仕事文書の作り方:目的を意識し、目的に合った形式と内容で作成する
1.はじめに
私は、仕事において、多くの文書を作ります。その経験から学んだのは、仕事文書を作るためには、文章力よりも大切なものがある、ということです。私が経験から学んだ大切なことは、突き詰めれば、以下の2点に尽きます。
- 文書の目的を明確にする
- 目的に合った形式・内容で文書を作成する
以下、私が仕事文書を作る際に気をつけていることを記載します。
2.文書の目的を明確にする
(1) 仕事文書の目的とは
まず大切なのは、文書の目的を明確にすることです。
文書の目的とは、何でしょうか。文書の目的とは、その文書が果たすべき役割、その文書に求められる機能です。
仕事文書には、必ず、目的があります。仕事文書は、文書それ自体に何かの価値があるわけではありません。より大きな何かの中で何らかの役割や機能を果たすことが、仕事文書の存在意義です。(この点で、仕事文書は、小説や詩、エッセイとは異なります。)
(2) 仕事文書の目的を明確にするとはどういうことか
では、仕事文書の目的を明確にするとは、どういうことでしょうか。その文書が果たすべき役割や機能を、上位の目的やプロジェクトとの関係で明確にする、ということです。
仕事文書には必ず目的がありますが、その目的は、必ずしも明確ではありません。ですから、仕事文書を作成する前に、その文書がどんな上位の目的やプロジェクトの中で、どのような役割や機能を果たすものなのかを明確にする必要があります。
たとえば、平社員が上司に対して提出する報告書を考えます。報告書の目的は、報告書に記載された情報を伝達することに決まっている、とも思われますが、そんなことはありません。情報を伝達するための報告書の場合もありますが、報告書の内容を上司は十分理解しており、書類上記録に残すための報告書の場合もあります。また、社内ルールが、何かをするために上司に対する報告書を提出する必要がある、というものになっている場合は、そのルールの条件を満たすために報告書を提出することになります。
このように、報告書ひとつとっても、
- 情報を伝達するための報告書
- 記録に残すための報告書
- ルールの条件を満たすために提出する報告書
というように、複数の目的が考えられます。
そこで、どの目的で報告書を作成するのかを明確にする必要があります。
(3) どんな目的があるか(4つの典型例)
一般的に、仕事文書の目的には、どのようなものがあるでしょうか。
典型例として、私が意識しているのは、次の4分類です。
- 読み手に何らかの行動を起こさせることを目的とする文書
- 読み手に情報を伝えることを目的とする文書
- 記録に残すことを目的とする文書
- 手続上、要求されていて、存在することに意義がある文書
a.読み手に何らかの行動を起こさせることを目的とする文書
その文書の読み手に、何らかの具体的な行動を起こさせることを目的とする文書です。商品をプレゼンテーションする文書や、広く応募を求める募集要項、イベントの広報文書などです。企画書も、これに当たるかもしれません。
b.読み手に情報を伝えることを目的とする文書
読み手に情報を伝えることを目的とする文書です。報告書の多くは、情報を伝えるためのものです。勉強会のレジュメやレポート、社内報なども、情報を伝えることを目的とする文書のひとつです。
c.記録に残すことを目的とする文書
記録に残すことを目的とする文書です。将来、何かあったときに、この文書を参照することが想定されています。
d.手続上、要求されていて、存在することに意義がある文書
社内ルールや法令によって要求されている手続的な文書です。有給休暇の申請書や施設利用の届出書などがこれに当たります。
(4) 仕事文書の目的を明確にする意味
仕事文書の目的を明確にする意味は何でしょうか。文書を作成する際に、どこに力点を置くかを判断するためです。
仕事文書を作成するために力を注ぐポイントは、いくつかあります。形式、内容、納期など。目的が違えば、文書の力点が違ってきます。目的に沿わない部分に力を入れても、あまり意味がありません。
この仕事文書はどこに力を入れるべきかを判断するために、文書の目的を明確にすることが、まず大切です。
3.目的に合った形式にする
一般的に、仕事文書は、形式が大切です。そして、仕事文書の形式面は、その仕事文書の目的によって決まってきます。
(1) 仕事文書の形式における基本的な要素
仕事文書には、共通する基本的な要素があります。代表的なものとして、以下のものがあります。
a.作成者
その文書の作成者を明示する必要があります。誰が作成した文書かが明らかではない文書は、いわば怪文書と同じであり、仕事文書としての役割を果たすことができません。
b.あて先
仕事文書には、基本的には、あて先があります。社内文書であっても、社内の誰あるいはどこに対しての文書なのかを明示する必要があります。
c.タイトル
仕事文書は、タイトルを持っています。
タイトルは、その仕事文書がどのような目的を果たす文書なのかを示すものが望ましいです。
d.作成日時
仕事文書には、その文書が作成された作成日時を付す必要があります。一般的に、仕事文書は、いつ作成された文書なのかが、重要です。
e.案件を特定する要素
仕事文書は、特定の目的やプロジェクトのために作られます。仕事文書は、通常、その仕事文書が属する案件を持っています。したがって、仕事文書には、その仕事文書が属する案件を特定する要素を記載することが望ましいです。
f.書式・レイアウト
仕事文書の多くは、紙ベースで作成されます。紙で印刷される文書は、書式とレイアウトを決める必要があります。
フォント、文字サイズ、用紙サイズ、余白、行数と文字数などの基本的な書式から、段組や囲みや文字飾り、イラストや色合いなど、本格的なレイアウトまで、いろいろあります。
(2) 文書の目的と形式面との関係
これらの文書の形式面をどのように書くかは、文書の目的によって、自ずと明らかになります。たとえば、以下のとおりです。
a.作成者
仕事文書の目的によって、作成者として誰を記載するべきかが決まります。
たとえば、平社員が上司に提出する報告書であれば、文書を作成する平社員自身の名前を記載するべきです。他方、会社が取引先に対して通知する文書であれば、作成者がいち平社員であっても、責任者、場合によっては会社代表者の名前を記載する必要があります。あるいは、消費者向けのチラシのような文書であれば、個人名は必要なく、組織名だけあれば足りる場合もあります。
b.あて先
あて先も同じです。社内文書か社外文書かによっても異なりますし、伝達のための文書なのかルールの条件を満たすための文書なのかによっても異なります。
たとえば、ルールの条件を満たすために提出する必要がある文書であれば、ルールに従った提出先にする必要があります。お役所に提出する文書の中には、「○○事務所」宛なのか「○○事務所長」宛なのかが法令上定められている文書もあります。この場合は、おとなしく、ルールに従ったあて先にします。
c.タイトル
文書の目的によって、どのようなタイトルを付けるべきかが決まります。
プレゼンテーションを目的とする文書に、「新製品のご案内」というタイトルを付けるのは、あまり賢くありません。また、社内ルールで提出が義務づけられている報告書を作成するときに、「防犯カメラに男性の影あり! 侵入か?」などというキャッチーなタイトルを付ける必要はありません。
d.作成日時
作成日時にしても、目的によって決まります。
年月日を記載するのが一般的だと思いますが、文書の目的によっては、時刻までが意味を持つ場合もあります。また、年の表示を西暦にするか元号を使うかや、曜日を入れるかなども、目的によって変わってきます。
どのような目的の文書かによって、どのような形式でどこまでの作成日時を記載するのかが、決まります。
e.案件を特定する要素
案件を特定する要素を記載するか否か、記載するとして、どのような形式で記載するかを決めるのも、文書の目的です。
f.書式・レイアウト
書式・レイアウトは、文書の目的によって大きく影響を受けます。
読み手に行動を起こさせることを目的とする文書であれば、レイアウトにも注意を払い、読み手を引きつける必要があります。
これに対して、手続上要求されている文書の場合は、条件に合う文書が存在すればそれでよいのですから、見やすいレイアウトを気にする必要は、それほどありません。それよりも、手続上要求されている書式に合致していることが、何よりも大切です。
4.目的に合った内容にする
文書の内容も、目的に合ったものにする必要があります。上に挙げた大ざっぱな4つの典型例ごとに、考えてみます。
(1) 読み手に何らかの行動を起こさせることを目的とする文書
この類型の文書を作成するときは、読み手に何をしてもらいたいのかを明確にすることが大切です。企画を承認してもらいたいのか、製品を購入してもらいたいのか、イベント会場に足を運んでもらいたいのか、目的とする行動を明確にします。
そして、こちらが望んでいる行動を、素直に表現するのが王道です。イベント会場に足を運んでもらいたいなら、「○月○日、△△に来て下さい。」と書くのがよいと思います。
こちらが望んでいる行動が、文書の結論部分なので、あとは、それを支える理由を記載します。イベント会場に足を運ぶとこんないいことがある、イベント会場に足を運ばないとこんなデメリットがある、ということを書きます。
(2) 読み手に情報を伝えることを目的とする文書
この類型の文書を作成するときは、まず、読み手に伝える情報の内容を明確にすることが大切です。次に、その情報を正確にかつわかりやすく伝えることに力を注ぎます。
正確さとわかりやすさはときに相反しますが、情報を伝えることを目的とする文書においては、二兎を追うことが要求されます。
(3) 記録に残すことを目的とする文書
この類型の文書は、何かあったときに後から参照することを想定しています。このときに大切なのは、内容の正確性・具体性と、裏付け資料です。
内容の正確性・具体性については、いつ、どこで、だれが、何を、なぜ、どのように、という5W1Hをもれなく盛り込むことを意識します。
裏付け資料については、関連する裏付け資料を別添で付けておくことが大切です。
(4) 手続上、要求されていて、存在することに意義がある文書
この類型の文書は、条件を満たした文書が存在していることに意義があります。
ですから、まず、その文書が満たすべき条件を確認します。
次に、その条件を淡々と満たします。
それ以外の工夫は、基本的には、不要です。
5.おわりに
仕事文書は、より上位の目的やプロジェクトとの関係で、何らかの役割や機能を持っています。仕事文書の目的を意識すれば、仕事文書が満たすべき条件がわかります。
仕事文書は小説やエッセイではありません。文才は必要ありません。文章力だって、それほど必要ではありません。
文書の目的を意識して、目的に合致した形式と内容で作成すれば、それほど苦労せずに、合格レベルの仕事文書を淡々と生み出すことができるのではないかと思います。
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