Evernote×大学の講義(2) 講師という立場で、Evernoteをどう使っているか
公開日:
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最終更新日:2014/01/22
Evernote
1.担当講義を作るため、Evernoteを活用する
(1) Evernoteは、大学の講義のために役に立つ
Evernoteはいろんな用途に使えるサービスです。その中でも、私が大学生に強くおすすめしたいのは、Evernoteで講義ノートをとる、ということです。
Evernote×大学の講義。講師の立場から考える「Evernoteで講義ノートをとる方法」
ここに書いたとおり、Evernoteは、大学の講義ノートを集約するための十分な機能を備えています。そして何より、Evernoteでとった講義ノートは、ずっとEvernoteの中に存在し続けます。今後の人生の中で、ひょんな機会に、「関連するノート」や検索機能によって顔を出すかもしれません。このことは、ものすごい可能性を秘めていることなんじゃないかなと思います。
(2) 講師の立場でも、Evernoteを便利に使っている
ところで、私は、講師という立場で、大学の講義を担当させてもらっています。学生と講師は、講義を受ける立場と講義を自分で作る立場とという違いはあるものの、講義に関わる点では共通です。講師という立場で講義を作る上でも、Evernoteは便利なサービスです。
以下、Evernoteを講義に活用する私の方法をまとめます。
2.講師のEvernote活用法
(1) 講義の準備にEvernoteを活用する
a.講義全体を設計する
(a) 講義全体の設計
大学の講義というのは、複数のコマが集まって、ひとつの講義を構成しています。半期週1回の講義なら講義全体で15コマ、半期週2回の講義なら講義全体で30コマというのが、わりと一般的ではないかと思います。
講義を担当する講師は、この15コマないし30コマという講義全体を設計します。
講義全体を設計するための決まった手順はないのですが、私は、おおむね、以下のような順序で講義全体の設計をしています。
- 講義の基本情報を確認する(対象学年、単位数、何を扱うか、など)
- 講義全体の到達目標を明確にする(この講義を受講することで、何が得られるのかを明らかにする)
- 講義全体の到達目標を達成するために、どんな手段を用いるかをリストアップする(情報を伝達する講義か、問題演習か、受講生に報告させるゼミ形式か。あるいは、小テストやレポートや試験など。)
- 講義全体のコマ数を念頭に置いて、どんな順序で何をするのかを組み立てる
- 各回の講義の内容を具体的にする
- シラバスを書く
(b) Evernoteをどう使うか
この設計作業に、特定の道具は必要ありません。何を使ってでもできます。Evernoteでもできますが、Evernoteである必要はありません。
そのため、私はEvernoteを使って設計作業をしているのですが、特に変わった使い方をしているわけではありません。
講義全体を設計するためのノートブックを作って、その中に、
- 到達目標を考えるノート
- 講義で用いる手段をリストアップするノート
- 講義全体を組み立てるノート
などを作り、それぞれのノートを作るだけです。
これらのノートをきちんと作ることができれば、シラバスを作るのは楽々です。
b.各回の講義ノートを作る
(a) 各回の講義ノート
講義全体の設計とは別に、各回の講義内容の準備も必要です。
各回の講義内容を準備するためにも、
- この回の講義の到達目標は何か
- どんな流れで何をするか
- どんな手段を用いるか(資料、ケース、質問事項など)
などを準備する必要があります。
(b) Evernoteをどう使うか
私は、1回の講義について1つのノートを作っています。
そこに、
- 到達目標
- 大まかな流れ
- 資料、ケース、ポイントの質問事項
などをメモしています。
実際に話す内容を記載した台本については、今はポイントだけメモしてあとはその場の流れで話しているので、作っていませんが、以前はわりと詳しいものを作っていました。その場合は、ひとつのノートに台本を入れ込むとノートがだらだらしてしまうため、ノートリンク機能を使うとよいのではないかと思います。
(2) 講義の自己評価にEvernoteを活用する
a.講義全体の自己評価
(a) 講義全体の自己評価
講義全体が終わったら、自己評価をすることが大切です。自己評価の観点はいくつかあります。
第一に、到達目標を達成できたのか、ということです。設計段階で立てた到達目標をどれくらい達成できたのかを点検します。
このときに参考になるのは、授業評価のアンケートと、レポートや試験です。
最近の大学は、授業評価アンケートというものをやっています。自由記載欄に書かれた感想や改善提案は、耳の痛いことも多いのですが、受講生からの、大変重要なフィードバックです。
単位認定のために課したレポートや試験も、ある意味、受講生がこの講義をどう評価したか、受講生がこの講義の到達目標をどの程度達成できたか、を明らかにするものです。
第二に、想定外のことです。実際に講義を担当してみると、講義を設計した段階では思いもしなかったいろんなことが、たくさん発生します。
資料の誤字脱字はもちろん、1コマで終わると想定していた内容が2,3コマ必要だったり、基本問題として作成したケースが受講生を混乱させてしまったり……。
このような想定外のことをきちんと整理して評価しておくことが大切です。
(b) Evernoteをどう使うか
自己評価のためにEvernoteがどのように役立つかと言えば、資料を集約しておく、という点が大きいのではないかと思います。
受講生からの授業評価アンケートやレポート、試験答案などは、全部Evernoteに入れておくとよいです。
(なお、この点について、受講生のレポートや評価をウェブベースのシステムに保存することに対して難色を示す機関もある、とのご指摘をいただきました。たしかに、特に受講生の評価や成績は受講生の個人情報なので、ウェブベースのシステムに保存することが問題ないか、所属機関等に確認をした方がよいですね。
また、同時に、この対策として、Evernoteのローカルノートブック(非同期のノートブック)が使えるという指摘もいただきました。
Evernoteに保存してもよい情報の範囲はどこまでなのか、また、この対策としてのローカルノートブックの活用については、考えるべきテーマだなあと感じました。この機会に、少しずつ深めてみます。
ご指摘、ありがとうございます。【2014/01/22 追記】)
講義全体が終わった後の打ち上げ飲み会で受講生が話していた内容なども、可能なかぎりメモしておくと、次年度以降の参考になります。
あとは、
- 到達目標の設定は適切だったか
- 到達目標をどの程度達成できたか
- 到達目標を達成するための手段は適切だったか
- うまく機能しなかった手段は何か
- どのような想定外の事態が生じたか
などをEvernoteにどんどん記録しておくと、次年度以降の参考になります。
b.各回の講義記録ノートを作る
講義全体の自己評価とは別に、1回1回の講義が終わるごとに、各回の講義記録を作っておくとよいです。私は、1回の講義ごとに1つのノートを作って、講義記録を作っています。講義を終えた直後の記憶が新鮮なうちに、講義について気づいたことを記録する、という作業です。
私がこの講義記録を作成するために使用する時間は、せいぜい30分くらいです。講義が終わった後、昼ご飯を食べながら、パパッと、次のようなことをメモしています。
- どこからどこまで進んだか
- 受講生の理解はどんな雰囲気か
- うまく進んだところはどこか&その理由
- いまいちうまく進まなかったところはどこか&その理由
- 想定外の事態は生じたか
- 資料やケースを修正すべきことはあるか
- 次回の講義で補足した方がよいところは何か
(3) 講義の改善にEvernoteを活用する
事前準備や事後の評価・記録以外に、講義を改善するためにも、Evernoteを使っています。
a.そのうちやりたいことをEvernoteに放り込む
講義を準備したり講義の記録をつけたりしていると、こんなことをしたいなというアイデアが、けっこうたくさん湧いてきます。
これらのアイデアの多くは、あんまり現実的ではありませんし、少なくとも、その年の講義ですぐに採用できるものではありません。
でも、何らかのアイデアを思いついたら、そのアイデアがいくら非現実的でも、とりあえず捕まえておくことにしています。いつか状況が変わって実現可能になるかもしれませんし、そこから何かが生まれるかもしれません。
アイデアをとりあえず捕まえておくことは、Evernoteの得意分野です。講義に関するアイデアを捕まえておくためのノートブックをひとつ作って、思いついたアイデアは、全部そこに放り込んでおきます。
b.次年度のためのプチ改善作業を、常時、Evernoteで行う
講義をしていると、非現実的で革命的なアイデアを思いつくのと同じくらい、現実的でちょっとした改善策に気づきます。資料の誤字を見つけたり、ある概念を受講生に伝えるための説明方法の改善策に気づいたり、といったことです。
こんな現実的なプチ改善作業は、気づいたときに、すぐに、Evernoteで行うとよいのではないかと思います。
今年度用のいろいろは今年度用のノートブックに集約されていますが、それと同時に、次年度用のノートブックを作ってしまい、改善を見つけたら、その都度、次年度用のノートブックに新しいノートを作り、形にしてしまいます。
資料の誤字も、次年度用のノートブックに保存したノートにWordファイルを添付してそのWordファイルを修正する、などすれば、常時、Evernoteで次年度のためのプチ改善作業を実施することができます。
(4) 講義実施におけるEvernote活用(PDCAサイクルの欠落部分)
この項(2.講師のEvernote活用法)の(1)(2)(3)は、PDCAサイクルを意識して分類してみたものです。
PDCAサイクルとは、
- Plan(計画)
- Do(実施)
- Check(評価)
- Action(改善)
のことです。
(1)が計画、(2)が評価、(3)が改善です。
PDCAサイクル中、欠落しているのが、実施です。自分でふり返ってみたのですが、現時点では、私は、講義自体にEvernoteを使っていません。
現状、講義にEvernoteを使っていないのは、今の講義スタイルがアナログだからです。スクリーンにスライドを映して講義したり、映像を使ったり、ウェブシステムで小テストをしたり、ということは、ぜんぜんやっていません。
今後、講義自体をデジタル化していくなら、講義実施にもEvernoteを使えたらいいなと思います。
3.今後の展望
私が大学の講義を作るにあたってどのようにEvernoteを活用しているかは、ここまで書いたとおりです。
最後に、今後の展望として、3つのことをメモします。次年度以降の課題です。
(1) 講義の実施にEvernoteを活用する
まず、PDCAサイクルのD、実施にEvernoteを活用する、ということです。講義スタイルをデジタルにするなら、さしあたり、
- Evernoteのノートをスライドのようにして講義をする(プレゼンテーションモード)
- Evernoteのノートブック共有で講義資料を配付する
という2つから始めたいです。
(2) 講義の成果を整理してウェブで発信する
次に、これはもう少し長いスパンの展望ですが、講義の成果を整理してウェブで発信する、ということをしてみようと思います。
Evernoteで講義設計や準備をして、Evernoteで講義の記録をしていけば、ウェブで発信する内容は、自然とEvernoteに蓄積されます。ある程度の蓄積がEvernoteにできれば、それを整理してウェブで発信する、ということにもつなげやすいかなと思います。
(3) 受講生と講義ノートを共有する
それから、これはまあ私の趣味的なことですが、受講生+講師の間で講義ノートを共有する、ということを試してみたいです。
ただ、これをするためにはEvernote Businessを受講生にも利用してもらう必要があります。今のところは、料金面でハードルが高いかなあ、という印象です。
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