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好きが増えるにつれて増えるのはなんだろうってお話

公開日: : 徒然

1.好きが増えるにつれて、嫌いも増えるのか?

この記事を読みました。

好き嫌いの少ない自分が嫌いではないってお話 – ウラガミ

面白かったです。触発されて、考えたくなりました。

まず、この文章の論理の骨組みを私なりに追ってみると、こんな感じになります。

  • (1) 好きになるってことは他のものを嫌いになることとすごく近い
  • (2) だから、「好き嫌いがない」と「好きなものはすごく好きだけど、嫌いなものが多い」の2点間のどっかを選ぶことになる
  • (3) 自分は、嫌いなものが増えるのが嫌
  • (4) だから、これからも好き嫌い少なく生きていこうと思います

(1)から(2)が導かれ、(2)と(3)が合わさって、結論としての(4)を導いています。

『論理トレーニング』の用語を使うと、(1)から(4)の流れには論証の連鎖があって、(2)と(3)は結合論証になっています。

図示すると、こんな論証図になります(参考:『論理トレーニング』のエッセンス 論証・論証図・結合論証と合流論証 → 論証の構造を捉える)。

ronsho

この論証の構造を前提として、私が考えてみたいのは、(1)です。「好きになるってことは他のものを嫌いになることとすごく近い」。

問いの形に変換すると、「好きが増えるにつれて、嫌いも増えるのか?」となります。

さて、好きが増えるにつれて、嫌いも増えるのでしょうか?

2.自分の場合は、好きが増えるにつれて増えたのは、無関心

(1) 好きと嫌いと無関心の関係

好きとか嫌いとかは、あんまり理屈で考えられないところがあるうえに、自分が使っている「好き」「嫌い」という言葉の意味が、自分以外の誰かが使っている「好き」「嫌い」という言葉の意味と一致しているかどうかすら、確かめようがありません。

なので、あくまでも自分の場合しか考えられないのですが、そうだとすると、「好きが増えるにつれて、嫌いも増えるのか?」に対する答えは、「いいえ。」です。私の場合は、「好き」が増えるにつれて増えたのは、「嫌い」ではありませんでした。

村上春樹の『ダンス・ダンス・ダンス』に、「好きでも嫌いでもなくて、興味が持てない」みたいな話が出てきます。主人公の僕とユキとの会話です。中学校の英語の教科書のシナリオのような感じで書くと、こんな感じになります。

ユキ「あなたはチョコレートが好きですか?」

僕「好きでも嫌いでもありません。チョコレートには興味がありません。」

ユキ「チョコレートのことが好きでも嫌いでもなく、興味がないなんて、あなたは変な人ですね。」

僕「私は変ではありません。では、尋ねますが、あなたは、ダライ・ラマは好きですか?」

ユキ「ダライ・ラマとは何ですか?」

僕「チベットの偉い僧侶です。」

ユキ「知りません。好きでも嫌いでもありません。」

僕「では、パナマ運河は好きですか?」

ユキ「私は、パナマ運河は、好きでも嫌いでもありません。」

僕「では、あなたは、日付変更線は好きですか?」

ユキ「私は、日付変更線は、好きでも嫌いでもありません。」

僕「では、あなたは、……。」

ユキ「もうやめてください。わかりました。あなたは、チョコレートのことが、好きでも嫌いでもなく、興味がないのですね。」

僕「はい。」

「僕」が挙げた例は、ほかにももっとあります。円周率とかジュラ紀とか。

私は、この会話が大好きです。なんとなくユーモラスで、笑いました。その上、本質を捉えているような気がします。

また、「好きの反対は嫌いではない。無関心である。」という言葉を聞いたこともあります(けっこうよく聞きます)。これも、この『ダンス・ダンス・ダンス』の会話と同じことを言っています。

自分のことをふり返っても、「好きでも嫌いでもなく、興味がない」という状態は多いです。

そんなわけで、私は、好き・嫌い・無関心の関係を、このように把握しています。

sukikirai

(2) 好きが増えると、無関心が増える

では、これを踏まえて、「好きが増えるにつれて、嫌いも増えるのか?」という問いに戻ります。私の場合は、好きが増えるにつれて増えたのは、無関心でした。とても好きな何かが出てくると、その分、何かから興味が失われました。

村上春樹が大好きになって毎日のように読むようになったのは大学生の頃です。それまでは、ドラクエがかなり好きで、新作や新バージョンが発売されたらすぐにはまっていたのですが、いくつかスルーしました。それまでは、毎週少年ジャンプが発売される月曜日を楽しみにしていたのですが、めぼしいものだけ単行本で読めばいいや的になりました。

なぜ、好きが増えたときに、嫌いではなく、無関心が増えるのか。これは、自分に与えられた時間やエネルギーが有限だからです。

無限の時間が与えられていて、尽きることのないエネルギー源を確保しているなら、好きなことをどんどん増やしていくこともできるのかもしれません。でも、現実はそうではありません。時間もエネルギーも、無限ではありません。

となると、何か新しいことを好きになって、その好きなことに時間とエネルギーを注ぎ込めば、その分、それまで好きだった何かに費やせる時間とエネルギーは減ります。そして、私の場合は、対象に注ぐ時間とエネルギーが減ると、それに伴って、その対象に対する好き度も減るような気がします。

これに対して、何かを嫌うにも、それなりの時間とエネルギーが必要です。何かを好きになることによって費やすことになった時間とエネルギーをカバーするためには、別の何かを嫌いになることは解決にはならず、無関心を増やすことが必要です。

なので、私の場合、好きが増えるにつれて増えたのは、嫌いじゃなくて、無関心でした。

3.好き無関心が激しい自分は、そんなに嫌いではない

さて、「好き嫌いの少ない自分が嫌いではないってお話」に戻ると、この論理構造は、こんな感じです。

  • (1) 好きになるってことは他のものを嫌いになることとすごく近い
  • (2) だから、「好き嫌いがない」と「好きなものはすごく好きだけど、嫌いなものが多い」の2点間のどっかを選ぶことになる
  • (3) 自分は、嫌いなものが増えるのが嫌
  • (4) だから、これからも好き嫌い少なく生きていこうと思います

このうち、(1)については、私の場合は、むしろ「好きが増えるにつれて、無関心が増える」だ、というのが、「2」で書いたことです。

でも、「好き嫌いの少ない自分が嫌いではないってお話」の論理構造自体は、ほんとそうだなあって思います。また、ここから、「だから、これからも○○な感じで生きていこうと思います」というところに結びつけて考えるのも、すごく面白いです。

そこで、私も、同じ論理構造で、考えを進めてみます。

(1)のこと

これはすでに考えました。

私の場合は、「好きが増えるにつれて、無関心が増える」です。

(2)のこと

次。(1)から導かれるのは、好きが増えるにつれて、無関心が増えるので、トレードオフが発生する、ということです。

どんなトレードオフかと言えば、一方に「好きなことはすごく好きだけれど、無関心なことも多い」というのがあって、他方に「無関心な領域は少ないけれど、関心を持っているそれぞれの領域に対する好き度はそれほど激しくない」というのがある、というトレードオフです。

そこで、(2)は、私の場合、「だから、「たくさんの対象に広く関心を抱いている」と「好きなものはすごく好きだけど、無関心なものが多い」の2点間のどっかを選ぶことになる」です。

(3)のこと

次に考えるのは、自分として、どっちがいいか、です。

私は、好きなものをすごく好きになる方が好きです。

世の中にはいろんなことがあります。関心を持つとそこから価値が生み出せるものは、いろいろとあります。でも、そのすべてに関心を持とうとすると、好きなものに対する好き度が、限られちゃいます。トレードオフです。

このどっちがいいかといえば、私の好みは、「好きなことはすごく好きだけど、無関心なものが多い」の方が好きです。

なので、(3)は、「自分は、好きなものはすごく好きが多い方がいい」になります。

(4)のこと

そして、結論です。これからの生き方の話。

(2)と(3)の結合論証から導かれる結論は、「だから、これからも好き無関心激しく生きていこうと思います」です。

以上の論証の構造は、「好き嫌いの少ない自分が嫌いではないってお話」と同じです。

 

ronsho

 

同じような構造で考えているのですが、検討の出発点である(1)がちがうことと、性格や思考や環境のちがいによって(3)がちがうことで、(4)として、ちょっとちがった結論が出てきました。

論証の構造については、「『論理トレーニング』のエッセンス 論証・論証図・結合論証と合流論証 → 論証の構造を捉える」や『論理トレーニング』をご覧ください。物事を考えたり文章を書いたりするために、この論証の構造と論証図は、たいへん便利です。

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