私は、こんな道具を使って、文書を作りたい。(その1・抽象的な基本思想編)
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書き方・考え方
目次
1.背景
(1) 問題意識
文書作成ツールとしてのWorkFlowyやUlyssesに、大きな可能性を感じています。
シングルライブラリAppであり、Exportが充実していること。シンプルでありながら、柔軟にカスタマイズ可能な道具であること。見た目がすっきりしていて、気持ちよく書けること。キーボードショートカットが充実していて、10本の指で思い通りに操作できること。このあたりが理由です。
とりわけ、WorkFlowyに関しては、WorkFlowyによる文書作成について、これまでにいくつかの記事をまとめました。
- 「WorkFlowyによる文書作成は、実に楽しい。」という主観的な経験を観察することを通じて、文書作成ツールとしてのWorkFlowyの可能性を考察する(概観)
- 与件の範囲内での窮屈な文書作成が、ちょっと自由になる_文書作成ツールWorkFlowyの可能性(1)
- そのときどきの「やりたい」のつまみ食いを、文書の完成へと統合できる_文書作成ツールWorkFlowyの可能性(2)
- 様々な環境からひとつの文書を作成することで、行き詰まりを打開できる_文書作成ツールWorkFlowyの可能性(3)
とはいえ、WorkFlowyとUlyssesも、万全ではありません。たとえば、WorkFlowyはクラウド必須なので、クラウドに上げたくない情報を用いた文書作成には使えません(現時点では2段階認証プロセスにも対応していませんし)。また、UlyssesはWindows版がなくMacのみなのですが、私の職場にあるパソコンはWindowsです。とても残念なことに、WorkFlowyとUlyssesだけですべての文書を作成することは、特に仕事のために作成する文書を考えると、私の現状では現実的ではありません。
そこで、WorkFlowyとUlyssesから学んだことを踏まえ、WorkFlowyとUlyssesを念頭に置きつつもこれら2つの道具からは離れて、多少抽象的に、主に仕事のための文書作成のため、「私は、こんな道具を使って、文書を作りたい。」ということを考えてみます。
(2) [前提]成果物となる文書はどんなものか?
私が仕事で作成する文書は、概要、こんな文書です。
a.内容:日本語の文章
内容は、日本語の文章による説明文です。
「日本語の」というのは、英語や中国語じゃなくて日本語、という意味と、プログラミング言語や数式ではなくて日本語、という意味です。
「文章」というのは、箇条書きやスライド(パワポなどの)ではなく完結した文章、という意味と、図表や写真やグラフによって表現することよりも文章によって表現することが多い、という意味です。
「説明文」というのは、エッセイや物語ではなく、何かを説明するための文章という意味です。結論や目的があり、読者を想定しています。
b.形式:紙、完結した電子データ、docxまたはpdf
形式は、いつも同じではありませんが、紙に印刷した文書を成果物とすることが多いです。先方に、紙に印刷したものを提出します。
電子データをメールで送ったりサーバーにアップロードすることによって成果物の提出とすることもあります。でも、ここで提出するのは、docx形式やpdf形式のファイルです。要するに、紙に印刷する直前段階のものをデータで提出するという発想であり、成果物を紙とする発想と本質的には大差ありません(先方がその電子データをそのまま印刷しても問題ないデータを送信することが求められている)。
そんなわけで、私が作成する文書の完成データは、ほとんどが、Microsoft Wordのdocx形式かpdf形式です。(IllustratorのAI形式、PowerPointのpptx形式、Excelのxlsx形式も、たまにあります。)
2.「私は、こんな道具を使って、文書を作りたい。」の抽象的な基本思想
抽象的な基本思想としては、こんな道具がいいなと思います。
(ここに記載する基本思想の多くを、私は、ここ2年弱の間に、アウトライン・プロセッシングやWorkFlowyを通じて知り合ったたくさんの方々から、学びました。)
(1) 「ずっと完成しないで変化し続ける有機体」から「暫定的な作品群」を「切り出す」
個人にとっての知的生産の意義は、自分にとっての集大成ともいうべき思考を完成させることにあるのではなく、自分の思考を変化させ続け、育て続けることにあるような気がします。自分の思考は、自分が人生において経験するすべてのことを取り込んで育ち続ける有機体のようなものです。
個人の思考全体は完成せずに変化し続けるので、個人が公開する作品は、「暫定的な作品」に過ぎません。
それでも、「暫定的な作品群」を発表し続けることによって、自分の知的生産を少しずつ前に進めていくことができます。
これが、母体となる「ずっと完成しないで変化し続ける有機体」から「暫定的な作品群」を継続的に「切り出す」という、知的生産のあり方です。
- ずっと完成しないで変化し続ける有機体から、暫定的な作品群を切り取るためのハサミ
- WorkFlowyと自分のブログによる知的生産システムと、ハサミスクリプト「WFtoHTML_irodrawEdition」が果たす役割
今、私は、こんな抽象的な理念を、WorkFlowy・ハサミスクリプト・ブログ(WordPress)という3つの組み合わせによって、具体的に実現できています。
しかし、ブログ以外の場面では、必ずしも具体化できていません。今後、この「ずっと完成しないで変化し続ける有機体」から「暫定的な作品群」を「切り出す」というあり方を、自分の人生のいろんな場面に広げていければ、きっと面白くなります。
(仕事を含む)文書作成においても、「ずっと完成しないで変化し続ける有機体」から「暫定的な作品群」を「切り出す」というあり方を具体化するため、こんなあり方を可能にしてくれる道具を使って、文書を作成したい、と考えています。
(2) (文書の見た目を整えるのとは独立に、)文書の中に「情報の構造」を構築することだけに集中する
以前、Microsoft Wordを使って文書を作成していた頃、私は、文書作成という作業を、「文章を書いて、見た目を整えること」だとイメージしていました。
でも、今は、それは少し(あるいはだいぶ)ちがうと考えています。
●
文書は、そのひとつの文書の中に、「情報の構造」を持っています。ここでいう「情報の構造」とは、タイトル、作成日付、作成者といった形式的なものと、文書の目的、問い、答え、理由といった実質的なものの両方を含む概念です。この「情報の構造」は、文書の見た目とは別のもので、区別可能です。
つまり、文書作成という作業は、
- 文書の中に「情報の構造」を構築する
- (「情報の構造」を表現するために)文書の見た目を整える
という2つからできています。
そして、文書作成の本質は、文書の見た目を整えることではなく、文書の中に「情報の構造」を構築することにこそ、あります。
だから私は、(文書の見た目を整えるのとはできる限り独立に、)文書の「情報の構造」を構築することに集中できる道具を使って、文書を作成したいと思います。
(3) 混沌とした全体・秩序ある一部分・情報の出し入れ
完成したひとつの文書の中には、「情報の構造」という秩序があります。この文書の中に存在する秩序を構築する方法は、大きく分けて、2つです。
ひとつめの方法では、何もないところにゼロから秩序を組み立てます。つまり、最初に文書の全体構造を組み立てて、その後、その全体構造に沿って個々の部分を仕上げるのです。
この方法は、とても合理的で、実際、うまく機能します。多くの書籍において、ビジネス文書作成の基本として紹介されている方法ではないかと思います。
でも、これだけが唯一の方法ではありません。ふたつ目の方法は、「文書となる枠の外に混沌さを排出することで、文書となる枠の中の秩序を高める」というものです。
- WorkFlowyで、文章となる枠の外に混沌さを排出して、文章を書く
- 文章になる枠の外に、混沌さを排出する、という文章の書き方
- 「枠の外に混沌さを排出する」という文章の書き方に関連する2つのメタファー
この方法は、無駄が多く、文書完成までのプロセスをコントロールすることが困難です。それほど合理的な方法ではなく、欠点もあります。でも、この方法を使えると、文書作成の幅が広がり、選択肢が増えます。
「枠の外に混沌さを排出することで枠の中の秩序を高める」という方法を使うには、そのための仕組みが必要です。この仕組みは、少なくとも、
- 混沌とした全体をひとつの場所で管理すること
- 全体の中の一部分をひとつの文書として区切ること
- 区切られた枠の中と外の間で、情報を出し入れすることが簡単であること
という3つの条件を満たさなければいけません。
だから、私は、この3つの条件を満たす道具で、文書を作りたいと思います。
(4) 「今この瞬間」を扱うことの積み重ねが、結果として過去の蓄積となる
私たちがひとつの文書を作成のためには、たくさんのエネルギーを費やします。しかし、こうして費やされたエネルギーは、通常、成果物としてできあがった完成品の文書そのものにしか残りません。完成品の中に盛り込まれなかった調査結果や、ボツにした一節の文章などは、どこかに流れ去ってしまいます。
でも、文書作成のために費やすエネルギーは、膨大です。そんな膨大なエネルギーが完成文書にしか残らず、その残りが流れ去ってしまうのは、もったいないというしかありません。完成文書には盛り込まなかった調査結果やボツにした一節も、どこかに蓄積しておけば、別の文書作成や別の仕事など、どこかで活用できるかもしれません。
とはいえ、文書作成のために費やしたエネルギーをきちんとストックすることは、それ自体が面倒で、たくさんのエネルギーを必要とします。「今この瞬間」にエネルギーを注がねばならない文書が次から次へとやってくる状況で、既に終わった文書のために費やしたエネルギーを整理するためのエネルギーを費やすことは、あまり気が進みません。
そこで、「今この瞬間」の文書作成に費やしたエネルギーが、結果として、いつの間にか、どこかに蓄積されるような仕組みが求められます。
こんな、「今この瞬間」のフローを、自然と、過去のストックに変換する仕組みを備えた道具で、文書を作成したいと思います。
WorkFlowyで文書を作成することによって、文章作成主体に生じる、副次的だけど、より本質的で根本的な革命について(その1)
(5) 文書作成の「上の階層」と一体的に文書を作成する
文書作成は、タスクです。どんな文書であれ、ひとつの文書を完成させるためにはた、いろいろな種類のタスクをたくさん実行する必要があります。文書を完成させるには、タスクマネジメントに取り組まねばならないのです。
タスクマネジメントの役割は、次の3つです(タスク管理は、未来だけでなく、今と過去を扱う)。
- 未来のタスクを管理する
- これからやらなければいけないタスクを記録すること
- 然るべきタイミングでリマインダを出す
- 現在のタスク実行を助ける
- 過去のタスクをログとして蓄積する
文書作成のためのタスクマネジメントも同じです。
- 文書を完成させるために必要な未来のタスクを管理する
- 文書作成のためのタスクを現に実行することを助ける
- 文書作成のために実行したタスクをログとして蓄積する
このうち、「文書作成のためのタスクを現に実行することを助ける」としては、たとえば、
- 作成対象の文書のバージョン管理
- 文書作成主体である自分自身のマネジメント
といったものが考えられます。
これら文書作成のためのタスクマネジメントは、比喩的に言えば、文書作成作業そのものよりも「ひとつ上の階層」に属する事柄のように思います。文書作成作業そのものを含むけれど、それを支えたり管理したりするメタ次元に属する事柄だからです。
そして、私は、文書作成のための道具に対して、こんな文書作成の「上の階層」も含めた全体をカバーすることを期待しています。
WorkFlowyは、文書作成に、どんな革命をもたらすか?→その文書作成の「上の階層」を、どの道具で扱うか?
そんなわけで、文書作成の「上の階層」を扱える道具を使って、文書作成の「上の階層」と一体的に文書を作成したいと思います。
(続く)
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