WorkFlowyを、赤坂シナモンの地下迷宮みたいにしたい(その1)
目次
1.『ねじまき鳥クロニクル』赤坂シナモンが統べるコンピューターの地下迷宮
『ねじまき鳥クロニクル』の中で私がいちばん好きな登場人物は、赤坂シナモンです。
(ちなみに、第2位がマジックタッチの叔父さんで、第3位が牛河さん。)
赤坂シナモンにまつわるエピソードには、たとえば「時速60キロ以上のスピードをほとんど出したことがない世界でも稀なポルシェ911」など、おもしろいものがたくさんあるのですが、その中でも私が特に好きなのは、コンピューターによる地下迷宮です。
ナツメグの話によれば、シナモンはそのコンピューター・システムを隅々まで徹底してカスタマイズしていた。彼はもともとの機械をパワーアップし、自分で複雑なデータベースを作り、プログラムを暗号化し、他人には簡単にそれを開くことができないように巧妙な仕掛けを施した。通路が三次元的に錯綜したその地下の迷宮を、シナモンは十本の指で強固に支配し、綿密に管理していた。すべてのルートは彼の頭の中に系統的に刻み込まれ、キーボードの操作ひとつでどこにでも好きな場所にショートカットでジャンプすることができた。しかし、事情を知らない侵入者は(つまりシナモン以外のすべての人間は)、特定の情報のありかに辿り着くまでにそれこそ何ヶ月も迷路を引きずりまわされかねない。しかもいたるところに警報装置と落とし穴が隠されている。
(中略)
そこにはたぶん顧客リストから複雑な二重帳簿にいたるまで、ナツメグとシナモンが係わってきた仕事の機密が詰め込まれているはずだ。でもそれだけではあるまいと僕は推測していた。
『ねじまき鳥クロニクル 第3部』p.275
私は、この地下迷宮の、どこにそんなに惹かれているのでしょうか。
まずは、コンピューターを隅々まで徹底的にカスタマイズして使うということ自体に惹かれるんだろうと思います。
シナモンはそのコンピューター・システムを隅々まで徹底してカスタマイズしていた。
それから、カスタマイズのあり方。
通路が三次元的に錯綜したその地下の迷宮を、シナモンは十本の指で強固に支配し、綿密に管理していた。すべてのルートは彼の頭のなかに系統的に刻み込まれ、キーボードの操作ひとつでどこにでも好きな場所にショートカットでジャンプすることができた。
「地下の迷宮」のような複雑なデータベースに、いろんなルートが敷かれていて、キーボードからのショートカットだけで、自由自在にジャンプすることができること。このカスタマイズのあり方は、私の理想です。
さらに、シナモンは、この徹底的なカスタマイズを施したコンピューターを、一体なんのために使っているのか、に関する、このくだり。
そこにはたぶん顧客リストから複雑な二重帳簿にいたるまで、ナツメグとシナモンが係わってきた仕事の機密が詰め込まれているはずだ。でもそれだけではあるまいと僕は推測していた。
顧客リストや二重帳簿だけでなく、なにを詰め込んでいるのか、『ねじまき鳥クロニクル』の中でストレートに説明されることはありません。でも、岡田亨に示された「ねじまき鳥クロニクル」という文章からすれば、シナモンがこのコンピューターに詰め込んでいるもののひとつは、彼自身の物語です。シナモンは、このコンピューターを使って、満州の動物園や潜水艦が出てくる、大きくて深くて長くて精緻な、彼自身の物語を紡いでいます。
ある意味、シナモンのコンピューターは、シナモンの物語そのものでもあります。シナモンのコンピューターは、シナモンという人間と同じだけの深さを備えているのです。
あるいは彼らは通信アクセスを足場にして、外部からシナモンのコンピューターに入り込んで、この場所の秘密を知ろうとしているのかもしれない。でもそれについては僕はあまり心配しなかった。このコンピューターの奥の深さは、シナモンという人間の深さそのものだったからだ。そして彼らはシナモンという人間の計り知れぬ深さを知らないはずだ。
『ねじまき鳥クロニクル 第3部』p.338
赤坂シナモンは、徹底的にカスタマイズしたコンピューターで自分自身の物語を紡ぐことによって、そのコンピューターの中に、自分自身が統べる地下迷宮を作り上げています。
2.WorkFlowyの唯一のアウトラインは、地下迷宮のような存在になる
(1) 抽象的なあこがれは、WorkFlowyによって、具体的に実現しうる
赤坂シナモンがコンピューターで作る地下迷宮は、私のあこがれでした。
徹底したカスタマイズ、キーボードショートカットで自由に動き回れるデータベース、コンピューターの中にテキストで自分自身の物語を紡ぐこと。
でも、私には、コンピューターを隅々までカスタマイズする技術はありません。実際にこれを実現するのはむずかしいだろうなと感じ、赤坂シナモンのコンピューターに対する私の気持ちは、抽象的なあこがれにとどまっていました。
ところが、WorkFlowyを使い始めて約1ヶ月が経ち、先日、ふと感じたことは、このWorkFlowyの唯一のアウトラインが、赤坂シナモンの地下迷宮のような存在になるのではないか、ということです。
WorkFlowyによって、抽象的なあこがれを具体的に実現する道筋が、ぼんやりと見えた気がします。
(2) 赤坂シナモンの地下迷宮の魅力的なポイントをWorkFlowyで実現するには?
WorkFlowyをシナモンの地下迷宮のようにするには、どうしたらいいでしょうか。上であげた3つのポイントごとに、試案のような方向性を整理します。
a.徹底的なカスタマイズ
ひとつめは、徹底的なカスタマイズ。
赤坂シナモンが地下迷宮を支配していた当時は、スタンドアロンのコンピューターとパソコン通信の時代です。なので、シナモンがカスタマイズした対象は、コンピューターでした。
でも、今はクラウド全盛のウェブ時代です。カスタマイズの対象は、コンピューターではなく、クラウドサービス、ここではWorkFlowyです。
今のところ、私がしているWorkFlowyのカスタマイズは、大きく分けて、次の3つです。
(a) WorkFlowyのトピックの階層構造をカスタマイズする
WorkFlowyの基本であり極意は、トピックの階層構造の組み立て方ではないかと思います。この組み立て方次第で、WorkFlowyをいろんな用途に使えるはずです。
トピックの階層構造のカスタマイズが、WorkFlowyの地下迷宮カスタマイズの基本です。
(b) WorkFlowyのハッシュタグの仕組みを作る
ハッシュタグは、シンプルだけれど便利な機能です。
シンプルなだけに、いろんな使い方が可能なので、ハッシュタグの仕組みを作ることは、WorkFlowy地下迷宮カスタマイズの重要な一部です。
(c) WorkFlowy専用Firefoxをカスタマイズする
今、私が、パソコンからWorkFlowyにアクセスするときに使っているのは、「WorkFlowy専用Firefox」、つまり、WorkFlowyを使うためだけに使っているFirefoxです。
「WorkFlowy専用Firefox」によって、パソコンからのWorkFlowyを、さらに強力なツールに育て上げる(Windows&Mac)
「WorkFlowy専用Firefox」は、私が勝手にWorkFlowy専用で使っているだけで、普通のFirefoxです。なので、Firefoxにできるカスタマイズなら、なんだってできます。
特筆すべきは、豊富なアドオンです。「WorkFlowy専用Firefox」は、いってみれば汎用機ではなく専用機なので、WorkFlowyの使い勝手を高めることだけに特化して、アドオンを入れることができます。
「こんなことを実現したい」という明確な目的意識をもってアドオンを探せば、しっくりくるアドオンと出会える可能性は高そうです。
b.三次元的に錯綜した地下迷宮を動き回るルート
ふたつめは、三次元的に錯綜した地下迷宮を動き回るルートを縦横無尽に敷き、キーボードショートカットひとつでそのルートを自由自在に動き回れるようにすること。
赤坂シナモンは、コンピューター内にいくつものルートを敷いて、コンピューター内のデータベースの中を自由自在に動きまわっていました。でも、ウェブ時代の地下迷宮はクラウドの中です。私が敷くべきルートは、クラウドアウトライナーWorkFlowyを自由自在に動き回るためのルートです。
このルートは、大きく分けると、次の2つです。
(a) WorkFlowy自体の機能によるルート
まず、WorkFlowy自体が、WorkFlowyの唯一のアウトラインの中を動き回るための機能を持っています。
スターページ、ハッシュタグ、検索がアウトライン内を移動するための基本機能です。これだけでも相当複雑なルートを敷くことができます。
さらに、WorkFlowyのURLがあります。
WorkFlowyのURLの基本と「保存された検索」のような活用例
WorkFlowyのURLを活用するアイデアを妄想する(その1・ブックマークに登録)
(b) WorkFlowy専用Firefoxによるルート
WorkFlowy内にルートを張り巡らすには、WorkFlowy専用Firefoxも便利です。というよりは、WorkFlowy専用Firefoxの真価は、WorkFlowyの中にルートを張り巡らすところにこそある、と言えます。
WorkFlowy専用Firefoxによるルートは、WorkFlowyのURLのブックマークそのものです。WorkFlowy専用FirefoxでWorkFlowyのURLをブックマークするだけで、WorkFlowyの中を駿足で移動できるルートを敷くことができます。
ブックマークなので、並べ替えも自由自在ですし、フォルダで階層化することも、区切り線を入れることもできます。命名の制約もありません。
WorkFlowy専用Firefoxを使えば、WorkFlowyの三次元的に錯綜した地下迷宮の中に、便利なルートを縦横無尽に張り巡らすことができます。
c.自分自身の物語
みっつめは、赤坂シナモンがコンピューターの中に彼自身の物語を紡ぎ続けている点です。
赤坂シナモンは、母である赤坂ナツメグとの間で繰り返し繰り返し語り合った物語をベースにして、ひとりだけで自分の深みに潜って、物語を紡いでいます。自分以外の誰かのためではない、自分だけのための物語を、自分だけの力で、コツコツと紡ぎ続けています。
ひとりだけで自分の深みに潜ることは、たぶん、自分自身の物語を紡ぐための王道なのでしょう。でも、このウェブ時代なら、物語の紡ぎ方には、もうひとつ別の道筋があります。ひとりだけでひっそりと紡ぐのではなく、自分が物語を紡ぐ過程を、ウェブに公開してしまう、という道筋です。
未完成の物語全体から、暫定的で断片的な一部分を切り出して、継続的に、ウェブに公開し続ける。公開した物語を起点とするやりとりをしたり、自分の物語を他者に伝えようと工夫したりすること自体から、物語へのフィードバックをいただく。フィードバックによって物語全体をさらに育てる。
ウェブ時代の物語の紡ぎ方には、こんな循環があります。
さて、こんな物語の紡ぎ方をWorkFlowyで実現するには、どうしたらいいでしょうか。自分なりの方針は、次の3つです。
(a) 暫定的な作品群を切り取り続けながら、WorkFlowy全体を変化させ続ける
今、私は、毎日WorkFlowyにいろんな文章を書いています。この原動力の重要な部分は、この「単純作業に心を込めて」というブログから来ています。WorkFlowyから切り取った暫定的な作品群をこのブログに公開できるからこそ、私は、すきま時間を見つけたらすかさずiPhoneかMacBook Airを開いて、WorkFlowyで何らかの文章を書き進めることができています。
WorkFlowyで文章を書き進めてWorkFlowy全体を変化させ続けることと、WorkFlowyから切り取った暫定的な作品群をこのブログに公開すること。この両者が車輪の両輪となって進んでいるのが、今の私の物語です。
これからも、両者をつなぐマロ。さんのハサミスクリプトの助けを借りて、暫定的な作品群を切り取り続けながら、WorkFlowy全体を変化させ続けていければいいなと思います。
WorkFlowyの有機体から、暫定的な作品群を切り出す。AppleScript「WF2html_p3.scpt」による魔法を公開します。
(b) ボトムアップで紡ぎながら、『千夜一夜物語』のような全体構造を求め続ける
WorkFlowyに自分の物語を紡ぐとして、私が求める物語は、はっきりした筋のあるストーリーではありません。最初に物語全体の筋を決めて、その筋に沿った記述を積み重ねていく、という物語の紡ぎ方は、たぶんちがいます。
それよりも、ボトムアップで紡いでいこうと思います。日々の生活の中で経験したことや試行錯誤したことを全部WorkFlowyに放り込んで、そこから少しずつ物語を育てていこうと思います。
WorkFlowyはアウトライナーなので、ボトムアップの集積に全体構造を与えることが得意です。ボトムアップで紡いでいくことを続けていれば、いつか、『千夜一夜物語』のような全体構造が生まれてくるような気がします。
「単純作業に心を込めて」を、『千夜一夜物語』みたいなブログにしたい。
(c) 暫定的な作品群に対するフィードバック全部を、ありがたく取り込む
私がWorkFlowyで紡ぐ物語は、ブログやTwitterなどのウェブとセットです。
暫定的な作品群をブログに公開すれば、何らかのフィードバックを得られます。また、まだブログに投稿するほどのまとまりができていない断片をTwitterに放流すると、リツイートやファボなどのフィードバックをいただけることがあります。
これらのフィードバック全部をWorkFlowyに取り込めば、きっとWorkFlowyの物語は、その分、深くなります。私という人間の深みとだけでは物語の深みが物足りないので、フィードバック全部をありがたく取り込むことで、物語を深めていけたらなと思います。
3.おわりに
WorkFlowyを本格的に使い始めて約1ヶ月、私は、WorkFlowyを使えば、赤坂シナモンが徹底的にカスタマイズしたコンピューターによって作った地下迷宮のようなものを実現できるんじゃないか、と感じています。
でも、具体的なところは、まだまだです。
徹底したカスタマイズ、縦横無尽に張り巡らすルート、物語を紡ぐ方法。
どれもいろんな可能性を持っているテーマなので、これからも、「WorkFlowyを赤坂シナモンの地下迷宮みたいにしたい」という気持ちを大切に、試行錯誤を続けていきます。
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