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過去と未来に向けて開かれた流動的な構造

公開日: : ブログ, 単純作業に心を込める

千夜一夜の物語

今から2年ほど前の2014年9月30日、この「単純作業に心を込めて」というブログに、全体構造を与えられたらいいなと考えて、次の記事を書きました。

「単純作業に心を込めて」を、『千夜一夜物語』みたいなブログにしたい。

当時の記事数は600ちょっとでしたが、その後、ひとつひとつ書き上げているうちに、ようやくたどり着くことができました。まさにこの記事が、「単純作業に心を込めて」の1001番めです。

枠物語に見た可能性

「『千夜一夜物語』みたいなブログにしたい。」と書いたとき、私が考えていたのは、個々の記事の集合としてのブログ全体に、ひとつの構造を与えることができないだろうか、ということでした。

私は、個々の記事それぞれを、[ひとつの問い・ひとつの結論・結論に至る理由]を備えたものとして書き上げるべく、努めています。だから、個々の記事には、[その記事が抱えるひとつの問いに対して、その記事なりのひとつの結論を、理由とともに明らかにする]という構造があります。ブログ「単純作業に心を込めて」は、そんな構造を持つ個々の記事の集合体です。であれば、ブログそのものは、いったいどんな全体構造を持ちうるのだろうか、と思ったのでした。

考えてみると、これはなかなか難しい問題でした。

まず、ブログ全体のテーマを設定し、次に、個々の記事を全体テーマに合わせて書き上げる、という手順であれば、ブログ全体にある程度明確な構造を与えることもできるかもしれません。しかし、私は、ブログ全体については、ブログ全体のテーマを最初に決めてから個々の記事を書くというトップダウンの方向ではなく、日常生活において直面した個別具体的な問いに対して、そのときの自分なりの試行錯誤で答え、その過程をブログ記事にする、というボトムアップの方向を基本としています。そのため、ボトムアップの方向でありながら、ブログ全体にひとつの全体構造を与えるには、どうしたらよいのだろうか、という問題に直面したのです。

『千夜一夜物語』の「枠物語」という構造は、うまい解決策となりそうなアイデアでした。

いちばん外側に、シャーラザッドがシャーリヤル王に連夜物語を語り聞かせるような、そんな懐の深くて力強い物語を配置する。そうすれば、その内側に、シャーラザッドがシャーリヤル王に話した物語や、物語の中に出てくる登場人物が好き勝手語る物語があっても、全体としての大きな構造は保たれる。これが「枠物語」の基本的なアイデアだと思うのですが、これと同じように、ブログ「単純作業に心を込めて」全体における最上位階層に位置づけられる物語を見つけることができれば、ブログの中にばらばらに存在する個々の記事の集合体を、ひとつの全体構造へと統合できるかもしれません。

「単純作業に心を込めて」を、『千夜一夜物語』みたいなブログにしたい。」を書いたときに考えていたのは、概ね、こんなことでした。

枠物語の構造の限界

ところが、やっと1001にたどり着いた今、改めて考えてみると、『千夜一夜物語』の「枠物語」の構造は、自分がブログに求めているものとは、少し違います。

『千夜一夜物語』の「枠物語」という構造が、多種多様なテーマ群に対して、ひとつの全体構造を与えるための、よいアイデアであることは、今でもそう思います。でも、このアイデアがとてもうまく機能するのは、「本」であって「ブログ」ではないように思うのです。

というのも、本の全体構造は、固定しています。本の全体構造といえば、たとえば、「全体が3部構成で、第1部が総論で第2部が各論で第3部が具体例」とか、「1,2章が導入、3〜5章で5つのポイントを解説し、6章で具体的な事例を検討した後、7章でまとめに変えて10個のポイントを紹介する」とか、そういう感じになりますが、いずれにせよ、1冊の本の全体構造は、固定されていて、変化しません。

これに対して、ブログの全体構造は、(仮にそのブログに何らかの全体構造を認識することができるとしても、)固定されていません。たとえ、現時点では、WorkFlowyに関する基礎知識・活用事例・土台となる思想の3本柱を解説するブログだとしても、1年後には知的生産一般を考察するブログであり、WorkFlowyに関する情報はその一部を構成しているかもしれません。また、2年前にはEvernoteとアウトライナーの比較論を考えるブログだったかもしれません。

ブログの全体構造の変化は、新しい記事が追加されることでもたらされます。新しい記事がひとつ追加されれば、その新しい記事の分だけ、全体構造が変化します。また、新しいひとつの記事が追加されることによって、ブログ全体に新しい文脈が加わり、それによって、過去に書いた記事の意味が変わる、という全体構造の変化もあります。ブログの全体構造は、そのブログに新しい記事が追加されている限り、いつまでたっても固定せず、ずっと変化し続けます。

ところが、「枠物語」という構造は、変化を前提とせず、固定されています。最上位階層は、「シャーラザッドがシャーリヤル王の心を掴み、シャーリヤル王が改心し、ふたりは幸せに暮らし、王国には平和が訪れました。めでたしめでたし。」という固定した形で閉じているわけです。だから、「枠物語」の構造は、固定された全体構造を持つ本ではうまく機能しても、新しい記事が追加されることで全体の構造が変化するブログでは、必ずしもうまく機能しません。

そんなわけで、『千夜一夜物語』のような「枠物語」の構造は、私が求めている構造とは、ちょっと違うのではないかと思うに至りました。

過去と未来に開かれた、流動的な構造

それと同時に、自分がブログに求めている構造が、少し見えました。

私がブログに求めているのは、新しい記事を追加することで、ブログの全体構造を変化させ続けることです。

この全体構造の変化には、新しい記事を追加することで、その新しい記事の分だけブログ全体を変化させるという、いわば未来に向けた変化と、新しい記事を追加することで、ブログの中に新たな文脈が生まれて、過去に書いた記事が新しい意味を持つようになるという、いわば過去に向けた変化があります。

ブログの全体構造は、過去と未来に向けて開かれた流動的な構造です。

ブログに新しい記事を追加し続ける。それによって、未来に向けて新しいことを考えたり、新しいことを試したりする。同時に、過去に考えたことや経験したことを、新しい文脈で捉え直し、過去の出来事に新しい意味を見い出す。

これが、これまでに自分がこのブログでやってきたことであり、今後も続けていきたいことです。

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