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Evernoteで文章を書くようになって約3年、Evernoteは私の知的生産をどう変えたか?

公開日: : Evernote, 知的生産

1.はじめに 〜Evernoteは、私の知的生産を、どう変えたか?〜

(1) 「ずっと完成しないで変化し続ける有機体」としてのEvernote

先日、こんなエントリを書きました。

ずっと完成しないで変化し続ける有機体から、暫定的な作品群を切り取るためのハサミ

このエントリの中で、私は、ウェブ時代における個人の知的生産システムは、「ずっと完成しないで変化し続ける有機体」と「そこから切り取った暫定的な作品群を個数無制限で公開できる場所」の2つから成るのではないか、ということを書きました。

そして、私自身にとってはEvernoteが、この「ずっと完成しないで変化し続ける有機体」であると述べました。

(2) Evernoteは、私の知的生産を変えた

私が毎日のようにEvernoteを使うようになったのは、今から約3年前のことです。毎日のようにEvernoteを使うようになったことにはいくつかのきっかけがありましたが、そのひとつは、Evernoteで文章を書くようになったことです。このブログに書く文章の原稿をすべてEvernoteで書くことにしたことで、私は、毎日のように、Evernoteで、文章を書くようになりました。

Evernoteで文章を書くようになって約3年、Evernoteは、私の知的生産を大きく変えました。

Evernoteがどのように私の知的生産を変えたのかを考えていたら、「ずっと完成しないで変化し続ける有機体」がポイントだということに気づきました。

そこで、以下、Evernoteが私の知的生産をどのように変えたのかをふり返ることによって、Evernoteが「ずっと完成しないで変化し続ける有機体」であるとはどのようなことなのか、また、「ずっと完成しないで変化し続ける有機体」としてのEvernoteを持つことによって、個人の知的生産がどのように変化するのか、を考えたいと思います。

2.Evernoteは、私の知的生産を、こう変えた

Evernoteは、私の知的生産を、どのように変えたのでしょうか。

私にとって、知的生産とは、文章を書き上げて、その文章を公開することです。このうち、Evernoteは、文章を書き上げるプロセスを変えました。Evernoteを使うようになる前と使うようになった後とで、私の文章を書き上げるプロセスがどのように変わったのか、ふり返ってみます。

(1) Evernote前

a.文章を書き上げるプロセス

Evernoteを使っていなかったころ、私が文章を書き上げるために使っていたツールは、秀丸エディタなどのテキストエディタやWordなどのワープロソフトでした。これらのツールを使って私が文章を書き上げるプロセスを図式的にまとめると、だいたい、こんな感じになります。

  • 書き上げる文章の完成イメージを描く。
    • 基本的には、頭の中で描く。
    • ときどき、ノートや裏紙にメモする。
  • 完成した成果物になるファイルを新規作成する。
    • 文章だけなら、秀丸エディタでテキストファイルを新規作成する
    • 表やグラフや写真が入るなら、Wordでdocファイルを新規作成する。
  • 完成した成果物になるファイルに、文章などを書いていく。

このプロセスの構成要素は、頭と完成品の2つです。頭の中に描いた完成イメージを、完成した成果物になるファイルにすこしずつ現実化していくプロセスだといえます。

b.文章を書き上げるプロセスからの収穫

このプロセスには、弱点があります。それは、文章を書き上げるプロセスで生まれる収穫を受け止める仕組みがないことです。

文章を書き上げるのは、行きつ戻りつです。完成した成果物としての文章にはぜんぜん反映されないことを考えたり、何度も書き直した一節をまるごと削除したり、といったことは、ごく普通です。

でも、文章を書き上げるための行きつ戻りつは、ぜんぜんムダなことではありません。なぜなら、この行きつ戻りつによって、確実に、思考が進むからです。そこで進んだ思考は、仮に、最終的な成果物としての文章にまったく反映されないとしても、文章を書き上げることから得られる確かな収穫です。つまり、思考が進むことは、文章を書き上げることの、大きな収穫です。

ところが、Evernote前に私が採用していた、頭と完成品の2つから成るプロセスだと、文章を書き上げることから得られた収穫を受け止める仕組みがありません。文章を書き上げるプロセスで思考がどれだけ進んでも、その思考は、自分の頭のなかには蓄積されるけれども、それ以外のどこにも蓄積されません。忘れてしまったり、意識の外に行ってしまったりしたら、そのまま埋没してしまいます。

すなわち、このプロセスには、文章を書き上げることによって進んだ思考を受け止める仕組みがありません。思考が進むことは、文章を書き上げることの大きな収穫であるにもかかわらず、これを受け止める仕組みがないことで、せっかく進んだ思考は、どこかに散逸したり、埋没したりしてしまいます。

このプロセスでは、あるひとつの文章を書き上げることの意義は、基本的には、そのひとつの文章を書き上げることだけにとどまっています。

(2) Evernote後

a.文章を書き上げるプロセス

これに対して、文章を書き上げるためのツールとしてEvernoteを使うようになった後、私が文章を書き上げるプロセスは、こんな感じになりました。

  • (1) 頭の中に、何らかの思考の断片が思い浮かぶ
  • (2) その思考の断片を、Evernoteに放り込む
  • (3) Evernote上で文章を書くことで、思考の断片を育てる
  • (4) まとまった文章を書き上げることができそうだと思ったら、Evernote上で文章を書き上げる
    • ひとつのEvernoteノートに、「問い」「結論」「理由」の枠で、文章を整える
    • Evernoteで書き上げた文章を、ふさわしいかたちの成果物に整える
      • ブログエントリは、ブログエディタでHTMLに
      • 報告書や企画書は、Wordでdocファイルに
      • メールはGmailに貼り付けて送信
      • タスクのメモはToodledoのnote欄に
  • (5) 書き上げる過程で進んだ思考を、すぐにその場でEvernoteに放り込む
    • 書き上げる過程で連想して思い浮かんだこと
    • その文章の論理構造にはまらないために、その文章から捨てた思考

このプロセスの構成要素は、頭と完成品の2つに加えて、Evernoteです。頭と完成品の間に、Evernoteが存在しています。頭で完成品のイメージを描いても、すぐに成果物ファイルを作って書くのではなく、Evernote上でほぼ具体化してから、最後に成果物ファイルで完成させる、という流れです。

b.文章を書き上げるプロセスからの収穫

頭と完成品の間に置かれたEvernoteは、文章を書き上げるプロセスで生まれる収穫を受け止める仕組みになります。

ひとつの文章を書き上げる過程でなにか関連するあたらしいことを思いついたら、すぐにEvernoteにメモすることができます。現にいまEvernoteで文章を書いているのですから、私がすることは、あたらしいノートを作ってそこにメモするだけです。

ひとつの文章を書き上げる過程で、面白いアイデアなんだけれどその文章にはうまくはまらないことが出てきたら、その一部を切り取ってEvernoteの別のノートに放り出すことができます。これによって、もとの文章の論理的な構造を整えた上に、あたらしくて面白いアイデアの種を獲得することができます。

ひとつの文章を書き上げるプロセスで生まれる収穫のすべてを、Evernoteによって、簡単に、確実に、受け止めることができます。

つまり、このプロセスでひとつの文章を書き上げたとき、私の手元に残るのは、その完成したひとつの文章だけではなく、その文章を書き上げる過程で得たたくさんのアイデアです。このたくさんのアイデアは、すべてEvernoteに蓄積されます。

このプロセスでは、あるひとつの文章を書き上げることの意義は、そのひとつの文章を完成させるだけではなく、Evernote自体を育てることにもあります。

3.まとめ:Evernoteという「ずっと完成しないで変化し続ける有機体」を、頭と完成品の間に置くことの意義

まとめます。

Evernoteを使う前、私が文章を書き上げるためのプロセスは、頭→完成品でした。このプロセスでは、ひとつの文章を完成品として生み出しても、その過程で生まれたいろんな収穫を受け止める仕組みがありません。そのため、(頭の中に経験なり能力アップというかたちで何かが蓄積されることはあるでしょうが、)ひとつの文章を書き上げることから得られるものは、そのひとつの文章だけでした。

これに対して、Evernoteを使うようになって、私が文章を書き上げるプロセスは、頭→Evernote→完成品となりました。頭と完成品の間に、Evernoteという「ずっと完成しないで変化し続ける有機体」が置かれました。Evernoteは、「ずっと完成しないで変化し続ける有機体」として、それ自体が完成品になることなく、ずっと変化し続けながら、暫定的な完成品を生み出し続けるようになりました。

このプロセスでは、Evernoteは、ひとつの文章を書き上げる過程で生まれるいろんな収穫を受け止める仕組みとして機能します。そのため、私は、あるひとつの文章を書き上げることから、そのひとつの文章を成果物として獲得できることに加えて、Evernoteを育てること、つまり、文章を書き上げる過程で進んだ思考を蓄積できるようになりました。

私は、Evernoteで文章を書くようになって、大げさですが革命的な変化を体験しました。それは、Evernoteで文章を書くことで、Evernoteが「ずっと完成しないで変化し続ける有機体」になったために、ひとつの文章を書き上げることの意味合いが大きく変わったためです。これが、Evernoteで文章を書くようになって約3年、Evernoteが私の知的生産をどのように変えたのか、の本質ではないかと思います。

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