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「忘れる」ためのタスク管理と、「思い出す」ためのタスク管理

公開日: : 仕事の方法論

1.タスク管理の抽象論:「忘れる」ためのタスク管理・「思い出す」ためのタスク管理

ある日,いままでそっち方面は興味を示さなかった知人が突然「タスク管理はじめてようかな」とつぶやいたので驚きました.びっくりするうれしさと同時に,でも,本当の素人に,1からタスク管理を知ってもらって,おっくうがらずに始めて,楽しんで使って貰うためにはどうすればいいのか?と考えたら すごく悩んでしまいました

タスク管理を始めようと思っているあなたに [ライフハック][思索系] | るうマニアより)

少し前、ここに一部を引用した記事を読みました。ここに引用した記載からも伝わるのではないかと思いますが、この記事には、タスク管理についての真摯で誠実な考察が綴られています。

この記事の中に、こんな一節があります。

忘れるためのメソッドと思い出すためのメソッド

もし期限のある仕事が細切れに多くて,期限や内容を頭で制御するのが困難だという悩みが主なら いわゆるタスク管理システム(リマインダーでもtoodledでも)を活用することでそうした雨降りのように振ってくる雑務を忘れることができます.

一方で,期限管理はそれほど逼迫してないけれど,やらなければいけない作業が複雑になりすぎて,全部のコツを覚えて必要に合わせて思い出す,という作業で頭ががいっぱいいっぱいと言う人は,Evernote(文書作成の場合はScrivener)ですべての工程に対するmy手順書を作製することで,工程を覚えておく・思い出すという手間を一切省くことができます.

タスク管理を始めようと思っているあなたに [ライフハック][思索系] | るうマニアより)

「忘れるためのメソッドと思い出すためのメソッド」という言葉に、ハッとさせられました。この視点は、タスク管理によって何を実現したいのかを考える上で、欠かせない視点ではないかと感じます。

この、「忘れる」ためのタスク管理と「思い出す」ためのタスク管理というものを、以下、いくぶん抽象的に考察してみます。

2.「忘れる」ためのタスク管理

(1) 「忘れる」ためのタスク管理とは?

「何のためにタスクを管理するの?」と聞かれたときに、まず思い浮かぶ素朴な回答は、「タスクを忘れないため」です。でも、世の中にタスク管理をしていない人はたくさんいますが、世の中にタスクを忘れる人はあまりいません。タスク管理なんてしなくても、私たちは、タスクを忘れたりしません。

では、タスク管理は何のために存在するのでしょうか。るうさんは、「忘れる」ためだといいます。これは、どういうことでしょうか。

もし期限のある仕事が細切れに多くて,期限や内容を頭で制御するのが困難だという悩みが主なら いわゆるタスク管理システム(リマインダーでもtoodledでも)を活用することでそうした雨降りのように振ってくる雑務を忘れることができます.

タスク管理を始めようと思っているあなたに [ライフハック][思索系] | るうマニアより)

期限のあるタスクをたくさん抱えているけれど、タスク管理をしていないなら、自分が抱えているタスクをし忘れないためには、タスクのことをいつも覚えておかなければいけません。タスクを忘れてしまうと、タスクをすること自体を忘れてしまいます。タスクを忘れてしまうと、タスクをし忘れてしまうので、タスクを忘れることができません。

でも、タスク管理をすれば、自分でタスクを覚えておく必要はありません。そのタスクに取り組んでいないときは、タスクのことを忘れていても、問題ありません。必要なタイミングで、タスク管理システムが、タスクのことを教えてくれるからです。ですから、普段はタスクのことを忘れることができます。

つまり、タスク管理の存在意義は、「タスクをし忘れないこと」ではなくて、「タスクを忘れること」にあります。より正確に、よりわかりやすくいえば、タスク管理が可能にするのは、「タスクに取り組んでいないときに、タスクの存在を忘れること」です。

これが、「忘れる」ためのタスク管理です。

(2) なんのために「忘れる」のか?

では、タスクを「忘れる」ことの意義は何でしょうか。今取り組んでいないタスクの存在を「忘れる」ことには、どんなメリットがあるのでしょうか。

2つあります。

a.今取り組んでいるタスクに集中できる

ひとつは、今取り組んでいるタスクに集中できる、ということです。

今取り組んでいるタスクに集中するためには、今取り組んでいないタスクのことを気にしない、ということが大切です。今取り組んでいないタスクの存在を「忘れる」ことで、自然と、今取り組んでいるタスクに対して集中することができます。

b.今取り組んでいないタスクの存在に脅かされない

ふたつめは、精神衛生上の問題です。今取り組んでいないタスクの存在を「忘れる」ことができれば、今取り組んでいないタスクの存在に脅かされることがなくなります。

ストレスの多くは、今取り組んでいるタスクの難しさや面倒くささから来るものではなくて、今取り組んでいないタスクの存在から来るものではないかと感じます。できないんじゃないかと不安に思ったり、今取り組んでいないタスクの多さにうんざりしたり、というのは、全部、今取り組んでいないタスクの存在から脅かされています。

でも、「タスクを忘れる」ことができれば、つまり、「今取り組んでいないタスクの存在を忘れる」ことができれば、これらは全部なくなります。

精神衛生上、とても快適になります。

(3) 「忘れる」ためには、何が必要か?

「今取り組んでいないタスクの存在を忘れる」ことには、メリットがあります。でも、これはなかなかむずかしいです。なぜかといえば、「今取り組んでいないタスクの存在を忘れる」と、取り組まなければいけないタイミングになっても、そのタスクの存在を忘れたままになり、結局、そのタスクをし忘れる、ということになってしまうかもしれないからです。

そのため、「今取り組んでいないタスクの存在を忘れる」ためには、「今後、そのタスクに取り組まなければいけないタイミングになったときは、そのタスクの存在を確実に思い出せる」という確信が必要です。

タスク管理の役割のひとつは、この確信を持たせてくれる、ということです。

そこで、「忘れる」ためのタスク管理は、

  • 自分に変わって、タスクの存在を記憶してくれること
  • それぞれのタスクに取り組む必要が生じたタイミングに、そのタスクの存在を思い出させてくれること

という2つを満たす必要があります。

やらなくちゃいけないことを安心して忘れるため、タスクを管理する

3.「思い出す」ためのタスク管理

(1) 「思い出す」ためのタスク管理とは?

タスクの中には、適切なタイミングでタスクの存在を思い出せたとしても、そのタスクをうまく片付けるためのやり方が複雑でむずかしい、というタスクもあります。

たとえば、今週が山場の確定申告は、毎年3月中旬までに申告しなければいけない、というタスクの存在を思い出すことは簡単ですが、タスクの片付け方が若干複雑でむずかしいです。

このときに大切になるのが、「思い出す」ためのタスク管理です。

一方で,期限管理はそれほど逼迫してないけれど,やらなければいけない作業が複雑になりすぎて,全部のコツを覚えて必要に合わせて思い出す,という作業で頭ががいっぱいいっぱいと言う人は,Evernote(文書作成の場合はScrivener)ですべての工程に対するmy手順書を作製することで,工程を覚えておく・思い出すという手間を一切省くことができます.

タスク管理を始めようと思っているあなたに [ライフハック][思索系] | るうマニアより)

るうさんの記事によれば、ここで「思い出す」対象は、

  • 工程
  • 手順
  • コツ

です。

タスクを片付けるための工程や手順やコツを管理することによって、工程を自分で覚えておいたり、手順やコツを思い出す手間を省くことができます。

(2) なんのために「思い出す」のか?

工程や手順やコツは、覚えていても、邪魔になりません。今の作業に集中することの邪魔にも、日々を平穏に過ごすための邪魔にも、なりません。

でも、工程や手順やコツは、複雑でむずかしいので、普通は、忘れてしまいます。全部は覚えていられません。

そこで、タスク管理によって、これを「思い出す」ことによってカバーする必要が生じます。

工程や手順やコツを記憶の外部に記録して、「思い出す」ようにすると、いくつかのメリットがあります。

まず、外部に記録した手順やコツに従うと、失敗が減り、成果が安定します。

また、いちいちやり方を思い出したり調べたり、といった手間がなくなるので、時間を短縮できます。

さらに、自分でメモした工程や手順やコツを見ることで、過去の経験を踏まえて作業に当たれるため、自信を持ってタスクを片付けることができます。

結果として、通常、アウトプットの質も高まります。

(3) 「思い出す」ためには、何が必要か?

「思い出す」ためのタスク管理に必要なことは、ふたつです。

a.必要な事柄を外部に記録する

まず、工程や手順やコツなど、自分がそのタスクに取り組むときに必要な事柄を、自分の頭の外部のどこかに、記録することです。

記録の内容は、将来、そのタスクに取り組むことになった自分が必要とする程度の情報量が、必要十分です。無駄に細かくする必要はありません。でも、今の自分ではない将来の自分が見ても分かる程度にはきちんと書いておく必要があります。

b.そのタスクに取り組むときに、その記録にアクセスする

次に、そのタスクに取り組む状況に置かれたときに、その記録にアクセスして、その記録を見ながらタスクをこなす、ということです。

将来のために工程やコツを書いた手順書を用意しても、いざタスクに取り組むことになったときに、その手順書を見なければ、何の意味もありません。

「思い出す」ためには、そのタスクに取り組むときに、記録にアクセスする必要があります。

記録にアクセスするために大切なのは、記録の置き場所です。たとえば、

  • Evernoteに手順書を記録し、ノートリンクを作成
  • Toodledoのメモ欄にノートリンクのURLを記載

という仕組みを作れば、手順書にアクセスできる可能性が高まります。

4.「忘れる」ためのタスク管理と「思い出す」ためのタスク管理

タスク管理には、「忘れる」ためのタスク管理という側面と、「思い出す」ためのタスク管理という側面があります。

「忘れる」と「思い出す」という反対の言葉なのですが、それぞれを正確に表現すると、こうなります。

  • 「忘れる」ためのタスク管理とは、「タスクに取り組んでいないときに、そのタスクの存在を忘れる」ためのタスク管理
  • 「思い出す」ためのタスク管理とは、「タスクに取り組むときに、そのタスクの工程や手順やコツを思い出す」ためのタスク管理

「忘れる」ためのタスク管理と「思い出す」ためのタスク管理を考えてみたら、このふたつのタスク管理は、お互い矛盾することなく、補い合いながら、ひとつのタスク管理システムを作るのではないかと感じました。

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