納得できる書評エントリを書くために、「どんな書評を書きたいか」を自覚する
目次
1.どんな書評を書きたいのかを自覚したら、納得できる書評を書けるようになった
(1) 書評のための試行錯誤
私は、本が好きです。小説も、技術書も、ビジネス書も、エッセイ集も、ルポルタージュも、インタビュー集も、絵本も、図鑑も、好きです。
私は、書評も好きです。小説の書評も、技術書の書評も、ビジネス書の書評も、好きです。書評が好きな理由は、今まで知らなかった新しい本と出会うことができることと、すでに知っている本に対する他の人の読み方に触れることができることです。
私は書評が好きなので、このブログを始めたときから、書評エントリを書こうとしてきました。しかし、いざ自分で書いてみようとすると、書評を書くのはすごく難しくて、なかなか納得できるものが書けません。自分の力不足に挫けそうになりました。
でも、書評を書くのは、楽しいことでした。また、書評を書こうとする中で、その本への理解が深まるなど、大きな収穫も得られました。ですから、悪戦苦闘しながらも、書評のための試行錯誤を続けてきました。
試行錯誤を続けること約2年、最近、ときどきではありますが、自分なりに納得できる書評を書けるようになってきました。たとえば、『コンビニ店長のオシゴト』の書評である「R-styleの源流が、ここにある気がした。書評『コンビニ店長のオシゴト』」です。これを書いたとき、私は、「あ、書けた。」と感じました。
(2) いちばん大切だったのは、書きたい書評を自覚できたこと
a.コツよりも大切なのは、書きたい書評を自覚すること
2年間の試行錯誤から、私は、書評を書くための自分なりのコツを、いくつか掴むことができました。これらのコツを「読書からの収穫を増やす書評エントリを書くための、5つのコツ」といったブログ記事にまとめることだって、たぶん、できます。
しかし、(たまにではあるにせよ)納得できる書評を書けるようになったことには、これらのコツを掴んだことよりも、ずっと大切で本質的な要因がありました。それは、自分が書きたい書評がどんな書評なのかを、はっきりと自覚できたこと、です。
一口に書評と言っても、そこにはいろいろなタイプがあります。そして、どんなタイプの書評を書くのかによって、書評エントリの書き方は変わります。
そのため、自分がどんなタイプの書評を書きたいのかを自覚することは、書評を書くためのコツよりも大切です。
b.書きたい書評を自覚することの一例
たとえば、書評は、次の4つに分類することができます。
その本を読んでもらうことを目的とする書評 | その本を読まずに済ますことを目的とする書評 | |
促した行動が、その人にプラスの影響を生み出す | 「読んでよかった。」 | ・本を読むよりも、書評を読むほうが、コストパフォーマンスが高い。 かつ ・本そのものが、コストパフォーマンスを超える力を持っていない。 |
促した行動が、その人にマイナスの影響を生み出す | 「読むんじゃなかった。」 | ・書評を読むよりも、本を読むほう、コストパフォーマンスが高い。 または ・本そのものが、コストパフォーマンスを超える力を持っている。その本そのものを読むべき。 |
この4つに書評を分類したとして、これら4つの書評の書き方は、それぞれ異なります。
本を読んでもらうための書評と本を読まずに済ますための書評が、同じ書き方でよいはずがありません。
また、本を読んでもらうための書評の中でも、本を読んでもらえばそれでよくて、とにかくひとりでも多くの人にその本を読んでもらうための書評なのか、どれだけたくさんの人に本を読んでもらうかよりも、本を読んでくれた人にプラスの影響が生み出されたのかの方が大切だと考える書評なのかによって、書き方は変わるはずです。
私が書きたい書評は、「その本を読んでもらうことを目的とする書評」と「促した行動がその人にプラスの影響を生み出す」が交わる、左上の象限の書評です。「書評を読んだ人が、その本を読みたくなって、その本を読んでくれて、しかも、「読んでよかった」と思ってくれる、そんな書評」が、私が書きたい書評です。
書きたい書評がこんな書評だとはっきりと自覚したら、そこから自然と、いくつかの書き方が導かれました。
そこで、次に、項目を変えて、「書評を読んだ人が、その本を読みたくなって、その本を読んでくれて、しかも、「読んでよかった」と思ってくれる、そんな書評」を書きたいと自覚したことが、納得できる書評を書くために、どんなふうに役に立ったのか、自分の経験をふり返って、3つにまとめます。
2.なぜ、書きたい書評を自覚したことが、納得できる書評を書くために、大切だったのか?
(1) 心から読んで欲しい本を、書評の対象に選ぶ
私が書きたい書評は、対象となる本を読んでもらうための書評です。書評を読んだ人が、書評の対象となっている本を読みたくなって、そのうちの何人かが実際にその本を読んでくれる、そんな書評です。
なぜ、読んでもらうための書評を書きたいのかといえば、ほぼトートロジーですが、その本を読んでもらいたいからです。その本を読んでもらいたいと心から思うからこそ、私は、その本を読んでもらうための書評を、一生懸命、書きます。
ということで、ここからひとつめの方針が導かれます。それは、「心から読んでほしい本を、書評の対象に選ぶ」です。
当たり前でしょうか。ある意味、当たり前です。
でも、私自身は、しばしば、これと異なる観点で書評の対象となる本を選びそうになります。たとえば、「この本の書評は書きやすい。」とか、「この本の書評は、ニーズがありそう。」とかです。
そのため、「心から読んでほしい本を、書評の対象に選ぶ」という方針をしっかりと掲げておくことは、書評エントリを書くにあたって、当たり前だけどとても大切なことです。
(2) 「なぜこの本を読むのか?」の視点で、ストーリーを物語る
現在、書評エントリを書くときに私が心がけているのは、「なぜ?」を大切にすることです。
「なぜ?」を大切にすることは、『わかりやすく説明する練習をしよう』から学んだパワフルな考え方です(「なぜ」&「どのように」と「説明の尺度」〜『わかりやすく説明する練習をしよう』(1))。
書評と説明はちょっとちがうところもあります。でも、読んでくださった方々に、書評の対象となっている本に対する関心を持ってもらうのが大切なのは、同じです。そこで、私は、「なぜ、この本を読むべきなのか?」「なぜ、この本に関心を持つべきなのか?」という問いに答えるような書評を書きたいと心かげています。
「なぜ、この本を読むべきなのか?」「なぜ、この本に関心をもつべきなのか?」という問いに答える方法には、論理的に論証するように、理屈で答えるスタイルもあります。私自身、論理と理屈で答えるほうが得意です。
でも、私が書きたい書評は、読みたくなる書評です。このためには、論理と理屈で「なぜ?」を押し切るよりも、ストーリーを物語るほうがいいのかな、と感じています。大切なのは、なぜ読むべきかを説得することではなくて、読みたくなってもらうこと、実際に読んでもらうことなので。
とはいえ、私には、起承転結のあるドラマチックなフィクションを作ることはできません。私にできるのは、私自身とその本との関係を、「なぜ、私はこの本を読んだのか?」という視点で、ストーリーとして物語ることです。
私が書評エントリの対象に選んだ本は、心からこの本を読んでもらいたい、と思った本です。そして、なぜその本を心から読んでもらいたいと思ったかといえば、理由のひとつは、私自身がその本を読んでよかったと、心から思っているからです。そこで、私は、「なぜ、私はこの本を読んだのか?」という視点で、私自身とその本との関係を、ストーリーとして物語ることができます。
たとえば、『いつまでもデブと思いうなよ』について、次の書評エントリを書きました。
わりとやせてる私が、『いつまでもデブと思うなよ』から学んだ、「自分を記録する」という方法論
『いつまでもデブと思うなよ』はダイエット本なので、ダイエットに関心を持っていない人にはあまり読まれていないのではないかと思うのですが、私は、ダイエット本としてではなく、この本を読みました。そして、この本を、ダイエットへの関心のあるなしにかかわらず、多くの人に読んでもらいたいと、心から思いました。
そこで、私は、「ダイエットには関心がない私が、なぜ、『いつまでもデブと思うなよ』を読んだのか?」という視点から、私と『いつまでもデブと思うなよ』との関係を、ストーリーとして物語りました。
さらに、「なぜ、この本を読むのか?」の視点でストーリーを物語ることは、実際に本を読んでくださった方々に、「この本を読んでよかった」と感じていただくためにも、重要です。「なぜ?」を丁寧に書くことで、「この本は、自分にとって、読む価値があるだろうか」を判断する手がかりをたくさん残すことができるからです。
そんなわけで、「書評を読んだ人が、その本を読みたくなって、その本を読んでくれて、しかも、「読んでよかった」と思ってくれる、そんな書評」を書きたいと自覚してから、私は、「なぜ、この本を読むのか?」の視点でストーリーを物語るように書評を書くことを、心がけています。
(3) 書評だけで完結させようとしないことで、余計な力を抜く
「書評を読んだ人が、その本を読みたくなって、その本を読んでくれて、しかも、「読んでよかった」と思ってくれる、そんな書評」を書きたいと自覚したことによる3つめの効果は、書評だけで完結させなくていいんだ、と気づいたことです。
当初、私は、書評エントリだけである程度完結している書評を書かなくてはいけない、と感じていました。
書評エントリを読んでくださる方の多くは、対象となる本を読んだことがありません。また、そのうちの大部分の方は、その後もその本を読まない可能性が高いです。
この条件において、自分が書く書評エントリを少しでも価値のあるものにしたいのなら、対象となる本をまったく知らない人が読んでも理解できて、かつ、その人がその後その本を読まなくても、その書評エントリ自体で多少のプラスの価値が残る、そんな文章が望ましい、と考えていました。
これはすごく難しいことなので、当然、ほとんどの場合は達成できません。でも、自分が自分に課すハードルとしては、こんなものを設定していました。
この高いハードルを設定していたことは、ふり返ってみると、あんまりよくありませんでした。ハードルの高さのために、書評エントリのアウトプットの数も減りました。また、余計な力みがあって、無駄に冗長になったり、ポイントがボケてしまったりしたようにも思います。
でも、自分が書きたい書評を考えていたら、対象となる本をまったく知らない人が読んでも理解できて、かつ、その人がその後その本を読まなくても、その書評エントリ自体で多少のプラスの価値が残る、というのは、必然のハードルではないよな、と気づきました。私が書きたいのは、「その本を読んでもらうための書評」です。「その本を読まずに済ますための書評」ではありません。であれば、その本を読むかどうかの判断材料を提供することが重要な役割であって、その本を読むことによって得られる価値の代替を提供することは必要な役割ではありません。
自分が書く書評エントリだけで完結する必要はない。その本から価値を引き出せる人に、その本を読むかどうかの判断材料を提供すればよい。そう思えたら、書評エントリに設定していた高いハードルがなくなりました。余計な力みがなくなって、わりと気楽に書評エントリを書けるようになりました。
3.まとめ
ブログに書評エントリを書くことは、じぶん史上最強の読書術です。でも、書評エントリを書くことは、なかなか難しい作業です。納得できる書評エントリを書くのは、ぜんぜん簡単ではありません。納得できる書評エントリを書くには、どうしたらよいのでしょうか。
書評エントリを書くには、いくつかの具体的なコツやノウハウがあるのかもしれません。私自身、自分のやってることをふり返れば、5つくらいのコツをひねり出すことができそうです。でも、それよりももっと大切なことがあります。それは、自分が書きたい書評を自覚することです。
自分が書きたい書評を自覚することは、納得できる書評エントリを書くことの役に立ちます。なぜなら、書評はいくつかの種類に分類することができるのですが、どんな種類の書評を書きたいのかによって、その書き方のポイントが変わってくるからです。
私の場合、書きたいのは、「書評を読んだ人が、その本を読みたくなって、その本を読んでくれて、しかも、「読んでよかった」と思ってくれる、そんな書評」です。こんな書評エントリを書きたいと自覚したことで、私は、次の3つの大切なポイントに気づくことができました。
- (1) 心から読んで欲しい本を、書評の対象に選ぶ
- (2) 「なぜこの本を読むのか?」の視点で、ストーリーを物語る
- (3) 書評だけで完結させようとしないことで、余計な力を抜く
どんな書評を書きたいのかを自覚する、というのは、抽象的なことではありますが、自分なりに納得できる書評エントリを書くためには、すごく大切なことです。
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