クラウドに上げない方がよい情報の範囲と、Evernoteのローカルノートブックの可能性
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Evernote
1.どの資格で預かったかによって、クラウドに上げない方がよい情報を線引きする
(1) 問題の背景
先日、大学講師として、Evernoteをこんな風に使ってます、ということを書きました。
Evernote×大学の講義(2) 講師という立場で、Evernoteをどう使っているか
この中で、自分の講義を自己評価するための材料として、受講生が書いたレポートを、Evernoteに蓄積してます、ということを書きました。受講生が書いたレポートは、自分の講義が受講生に届いたか、を判断するための大切な資料なので、Evernoteに蓄積する価値があります、ということです。
これに対して、るうさん(@ruu_embo)から、Twitter上で、こんなご指摘をいただきました。
@irodraw (続き)最新のEvernote×講義ですが、残念ながら学生のレポートや成績をWebベースのシステムにあげるのに難色を示す施設もあると思うので、例えばローカル設定でもEvernoteというシステムは知的整理ツールとして充分有用だという話を補足していただければ嬉しい
— るう@寄せ鍋 (@ruu_embo) 2014, 1月 21
確かにそうだなと、ハッとさせられました。
受講生の成績は個人情報っぽいのでEvernoteに入れることはしていなかったのですが、受講生が書いたレポート自体も、受講生の情報です。
Evernoteを育てることに熱中するあまり、クラウドに上げない方がよい情報を線引きする感覚が、ちょっと甘くなっていたかもしれません。
(2) 自分なりの指針
a.「私個人でない資格で預かった情報は、クラウドに上げない」
どの範囲の情報をクラウドに上げてよいか、という問題は、むずかしい問題です。でも、GmailやEvernoteを自分の活動に活用するなら、避けては通れない問題です。そのため、自分なりの指針を考えておく方がよさそうです。
そこで立てた私なりの指針は、「私個人ではない資格で預かった情報は、クラウドに上げない」というものです。
(私個人の資格で預かった情報については、その都度、判断することにします。)
b.ヒントをいただいて、指針を立てた
この指針を立てるにあたって、今回のるうさんのご指摘から、大きなヒントをいただきました。「残念ながら学生のレポートや成績をWebベースのシステムにあげるのに難色を示す施設もあると思うので」という部分です。
ポイントは、「施設が」難色を示す、ということ。今回のケースでは、「大学が」です。
私が個人としてEvernoteを使うことに、なんで大学が難色を示す可能性があるかと言えば、大学講師として私がすることは、私個人の資格での行動ではなくて、大学講師という資格での行動だからです。
私が、私個人の資格でやっていることについては、責任を持たなきゃいけないのは私です。でも、これは同時に、私が責任を持つことができる、ということを意味します。
他方で、私が大学講師という資格でやっていることについては、何かあったときの責任は私が追うべきなのですが、私個人が責任を持てばそれで終わり、というわけにはいきません。大学講師という資格で私が何かをやらかしたら、大学にも責任が生じる可能性があります。私個人の資格ではない資格で何かをした場合、そこから発生する責任は、私個人だけでは持ちきれないわけです。
そのため、「私個人ではない資格で預かった情報は、クラウドには上げない」という指針を立てました。
c.受講生のレポートは、クラウドに上げないことにする
この指針に従えば、受講生のレポートは、クラウドに上げない情報です。
なぜなら、受講生のレポートは、受講生が、大学の講義の単位認定を受けるため、大学講師という資格としての私に提出したものです。とすれば、受講生のレポートは、私個人ではない資格で預かった情報だからです。
そこで、受講生のレポートをクラウドに上げることは、やめました。
2.Evernoteのローカルノートブック
(1) クラウドに上げない情報を、Evernoteのシステムに組み込むための選択肢としての、ローカルノートブック
どのような指針であれ、クラウドに上げない情報の指針を設定すれば、Evernoteのサーバーに保存できない情報が出てきます。そこで、Evernoteのサーバーに保存できない情報をどうするか、という問題が発生します。
ひとつの選択肢は、Evernoteでそのような情報を管理しない、そのような情報は別のシステムで管理する、というものです。
これに対して、Evernoteのサーバーに上げずに、Evernoteで管理する、という選択肢もあります。るうさんもツイートで述べていたように、それは、ローカルノートブックを使う、という方法です。
Evernoteは、ローカルノートブックという機能を持っています。ローカルノートブックは、Evernoteのサーバーと同期されないノートブックです。このノートブックに入っているノートは、そのコンピュータだけに存在します。クラウド上には上がりません。
「ローカルノートブックとは、作成されたコンピューターのみに存在するノートブックです。Windows、Mac および Web 上で作成された Evernote の新規ノートブックは、初期設定ではすべての Evernote の入ったコンピュータとデバイスで同期されますが、ローカルノートブックは同期されません。新規ノートブック作成時、ノートブックの種類をローカルノートブックに設定できます。作成後にノートブックの種類を変更することはできませんのでご注意下さい。」
クラウドに上げない情報をEvernoteに保存するためには、ローカルノートブックの中に保存すればOKです。
参考
Evernote無料ユーザーなら絶対知っておくべきローカルノートブック機能
(2) ローカルノートブックの動き方
ローカルノートブックの動き方には、いくつか覚えておくとよいことがあります。
a.ローカルノートブック内のノートも、検索対象になる
ローカルノートブックを保存してあるパソコンのEvernoteクライアントからの検索なら、ローカルノートブックに保存してあるノートも、検索の対象になります。検索にヒットしたノートがローカルノートブックに保存されたノートであっても、普通のノートブックに保存されたノートであっても、同じように表示されます。
b.普通のノートブックとローカルノートブックを一緒のスタックにすることはできる
ローカルノートブックは、普通のノートブックと一緒のスタックにまとめることができます。こうしてできたスタックを選択すれば、そこに表示されるノートは、スタック下にあるノートブック(ローカルノートブックと普通のノートブック)両方に保存されているノートです。
c.「すべてのノート」に、区別なく並ぶ
ローカルノートブックに保存されているノートも、普通のノートブックに保存されているノートも、「すべてのノート」のビューにすれば、区別なく並びます。
e.「関連するノート」機能が使えない
ここまで3つは、(ローカルノートブックを保存してあるパソコンから使うかぎり、)ローカルノートブックに保存してあるノートも、普通のノートブックに保存してあるノートも、どちらでも変わりがないことでした。
でも、ローカルノートブックに保存してあるノートなのか、普通のノートブックに保存してあるノートなのかによって、動き方が変わる点があります。それは、「関連するノート」です。「関連するノート」機能は、Evernoteのサーバーが処理している機能なので、ローカルノートブックはこの機能を使えないのです。
具体的には、次の2点です。
- ローカルノートブックに保存してあるノートを開いても、「関連するノート」が表示されない
- ローカルノートブックに保存してあるノートは、「関連するノート」として表示される対象にならない
(3) ローカルノートブックから価値を引き出すための条件は、母艦が決まっていること
このように、ローカルノートブックに保存してあるノートが、普通のノートブックに保存してあるノートとちがうのは、要するに、「関連するノート」機能だけです。とすれば、「関連するノート」機能を重視しないのであれば、ローカルノートブックであろうが、普通のノートブックであろうが、どちらでもよいことになります。
ということは、母艦が決まっている人、つまり、Evernoteを使うメインのパソコンが決まっている人なら、そのパソコンにローカルノートブックを作れば、ローカルノートブックであることをそれほど意識せずに、便利にEvernoteを使える、ということです。
(4) ローカルノートブックでも、Evernoteを使う意味がある
Evernoteの特徴は、クラウドだということです。これに対して、ローカルノートブックは、データをクラウドに上げずに、手元のパソコンだけにデータを保存します。この用途は、Evernoteの特徴であるクラウドと関係ないので、Evernoteの本領をぜんぜん発揮できていないようにも思えます。ローカルノートブックを使ってまでEvernoteを使うことに、なにか意味があるのでしょうか。
私は、あるのではないかと思っています。クラウドであることは、Evernoteの特徴ではありますが、唯一の強みではありません。Evernoteには、他にも、こんな強みがあります。
- ノート、ノートブック、タグという機能で、あらゆる電子データを保存できる
- 強力な検索機能で、Evernoteに保存した情報をかなり自由に引き出すことができる
- あるひとつのノートから別のノートへと簡単に移動できる
- 「ノートを保存する」という動作をする必要がない
- ウェブクリップやフォルダインポートなど、いろんな方法でEvernoteに情報を追加できる
- 膨大な数のノートを保存しても、動作があんまり重くならない
特に、ひとつのノートから別のノートへと簡単に移動できることと、「ノートを保存する」という動作をする必要がないことは、Evernoteで文章をどんどん書くには、すごくありがたい機能です。
Evernoteのこれらの強みは、これらだけで、Evernoteを十分に強力な知的生産システムにしてくれます。クラウドというEvernoteの重要な特徴を使わなくても、Evernoteを使う意味は、十分にあります。
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