WorkFlowyについて語るときに僕の語ること
走ることについて正直に書くことは、僕という人間について(ある程度)正直に書くことでもあった。途中からそれに気がついた。だからこの本を、ランニングという行為を軸にした一種の「メモワール」として読んでいただいてもさしつかえないと思う。
ここには「哲学」とまではいかないにせよ、ある種の経験則のようなのもがいくらか含まれていると思う。たいしたものではないかもしれないが、それは少なくとも僕が自分の身体を実際に動かすことによって、オプショナルとしての苦しみを通して、極めて個人的に学んだものである。汎用性はあまりないかもしれない。でも何はともあれ、それが僕という人間なのだ。
『走ることについて語るときに僕の語ること』(村上春樹著・文春文庫・pp.6-7)
2015年1月にWorkFlowyをProアカウントにして、あっという間にWorkFlowyの深い段差にはまりました。ここ1ヶ月少々の私の興味関心は「どうすればWorkFlowyの力をうまく引き出すことができるだろうか」に集中していて、このブログに書くエントリも、WorkFlowy一色です。
WorkFlowyへの偏り方は、かなり極端です。1月6日に書いた「「Evernoteは便利だよ」ではない言葉で、Evernoteの魅力を表現する。」を最後にWorkFlowyと関係のないエントリは姿を消し、ふと気づけば、1ヶ月以上の間、WorkFlowyカテゴリが続いています。
このブログには、Feedlyなどでたくさんの読者の皆様がいらっしゃいます(感謝)。皆様の中で、実際にWorkFlowyを使っている方は、おそらくそれほど多くありません。興味も関心もない方もいらっしゃるかと思います。そんな中で、1ヶ月以上、WorkFlowyばかりを書き続けるのは、あんまりよろしくないことな気もします(ごめんなさい)。
それでも私は、今はWorkFlowyを書きたい、という強い気持ちに突き動かされて、ここ1ヶ月、いくつかのエントリを書き続けてきました。この理由は、WorkFlowyというツールにものすごく大きな可能性を感じたことがいちばんなのですが(EvernoteやToodledo、IFTTTと同レベルのツールだと確信しています)、それと同時に、WorkFlowyについて書くことを通して、WorkFlowyのことではない何か別のことを書くことができている感触を持っていたためです。
ふと気づけば、WorkFlowyカテゴリのエントリだけを書いているうちに1ヶ月以上の時が過ぎちゃったのだが、WorkFlowyのことだけを書いているわけではないつもり。
— 彩郎 (@irodraw) 2015, 2月 8
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さて、冒頭に引用したのは、村上春樹の『走ることについて語るときに僕の語ること』の一節です。
村上春樹は、こう書いています。
走ることについて正直に書くことは、僕という人間について(ある程度)正直に書くことでもあった。
私も同じようなことを感じます。WorkFlowyの使い方や思想について正直に、丁寧に書くことは、私が大切にしていきたい何らかの価値を、(ある程度)正直に、丁寧に書くことでもあるような気がします。
そんな価値とはいったい何なのか、自分でもまだはっきりとは把握できていません。でも、抽象的になら書けます。私が大切にしたい価値は、「普通の個人が、知的生産のある人生を送り続けるということ」です。
知的生産それ自体を仕事にしているわけではなく、家では家事と子育てに追われ、自宅に書斎を確保するのは現実的じゃないから諦めてて、知的生産のために使えるお金もせいぜい月数万円。こんな普通の個人ではあるけれど、知的生産にあこがれている。何かを読み、何かを考え、何かを書き、自分の考えを誰か同じような関心事を持つ方々と語り合うことを、30歳になっても40歳になっても50歳になっても、ずっと続けていきたい。普通の個人が、知的生産のある人生を送り続けること。これが、私が大切にしたい価値なんだろうなと感じています。
WorkFlowyについてのいろいろ、Tipsとか説明とかマニアックな使い方とか思想とかを書くときに、同時に私が書きたかったのは、普通の個人が知的生産のある人生を送り続けるということのあり方や意義です。
村上春樹は、こうも書いています。
ここには「哲学」とまではいかないにせよ、ある種の経験則のようなのもがいくらか含まれていると思う。たいしたものではないかもしれないが、それは少なくとも僕が自分の身体を実際に動かすことによって、オプショナルとしての苦しみを通して、極めて個人的に学んだものである。
WorkFlowyについての私の試行錯誤は、たいしたものではありません。しょせんは、WorkFlowy歴1ヶ月、プロセス型アウトライナー歴2ヶ月の初心者の試行錯誤です。
しかし、少なくとも、私は、WorkFlowyを現在進行形で実際に試し、WorkFlowyによって、日々、ブログエントリや講義レジュメなどの成果物を生み出しています。WorkFlowyについてのブログエントリを書くためにWorkFlowyを使っているのではなく、自分の実際の日常に、自分の身体を使ってWorkFlowyを使い込んだ中で感じていることや考えていることを、少しずつブログエントリのかたちにまとめてきました。
私が自分の身体を実際に動かして、大小様々な感動と大小様々な不自由さを通じて、極めて個人的に学んだものを、私はWorkFlowyについての一連のエントリに書き続けています。
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先日、こんな文章を読みました。
いいなあと思う文章には、それを書いている人のはっきりとした世界観を感じることが多い。成熟した世界観というべきか。それはテーマに関係ない。ガジェットやアプリの紹介記事でもアウトライナーの解説でも、水と水の出会うところを讃えた詩でも老人と少年と大きな海への尊敬の物語でも、そして、利他性進化の論文でも生態系の resilience を論じた本でも、その背景になる世界観が伝わってくる文章に出会ったとき、ここでしか得られない何かが詰まっている、と感じることが多い。
引用元:Resilience (たくましさ) | idea square
これを読んで感じたのは、私がWorkFlowyについて書いた文章によって届けたいと願っていたのは、私なりの世界観なんだろう、ということです。
私は、日々試行錯誤を繰り返し、右往左往しながら生きています。私の世界観は、はっきりした世界観でも成熟した世界観でもありません。
でも、私がWorkFlowyのTipsや機能説明を書くのは、役立つ情報を皆様に届けたい、というだけではなく、WorkFlowy紹介によるボーナスアイテム数をゲットしたい、というわけではなく、WorkFlowyのTipsや機能説明に乗せて、自分の世界観を誰かに届けたいからじゃないかなと感じています。
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WorkFlowyについて語るときに私が語るのが何なのか、私自身、まだはっきりとは自覚できていません。でも、自分の身体を使ってWorkFlowyから何かを生み出しつづけることで学んだ何かに、文章というかたちを与え続けることを通じて、そこに自分の世界観を表現できたらいいなと感じています。
WorkFlowyについて書きたいことは、まだまだたくさん残っている上に、日々新たに湧いてきます。しばらくはWorkFlowyの割合が高くなるかと思いますが、できるかぎりWorkFlowy限定ではない部分に光を当てて書くつもりです。
なお、当然ながら、このエントリはWorkFlowy(とマロ。さんのハサミスクリプト)で書きました。
→WorkFlowyによる「ブログ原稿を育てる畑」から、見出しタグで構造化されたHTMLを収穫するための、知的生産の治具(Mac・AppleScript)
→WorkFlowyの有機体から、暫定的な作品群を切り出す。AppleScript「WF2html_p3.scpt」による魔法を公開します。
WorkFlowyは、こんな段差ゼロエントリを書くのも便利です。
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