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「ここにいたんだ」

公開日: : 最終更新日:2015/08/01 単純作業に心を込める

1.『宇宙兄弟』の「ここにいたんだ」

『宇宙兄弟』が好きです。

どこも安定しておもしろいのですが、とりわけ、閉鎖ボックス編をおすすめします。

閉鎖ボックスは、宇宙飛行士選抜試験の3次審査です。それまでの審査をくぐり抜けた受験者たちが、5人一組で、宇宙船を模した閉鎖環境に放り込まれ、JAXA管制から課される様々な課題に取り組みます。こんな閉鎖ボックスの中、受験者たちの間で繰り広げられる人間ドラマは大変おもしろく、グリーンカードやじゃんけんなど、ぐいぐい引き込まれます。

そんな閉鎖ボックス編で、私が一番好きなのは、六太たち5人がうどんを作るシーンの、「ここにいたんだ」という台詞です。

閉鎖ボックスでの生活も残り2日の日、六太たちは、うどんを作ります。福田さんの「南波君はうどんの作り方までよく知ってるね」という言葉に、六太が「シャロンおばちゃんって人のところで作ったことがある」と答えると、一同は「シャロン」に「えー!?」と反応します。そして、シャロンおばちゃんの話やマニアックな宇宙の話などで、大いに盛り上がります。

このとき、六太が心の中でつぶやいた台詞が、「ここにいたんだ」です。

ここにいたんだ

誘ったら喜んでついて来てくれそうな連中が…

ここにいたんだ

六太のうれしさや楽しさがが伝わってきて、ほんとうに、大好きです。

私たちはうどんを作りながら いっぱい話した

サーベイヤー3号に付着していた微生物のこととか 昔 話題になった火星の人魚のこととか

けっこうマニアックな話もした

俺の話が通じてる—!

みんなの話も手に取るようにわかる 楽しい!

とにかく 楽しかった

2.彩郎の「ここにいたんだ」

六太の「ここにいたんだ」に惹かれる理由のひとつは、私自身が、「ここにいたんだ」と感じられる出会いに恵まれたからかもしれません。

大学生のころの私は、知的生産にあこがれていました。『知的生産の技術』、『知的生活の方法』、『「超」整理法』など、知的生産に関連しそうな新書を読みあさったり、情報カードや手帳、ダーマトグラフや三色ボールペンなど、知的生産を助けてくれそうなアナログ文具を試したり、データベースソフトやテキストエディタやアウトラインプロセッサなど、知的生産のために使えそうなアプリケーションの使い方を勉強したりといったことが、当時の関心事でした。

でも、知的生産というテーマで、友人と一緒に盛り上がったことはありません。

「『知的生産の技術』は王道だと思うんだけれど、自分の性格だと、『「超」整理法』のポケット一つ原則の方がうまく機能するんだ」とか、「最近、[Story Editor]というアウトライン・プロセッサを使い始めたんだけれど、[nami2000]とはトピックの扱い方にちょっと違いがあるような気がするんだ」とか、「三色ボールペン方式の肝は、客観系統と主観系統の区別だと思うんだけど、具体的な道具の使い方と頭の使い方が絡み合ってるところがすごいと思う」とか、そういう話を友人と語りあうことはありませんでした。実際になかっただけでなく、そもそも、そんな話を友人とするという発想自体、持っていませんでした。

ところが、ここ最近の私は、主にTwitterやブログにおいて、たくさんの方と、知的生産の話で盛り上がっています。

「WorkFlowyとEvernoteのちがいは、ノートの杭があるかないかで、これが全体として流動的な有機体であるかどうかに繋がるんだよ!」とか、「WorkFlowyにおける「ただ一つのアウトライン」には、WorkFlowy開発陣の思想があるんじゃないか」とか、「OmniOutlinerとWorkFlowyは、エンターキーの挙動に違いがあって、この違いが、両者を文章を書くためのツールとして使うときの使い勝手に影響する」とか、そんな話で盛り上がっています。

また、話を楽しむだけでなく、いくつかの具体的な知的生産ツールを生み出すこともできました。たとえば、Evernoteからノートの一部を切り出すスクリプト、WorkFlowyからHTMLを切り出すスクリプト、WorkFlowyからタスクリストを書き出すスクリプト、WorkFlowyを専用アプリのようにする「WorkFlowy専用Firefox」、WorkFlowyで三色ボールペン方式を実践するための「三色ボールペンWorkFlowy」などです。

この一連の出来事をふり返ると、うどんをこねる六太の台詞と同じような台詞が、私の心の中に浮かびます。

ここにいたんだ

WorkFlowyのキーボードショートカットを実演したら「おー!」と反応してくれる方々が

ここにいたんだ

私たちは段差に書き込みながら いっぱい話した

WorkFlowyが競合する変更を処理する仕組みのこととか OmniFlowという名称がありかなしかということとか

けっこうマニアックな話もした

私の話が通じてる—!

みんなの話も手に取るようにわかる 楽しい!

とにかく 楽しかった

3.ウェブにブログを書き続けることと、「ここにいたんだ」という方々との出会い

私にとって、「ここにいたんだ」という方々との出会いは、ほんとうにすてきなものです。これがどれくらいすてきなのかは、ちょっと言葉にできません。こんなすばらしい出来事が自分の人生に訪れてくれたことを、しみじみと感謝しながら、「なんでこんなすてきなことが訪れてくれたんだろうか」と考えることがあります。

六太が「ここにいたんだ」という方々と出会えたのは、宇宙飛行士選抜試験という場に、自分から飛び込んだからです。

でも、私が「ここにいたんだ」という方々と出会えたのは、必ずしも、自分からどこかに飛び込んだからではありません。

私がしてきたのは、言ってみれば、ブログに文章を書き続けること、ただそれだけです。知的生産に関するいろんなことをブログに書き続けていたら、あるときにある人との出会いが訪れ、またあるときに別のある人との出会いをいただき、そんなふうに一人ずつ一人ずつと、出会うことができました。そして、これらの出会いの多くに、私は、そんな方々に自分を見つけていただいた、という感覚を持っています。

「価値とは見出されるものだ」。これは、倉下忠憲さんの言葉です。

R-style » 作品を出すこと・作品を評価すること

倉下忠憲さんは、ウェブ時代のセルフブランディングで大切なのは、「自分のやりたいことを徹底的に追求し、それをネットに出していく」ことだと述べます(『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』p.234)。

自分のやりたいことを追求し、ウェブに蓄積する。これを続けると、ウェブに蓄積された自分のやりたいことに、価値を見い出してくださる方が現れる。これが、倉下さんが解説する現象です。

自分の持ち味を発揮することと、価値を見い出されること。『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』

『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』(倉下忠憲)

私に訪れた「ここにいたんだ」という方々との出会いは、おそらく、倉下さんが解説する、この現象の幸運な一例です。

ウェブにブログを書き続けることは、幸運に恵まれれば、「ここにいたんだ」という方々との、すてきな出来事を引き寄せてくれるかもしれません。

【おまけ】マンガや小説に絡めて書いた文章のリスト

『宇宙兄弟』

「夢のドア」とタスクのドア。GTDの思想

『ハイキュー!!』

“その瞬間”が有るか、無いか(ハイキュー!第89話「理由」のネタバレあり)

『終末のフール』

伊坂幸太郎『終末のフール』の中の、私が好きな言葉たち【一部ネタバレあり】

8年後に世界が滅びることを知ってからの5年間を、どう生きるか(『終末のフール』感想文)

村上春樹のいろいろ

『ねじまき鳥クロニクル』

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『ノルウェイの森』

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