにちがうのか?」を説明します。

2.「Evernoteは、2ペインである」という見方

(1) 前提としての、本文と見出しの区別・2ペインと1ペイン

アウトライナーに関するいろんな考察をされているTak.さんは、アウトライナーの思想を考える上では、本文と見出しを区別するか否か、が大切だ、とおっしゃいます。

プロセス型アウトライナーには「見出し」という概念がない。トピックを無限に入れ子にできるけれど、どれが見出しでどれが本文かという決まりはない。あるトピックが見出しになるか本文になるかは、そのトピックがどの階層に位置づけられるかによって決まる。

アウトライナーにはプロセス型とプロダクト型がある:Word Piece >>by Tak.:So-netブログより)

条件3 「本文」と「見出し」を区別しないこと

理想は全てが「トピック」として扱われ、トピックがそのときどきにつくられる階層関係によって、結果的にときには見出しになり、ときには本文になる、という方式です。見出しになるか本文になるかは、あくまで結果なのです。

私的「真のアウトライナー」より)

Tak.さんの定義する「プロセス型アウトライナー」は、本文と見出しを区別しません。すべての要素が等価な、1ペインです。

(2) Evernoteは、2ペインで見出しと本文を区別する/プロセス型アウトライナーは、1ペインで見出しと本文を区別しない

さて、この1ペイン・2ペインの区別を前提に、「杭を打てば垣根ができる[Thought][思考のOS]」にもどります。

この記事は、まず、プロセス型アウトライナーとEvernoteの大きなちがいは、1ペインか2ペインか、言葉を変えれば、本文と見出しを区別しないかするかにある、とされます。

いわゆる、文章作成ツールとしてのアウトライナーのほとんどは1ペインであり、前回の記事でいう「全てをテキストベースに落とし込んだもの」だ。Tak.さんの言葉を借りると「要素が等価である」ということ。それゆえにどんな区切りでも、どんな形にもトランスフォームできる。積み木のようなものかな。

それに対して、Evernoteの全体の構造は、どこをどんなに工夫しようが 2ペインアウトライナーだ。 ノート(本文)の世界があり、ノートタイトルより上位のみを「見出し」としてアウトライン構造に乗せている(ノートブック、スタックという2階建しかできないことと、対象を主体的に動かせない点ではちょっとアウトライン機能は貧弱だけど)。

ここでノートの中身がどんなに変わろうが関係ない。なぜならアウトライン構造として取扱えるのはタイトル (見出し)より上位の構造だけだから。

杭を打てば垣根ができる[Thought][思考のOS] | るうマニアSIDE-Bより)

整理すると、

  • アウトライナー(Tak.さんのいう「プロセス型アウトライナー」)は、すべてのトピックについて、要素が等価である。本文と見出しを区別しない。つまり、1ペイン。
  • これに対して、Evernoteは、その全体構造が、ノート本文の世界とノートタイトルの世界とに、分かれている。つまり、Evernoteを構成する要素は、等価ではない。ノート本文とノートタイトルが区別されている。つまり、2ペイン。
  • したがって、Evernote全体の構造は、プロセス型アウトライナーではない。

ということです。

3.「Evernoteの個々のノートを、1ペインのアウトライナーとして使えばいい」という考え方について

(1) 私の疑問:「Evernoteの個々のノートをプロセス型アウトライナーとして設計すれば十分では?」

「Evernoteは2ペイン、プロセス型アウトライナーは1ペイン、よってEvernoteはプロセス型アウトライナーにはなりえない。」という記載を読んで、私が感じた疑問は、次のようなことです。

  • 私がEvernoteに求めるアウトライナー機能は、さしあたりは、個々のノートの中でアウトラインを操作する機能である。
  • たしかに、ノートという単位が存在することによって、ノート本文とノートタイトルに分かれてしまうから、Evernoteの全体の構造を見れば、要素は等価ではない。だから、Evernoteの全体構造は、1ペインではなく、2ペインである。
  • しかし、ノートで区切られた中の世界、個々のノートの本文の中でなら、見出しと本文を区別しないアウトライン操作が実現できるのではないか。個々のノートの中で1ペインを実現すれば、Evernoteで1ペインアウトライナーの威力を活用できるのではないか。

つまり、私の疑問は、「Evernoteの中で、プロセス型アウトライナーの威力を実現するためには、Evernoteのひとつひとつのノートを、プロセス型アウトライナーとして扱えば足りるのではないか。なにも、Evernoteの全体を、ひとつのプロセス型アウトライナーとして扱う必要はないのではないか。」ということです。

(2) Evernoteは、ノートによって、杭を打ち、流動的な有機体から切り離す

この考えに対して、冒頭の記事は、そうじゃない、といいます。

そして仮に、将来ノート(本文)内でアウトライナー的にテキストが作成する機能が付加されようが 2ペイン構造はつぶれない.レゴブロックのようなものだ。

2ペインアウトライナーのなかで、本文はつねに見出しに背負われている。本文が見出しを越えてフィールドに出ることはできない。

杭を打てば垣根ができる[Thought][思考のOS] | るうマニアSIDE-Bより)

これは、

  • Evernoteは、ノート単位で情報を整理する。ノートには、ノートタイトルとノート本文が区別されている。したがって、Evernoteの全体構造は、見出し(ノートタイトル)と本文(ノート本文)を区別する、2ペイン構造になる。
  • Evernoteの全体構造が2ペインである以上、仮に、Evernoteに個々のノート内で1ペインのアウトライナーのようにテキストを操作する機能が追加されたとしても、Evernoteが1ペインのアウトライナーであることにはならない。

ということです。

続いて、Evernoteがノート単位でテキストを扱うことについて、次のように述べます。

残酷だけれど、ノートを作る行為、つまり、題名をつけ、ノート内の言葉のかたまりを単位化した時点で、中のテキストはアウトライナーの流動的な有機体から離れることになるんだ。

( 我は名をつける。ここにノートあれ。)
Evernoteでノートにタイトルを書き込む(書き込まなくても勝手に付け加えられる)行為は、結果としてノートという番地の決まった単位に中の言葉を固定し、閉じ込めることになる。
それは杭を打つようであり、
箱のなかにしまうようであり、
墓碑銘を刻むようでもある。
1ペインアウトライン構造の観点から言えば、それはアウトラインの流動性の対象外となったことを意味する。

杭を打てば垣根ができる[Thought][思考のOS] | るうマニアSIDE-Bより)

ここがすごく面白くて、納得したところです。私なりの理解をまとめると、

  • Evernoteに書かれるテキストは、必ず、ノートという単位の中にある。これは、杭を打ってテキストをノートの中に閉じ込めるようなものだ。
  • Evernoteに書かれるテキストは、ノートの中に閉じ込められている。だから、Evernoteに書かれるテキストが、ノートの枠を超えて、流動的な有機体を形作ることは、ありえない。
  • プロセス型アウトライナーに書かれたテキストは、全体が流動的な有機体である。でも、Evernoteに書かれたテキストは、全体が流動的な有機体にはならない。これが、Evernoteがプロセス型アウトライナーになりえない理由である。

となります。

4.「Evernoteとプロセス型アウトライナーの思想は、どのようにちがうのか?」

(1) プロセス型アウトライナーの思想=アウトライン全体がひとつの流動的な有機体であること

Tak.さんは、ひとつのアウトラインに、書きかけの文章のすべてを入れる、という使い方をされているそうです。

長年アウトライナーを使っていて、少なくとも文章を書く作業に関するかぎり、書きかけの文章はすべてひとつのアウトラインに入れておくのがいちばん合理的だと思うようになった。

アウトライナーを使うとファイルの概念が消えていく:Word Piece >>by Tak.:So-netブログより)

最初にこれを伺ったとき、私はすごく衝撃を受けました。しかし、今考えてみると、まさにこれは、プロセス型アウトライナーの思想を体現した使い方です。

プロセス型アウトライナーの思想は、アウトライン全体が、ひとつの流動的な有機体であること、です。ひとつのアウトラインに、自分の思考の断片を表現したテキストを全部放り込むことで、そのアウトライン全体が、ひとつの流動的な有機体のように機能して、そこから新しい思考が生まれること。これが、プロセス型アウトライナーで文章を書くときに生まれる作用なのではないかと思います。

(2) Evernoteの思想=ノート単位で情報を扱うこと

これに対して、Evernoteは、ノート単位でテキストを扱います。Evernoteにテキストを書き込むとは、Evernoteの中のいずれかのノートの枠の中に、テキストを書き込むことです。Evernoteに書き込まれたテキストは、ノートによって、杭を打たれて、切り離されています。Evernoteに書き込まれたテキストが、全体としてひとつの流動的な有機体として機能することは、ありません。

Evernoteの思想は、Evernoteに放り込んだ全部の情報がひとつの流動的な有機体を構成すること、ではありません。むしろEvernoteの思想は、Evernoteに放り込んだ情報を、何らかの観点で切り分けることで、情報のまとまりを作ることです。

(3) まとめ

Evernoteとプロセス型アウトライナーの思想のちがいは、具体的には、ノートという単位の有無にあらわれています。テキストを書き込むとき、Evernoteはノートを用意してそこに書き込む必要がありますが、プロセス型アウトライナーであればその必要はありません。

ノートという単位を持つEvernoteは、(個々のノートの内部に有機的構造を作ることはできても、)Evernote全体を、ノートを超えた流動的な有機体として扱うことは、できません。

ノートという単位を持たないプロセス型アウトライナーは、アウトライン全体を、ひとつの流動的な有機体として扱うことができます。

だから、私が望んでいたEvernoteとアウトライナーの融合、つまり、「Evernoteの個々のノートの中に、プロセス型アウトライナーの機能を取り込むこと」が実現されても、Evernoteがプロセス型アウトライナーの思想を取り入れたことにはなりません。Evernoteがノートという単位を維持するかぎり、プロセス型アウトライナーの、アウトライン全体がひとつの流動的な有機体、という思想を、Evernoteが取り入れることは不可能だからです。

これが、私の理解した、Evernoteとプロセス型アウトライナーの思想のちがいです。

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