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プル型知的生産を活用する。個人的な知的生産がプッシュ型からプル型に転換した話。

公開日: : 知的生産

1.個人的な知的生産には、プル型がうまく機能する

(1) 個人的な知的生産を続けるため、何が大切か?

私の趣味は、知的生産です。

ここで私が「知的生産」とよんでいるのは、基本的には、『知的生産の技術』が定義する「知的生産」と同じものです。

ここで知的生産とよんでいるのは、人間の知的活動が、なにかあたらしい情報の生産にむけられているような場合である、とかんがえていいであろう。この場合、情報というのは、なんでもい。知恵、思想、かんがえ、報道、叙述、そのほか、十分ひろく解釈しておいていい。つまり、かんたんにいえば、知的生産というのは、頭をはたらかせて、なにかあたらしいことがら—–情報—–を、ひとにわかるかたちで提出することなのだ、くらいにかんがえておけばよいだろう。この場合、「知的生産」という概念は、一方では知的活動以外のものによる生産の概念と対立し、他方では知的な消費という概念に対立するものとなる。

『知的生産の技術』p.9

知的生産とは、知的情報の生産であるといった。既存の、あるいは新規の、さまざまな情報をもとにして、それに、それぞれの人間の知的情報処理能力を作用させて、そこにあたらしい情報をつくりだす作業なのである。それは、単に一定の知識をもとにしたルーティン・ワーク以上のものである。そこには、多少ともつねにあらたなる創造の要素がある。知的生産とは、かんがえることによる生産である。

『知的生産の技術』p.11

要するに、「知的生産」とは、既存あるいは新規のさまざまな情報をもとにして、それに自分自身の知的情報処理能力を作用させて、あたらしい情報をつくりだす作業です。

私にとっての知的生産とは、本を読んでインプットした情報をもとにして、自分自身の知的情報処理能力を作用させて文章を書き、あたらしい情報を文章という形で、主にこのブログに提示する、という作業です。仕事でもなければ、社会的な活動でもない、個人的でささやかな活動にすぎませんが、私にとっては、とても大切な活動です。

私にとって、この個人的な知的生産はすごく大切なので、この知人的な知的生産を続けていくために、何が大切なんだろう、という問いを、よく考えます。

(2) 個人的な知的生産には、プル型がうまく機能する

「個人的な知的生産を続けるため、何が大切か?」という問いに対しては、これまでにもいくつかのことを考えました。

KindleとEvernoteというクラウドサービスからの恩恵を整理しました(Kindleで読み、Evernoteで書くことで、「空間」という制約要素から自由になる(Kindleで『知的生活の方法』を読んで考えたこと))。

『Evernote「超」知的生産術』を読んで学んだ「Evernoteに知的生産のクラウドベースを作る」という考え方を整理しました(Evernoteを中心に、知的生産のためのクラウドベースを作る)。

「ハイブリッド・システム」というコンセプトが大切ではないか、ということも考えました(自分個人のための知的生産システムを改善し続ける。「ハイブリッド」シリーズ(倉下忠憲)から受け取った「ハイブリッド・システム」というコンセプト。)。

最近、「ここによいヒントがありそう」と感じているのは、「プッシュ型/プル型」というものの見方です。とくに、個人的な知的生産には、プル型がうまく機能する、と感じています。

そこで、「プッシュ型/プル型」というものの見方を私なりに整理した上で、私自身の個人的な知的生産が、プッシュ型からプル型に転換した体験談をふり返ります。

2.「プッシュ型/プル型」というものの見方

「プッシュ型/プル型」という概念があります。これはひとつのものの見方なのですが、具体的な方法論としてよく出てくるのは、生産管理と情報配信です。

(1) プッシュ型生産管理・プル型生産管理

プッシュ型生産管理とは、あらかじめ定められた生産スケジュールに従って生産活動を行う管理方式です。これに対して、プル型生産管理とは、後ろの行程から引き取られた量を補充するために生産活動を行う管理方式です。

参考:カイゼンとITの連携でコストダウン徹底! – プル型生産管理システム開発で要件定義ミスはなぜ起きたか:ITpro

プル型生産管理システムの代表例としてよく挙げられるのは、トヨタのカンバン方式です。トヨタが生産するのは自動車ですが、理論的には、お客さんに自動車を売るという上流工程から、自動車の生産、部品の生産、原材料調達という下流工程までがつながっていて、お客さんに自動車を売るというプルによって、原材料調達までがコントロールされる、という仕組みのようです。

プル型生産システムとは、下流工程の作業工程から上流工程の作業工程に対して、作業準備や原材料調達、また作業のタイミングを通知・指示するシステム。トヨタ自動車のかんばん方式がこれに該当する。従来型の生産システムやモノの流れに逆らった指示フローで行われるところに特徴があり、在庫逓減などに効果があるとされる。しかし、高度な生産工程管理システム・購買&在庫管理システムなどがないと、その実現は困難とされている。

プル型生産システムとは ~ exBuzzwords用語解説より)

(2) プッシュ型情報配信・プル型情報配信

情報配信にも、プッシュ型情報配信とプル型情報配信があります。

プッシュ型情報配信とは、たとえばテレビや新聞のように、情報発信者からの情報が、情報を受け取る人のところまで、送り届けられるものです。情報発信者が、情報を受け取る人へと、情報をプッシュします。

これに対して、プル型情報配信は、たとえば必要な情報をGoogleで検索して特定のウェブサイトを読むように、情報を受け取る人が、情報発信者が情報を提供する場所まで、情報を取りに行きます。情報を受け取る人が、情報発信者から、情報をプル、つまり引っ張ります。

Emailの配信システムについても、いちいちメールチェックをする必要がある仕組みはプル型で、届いたメールが自動的に端末へと送り届けられる仕組みをプッシュ型ということがあります。「GmailはiPhoneでもAndroidでもプッシュ型なので便利!」という感じで使います。

3.プッシュ型知的生産とプル型知的生産

(1) 知的生産に、「プッシュ型/プル型」というものの見方を適用する

「プッシュ型/プル型」というものの見方は、知的生産にも適用できます。

前提として、冒頭に挙げた『知的生産の技術』が定義する知的生産を、ややあらっぽくモデル化すると、こうなります。

  • 既存あるいは新規の情報+自分の知的情報処理能力→あたらしい情報を他の個人へ提出

情報をインプットして、インプットした情報に対して自分の知的情報処理能力を作用させて、他の個人に対してあたらしい情報をアウトプットする。これが、個人的な知的生産のモデルです。

私の場合の、趣味としての個人的な知的生産で言えば、

  • 本を読んで情報をインプット+Evernoteで文章を書いて知的情報処理能力を作用→あたらしい情報をブログに文章で投稿する

となります。

(2) プッシュ型知的生産とプル型知的生産

このモデルを前提にすれば、プッシュ型知的生産とプル型知的生産は、次のとおりです。

a.プッシュ型知的生産

プッシュ型知的生産は、インプットからアウトプットの方向へ、プッシュする知的生産です。

情報のインプット→インプットした情報に対する知的情報処理能力の作用→あたらしい情報のアウトプット、という、時系列のフローで、知的生産が進みます。

私の個人的な知的生産でいえば、本を読んで情報をインプットして、インプットした情報をもとにEvernoteの中で文章を書きながらいろいろと考えて、ブログに投稿できる文章が形になったら、その文章をブログに投稿する、というフローです。

読書から情報をインプットするというプッシュによって、ブログへの文章投稿というアウトプットが生み出されます。ところてんやロケット鉛筆のイメージです。

b.プル型知的生産

プル型知的生産は、アウトプットからインプットをプルする知的生産です。

プル型知的生産では、最初に来るのは、あたらしい情報のアウトプットです。あたらしい情報をアウトプットしたこと、あるいはアウトプットしようとすることによって、情報のインプットが引き起こされる、という関係です。

アウトプットからインプットが引き起こされるのは、アウトプットしたことやアウトプットしようとすることで、自分の中の知的ななにかが、何らかの影響を受けるからです。情報への興味関心が湧いてきて情報をインプットしたくなったり、アウトプットしようとする過程で自分の手持ち情報の欠落に気づいて、その欠落を埋めるために情報をインプットしたりします。

私の個人的な知的生産でいえば、まず手持ち情報だけでブログに文章をアウトプットしたりアウトプットしようとしたりして、その文章を書いたり書こうとする過程で、読みたくなったり読む必要性に迫られたりした本を読む、というフローです。

深呼吸をするときに、まず限界まで息をはききると、自然と必要なだけ空気が身体に入ってくる、という関係に似ています。

4.個人的な経験談:プル型知的生産は、機能する

(1) プッシュ型知的生産は、うまく機能しなかった

普通に考えれば、知的生産は、プッシュ型です。

知的生産のモデルからして、まず情報をインプットし、次にインプットした情報に知的情報処理能力を作用させ、これによってあたらしい情報をアウトプットする、という流れです。この流れはプッシュ型を想定しています。

2年半ほど前まで、私は、個人的な知的生産を、プッシュ型で捉えていました。こんな標語があるのかはわかりませんが、「よいアウトプットはよいインプットから」と考えて、せっせと本やブログを読んでいました。

でも、プッシュ型知的生産は、あまりうまく機能しませんでした。たくさんのすばらしい本を読んでも、あたらしい情報をアウトプットすることが進まなかったのです。いくらよいインプットでプッシュしても、よいアウトプットが押し出されることはありませんでした。

(2) ブログによるプル型知的生産への転換

ちょうどその頃、私は、この「単純作業に心を込めて」というブログを始めました。そして、このブログに自分が書いた文章を公開することで、ささやかではあるけれどあたらしい情報をウェブにつけ加える、というアウトプットを始めました。

ブログを始めるとき、私が抱いた不安のひとつは、いくつかのブログ記事を書いたら、自分の中の書きたいことがなくなって、アウトプットが枯渇するんじゃないか、というものでした。でも、そうはなりませんでした。全然なりませんでした。というのも、アウトプットを始めたら、インプットが加速したからです。特に、読書量が増えました。

アウトプットを始めたら、インプットが加速した、という現象。あとから気づいたのですが、これは、プッシュ型知的生産からプル型知的生産への転換でした。

(3) プル型知的生産は機能する

それ以来、私は、自分の個人的な知的生産において、プル型を活用することを心がけています。

あるテーマに関心を持ったとき、私はまず最初に、文章を書き始めます。ブログに公開することを目指して、文章を書き始めます。

その段階で、公開できる程度にまとまりのある文章を書けることもあれば、その段階では、とても公開できないような文章しか書けないこともあります。でも、どっちにしても、ブログ公開前提で文章を書き始めると、この過程で、自分の手持ち情報の欠落に気づいたり、あたらしい事柄への興味が湧いてきたりします。そして、読書や調査などのインプットが加速します。

つまり、ブログに公開することを目指して文章を書き始めることは、強い力で、インプットをプルします。

私の個人的な知的生産において、プル型は、うまく機能しています。

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